あの後、何度か激突した。
正直、少女と私の力量は同じくらいだった。
違うのは力の運用方法。
彼女は魔力を体のどこかに纏わせて攻撃を放つことが多かった。
対して私は武器自体に力を纏わせて強化していた。
先程から体術も含まれてきているのだが、全く倒せるような未来が見えない気がする。
少女の攻撃の例を挙げるとすれば、まず、普通に斬りかかってくる。それを私が受けると、剣をずらし、背を低めて足払い。慌てて私が姿勢を直すと、私の顔面に向かって正拳突き。
はっきり言ってスタイルが変わりすぎだ。
剣かと思ったら足、足かと思ったら拳。拳かと思ったら足になり、足かと思ったら拳になる。
剣かと思えば槍、槍かと思えば鎌。そんな近接的な攻撃だけかと思えば、光弾や飛び道具。
正直、全く予想ができない。
しかも少女は汗をかいていない。
つまり、少女はこれを苦だとは思っていないということだ。
その中でも、特に光弾…つまり術的な攻撃が厄介だ。
その術的な攻撃の中でも…
ある3つの技が厄介だ。
月「スペルカード発動!霊符…」
亡霊(来るっ!!)
月「“夢想封印”っ!!」
1つは夢想封印という技。
いくつかの光弾が私に向かって放たれる技だ。
いくら逃げても私を追ってくる。
亡霊「
複数の
だが…
月「スペルカード発動!恋符…」
少女が構えた。
月「“マスタースパーク”ッ!!!」
亡霊「水の渦よっ!!」
2つ目、マスタースパーク。大きな光線が私に迫る。
少女の攻撃と私の水の渦が激突するが。
月「スペルカード発動!凍符…」
亡霊(また…!)
月「“エターナルフリーズ”ッ!!!!!」
3つ目に面倒だと思う技、エターナルフリーズ。どうやら、周辺を瞬間的に冷やすことで物を凍らせる術のようだ。
それによって私の水の渦が一瞬で凍らされる。
結果、攻撃を抑えきれず、私が作った元・水の渦は粉砕された。
水の渦にしなければいいと思うかもしれないが、実は私と少女が戦っている場所はずっと動いている。
今は空中。地の力は扱いずらい。
…
だったら水とともに炎を、そう思うのはあるのだが。
これが難しいのだ。
まず、水と炎を近づけすぎたら炎が消える。
ならばと思い、離してみると、今度は氷の溶解が遅い。
それならと、氷になった瞬間に最大火力で溶解しようと思ったのだが…
私が0.5秒以下の耐久時間で最大火力を展開できるわけがない。
水の渦で防いでいる理由は単純だ。
それ以外だと押し負けた。
泣きたい。
月「スペルカード連続発動!斬符“
いつの間にか少女の持つ剣の大きさが変わっており、黄緑色に光ったと思うと、少女を中心に風が起こった。
月「斬符“
今度は青色に光ったと思うと、ほぼ垂直に切り上げた。
月「斬符“
同じ色に光ったかと思うと、私から見て右上から左下に。左上から右下に剣をふるった。
月「斬符“
…赤色に光ったのはかろうじて覚えていた。
月「斬符“
こちらは青。しかし、先程より攻撃が重い気がする。
月「斬符“
こちらは赤。何故だろう、先程より少し軽い…?
月「秘奥“
赤に光ったのは同じだった。だが…
亡霊(重っ!?)
一撃の重さが違った。
月「はぁぁぁ!!」
気合とともに少女が光の消えた剣を横一文字に振りぬいた。
それによって私は少し吹き飛ばされた。
亡霊(いっ…たぁ…)
傷はないようだが、痛みはあった。
その後も私と少女は何度も激突した。
その激突が20を超えるだろうと思った時だ。
亡霊「ゥルルル…」
体の方の感情が私に伝わってきた。…怒り。それと憎しみ。
亡霊(…怒りが強くなって攻撃が単調になってき始めてる。流石に限界が近いかもしれない。)
私は少女を見た。
亡霊(あなたは関係ないのに…巻き込んでしまってごめんなさい…)
そんなことを思っていた時だった。
突如、少女の魔力の纏い方が変わった。
初めて、武器に魔力を纏ったのだ。
しかし、私はそれが気になった。
体の方はそれを気にしてもいないのか、少女に近寄っていく。
…同性だからいいが。これ、異性だったらただの変質者な気がする。…気のせいだろうか。
亡霊「シャッ!!」
月「…シッ!!」
少女と私の剣が激突する。
しかし、その時、今までの激突とは違う感じがした。
何かを抜き取られるような…
すると、突然私の体が少女から距離をとった。
同時に少女も私から距離をとる。
亡霊(え…?)
予想外の行動に、私は動揺した。
亡霊「…あなた…何をしたの…?」
月「…さぁ?」
亡霊「とぼけないで!さっきの吸い取られるような感覚…あれはあなたでしょ!!いったい私に何をしたの!?」
月「…知っていたところで、教える義理はないはずでしょう。」
亡霊「…ふz…」
月「私たちはいま敵同士。なら、やることは1つ…違う?」
何故だろう、少女から、冷たい空気が流れている気がする。
亡霊「そう…なら!!」
私の体は構え、少女に突撃した。が。
月「…時間切れ…かな?」
眼前にまで迫った少女がそういうと同時に円状の魔法陣が現れた。
亡霊「っ!!」
私の体はその勢いのまま魔法陣に拳を叩きつけた。
すると、ちいさな爆発が起こった。
私の体は、少しの間その場で動かなかった。
月「…危ない危ない、もうちょっとで間に合わなかったかも。」
少女の声が聞こえると同時に、爆発の煙が消えていった。
少女は無傷だった。
いや…
いや。
それだけではない。
亡霊「何…これ!?」
私の手が鎖で縛られていた。
月「カウンターバインド。私の得意技に近いんだけど…綺麗にかかったね。」
少女がそう言った途端、鎖、輪っか、箱…のようなものが私の体の動きを完全に止めた。
月「…お疲れ、ルナリア。」
亡霊(え…)
ルナリア《
機械音がした。
月「分かってる。ごめんね、心配かけて。」
機械の杖が、戦場に戻った。
ルナリア《
武器が杖の形態に戻った。
月「ランサーセット…」
少女の周りに金色の球が現れた。その数…50。
亡霊(……え!?)
ルナリア《
亡霊「だ、大地の壁よ!!」
私は咄嗟に唱え、少女との間に壁を出現させた。
月「…アルカス・クルタス・エイギアス。疾風となりし天神、今導きのもと撃ちかかれ…」
亡霊「大地の壁よっ!!」
私の体の恐怖心が勝ったのか、もう1枚大地の壁を出現させた。
月「バルエル・ザルエル・ブラウゼル。“フォトンランサー・ファランクスシフト”ッ!!撃ち砕け、ファイアー!!」
ガガガガガガガガッ!!!
見えないのでどうなっているかはわからないが、ものすごい勢いで壁が抉られているのが分かる。
亡霊(…っていうかこれ!破られる!!)
そう思いつつも、防御はやめなかった。
すこしして、衝撃が止まった。
防御自体はもうボロボロで、あと少しで貫通するところだった。
亡霊(た、助か…)
月「“スパークエンド”ッ!!」
亡霊(……え?)
少女の声の後、何かが飛来してきたようで、それによって壁は粉々に砕けた。
亡霊(追い打ち…!?)
まさかの追い打ちである。
見ると、私をとらえていた箱が消滅していた。
亡霊(…まだ動けないんですけど…)
そう思っていると、突如上空が明るくなった。
亡霊(……?…え。)
そこには少女がいた。
しかし、杖の先の球体を見て驚愕した。
亡霊(…何あの大きさっ!?)
少女の体がすっぽり入りそうなレベルである。
亡霊(まずいまずいまずい!!!?あれは絶対にまずい!!!絶対に防御なしで食らっちゃいけない代物だと思う!!!)
直感でそう思えるほど存在感が圧倒的だった。
亡霊「ひ、氷塊の壁よっ!!!」
私の前に10枚もの氷塊の壁が形成された。
月「“スターライト…!」
球体が大きくなったのが一瞬見えた。私は今残っている力を全て壁に注ぎ込んだ。
月「ブレイカー”ーーーーーー!!!」
掛け声のようなものと同時に、大きな光線が放たれた。
…氷塊の壁に光線に衝突した途端、その氷塊の壁10枚全てが、あっけなく割れた。
当然、その光線は私を目指していたわけで。
威力がほぼ落ちないまま、直撃した。
亡霊「ぐぎゃあああああああ!!!?」
亡霊(いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!?)
直撃の痛みで動けない私に少女が近寄ってきた。
機械の杖でなく、三日月の付いた杖を持って。
私は少女の目を見た。
そこには、私にとどめを刺そうという感情は見えなかった。
月「…」
亡霊「…」
少しの間、私たちは見つめ合っていた。
やがて、少女が杖を私に向けた。
月「…神月の巫女の名のもとに…暴れ狂い、そして悲しみを持つものよ。いまここに…汝の暴走を封じ込めんことを…」
杖が光り、私を光が照らした。
温かい、光だった。
月「…これで一応の封印はしたけど…どう?」
亡霊「どう、って…」
そういえば、目の前の少女に殺意が沸いていない気がする。
さらに、心と体の意志が分かれているわけでもない気がする。
亡霊「大丈夫…みたいです。」
月「そっか…よかった。」
少女は軽く微笑んだ。
月「…ねぇ、相談…みたいなものなんだけど。」
亡霊「?」
月「…私と一緒に来ませんか?」
一緒に…?
亡霊「一緒に…とは?」
そう言うと少女は苦笑した。
月「あまり直接言いたくはないんだけど…私の使い魔にならない?って聞いてるんだよね…」
亡霊「使い魔…」
月「あぁ、使い魔って言っても理不尽な…」
亡霊「なります。」
少女が固まった。
月「…一応聞くけど、なんで?」
亡霊「それは…」
私はこの少女とのここまでの話を思い出した。
亡霊「あなたなら、信用できるかも、そう思ったからですかね…」
私の返答を聞いて少女は頭を抱えた。
月「私、なんか高評価貰ってる…?」
亡霊「それに…」
私が声を出すと、少女は私の言葉を待った。
亡霊「救ってもらいましたから。あなたに。抜け出せなくなっていた、場所から。」
月「…そっか。」
少女はそれ以上聞かなかった。
月「じゃあ、使い魔になるってことでいいんだよね?」
亡霊「はい。」
月「分かった。じゃあ、私の前に座っててくれる?」
今がちょうど少女の前なので、ここから動かないようにした。
月「…力を持つものよ。そして我が力になることを望むものよ。その姿をここに映し、我らの力となりたまえ。月を司るもの、“創詠 月”がここに契約を交わさん。」
少女…月が唱えていくと私の体が温かくなっていった。
月「神なる月の杖のもと我らの力となれ!…
月がそう唱えた瞬間、私の存在が何かに吸い込まれる感覚がした。
しかし、嫌な感じはしなかった。
月「…あ。ステラカード…あれ?2枚…?」
ステラカード、というのには聞いたことが無かった。2枚、というのは予想外なのだろう。
月「えーっと、こっちの赤い髪の方がさっき話していたあなただよね。」
はい、と答えたつもりだったが、声にならなかった。
月「改めてよろしくね。私は“創詠 月”。神月の巫女という存在です。えーっとあなたの名前は…」
月…違う。主、創詠 月は私の上の方と下の方を見て少し顔がこわばった。
月「えーっと…この呼び名でいいのかなぁ…」
私はどんな名前でも構いませんよ、という思念を送ってみた。
月「あなたがそういうならいいけど…それにしても…」
主は私と隣のカードを見比べた。
月「…ファントムとアピレイション…“
亡霊(それはどちらが私なのでしょう…)
確実にそう思った。
月「…ともかく、この名前で呼んでいいのならいいけど。本当にいいの?」
私は構いませんよ、というような思念を送ってみた。
月「…そっか。じゃあ、これから改めて…よろしくね、ファントム。」
亡霊(…はい、我が主!)
そして、主が世界を越えるための扉を開いた。
主もあまりこの世界には長居したくないらしい。
ただ、私がここの世界の“常識”的なものをある程度壊してくれたおかげで少しは改善されたそうだが。
私はまた、この世界を去ることになった。
またここに来ることがあるかもしれない、とは思っているが。
その時、声が聞こえた気がした。
忘れもしない、彼女の声だった。
“よかったね。”
“ありがとう。”
“ごめんね。”
皮肉も何もなく。
ただ純粋に祝福の声と。
感謝の言葉と。
謝罪の言葉だった。
私は思念を送った。
“貴女と出会えて私は幸せでした。”
と。
返事はすぐに来た。
“うれしい。”
“ありがとう。”
“私も貴女と出会えて幸せでした。”
これが、1年と3ヵ月前。主、“創詠 月”と、初めて会った時である。
霊符“夢想封印”
東方projectより、霊夢のスペルカード。
恋符“マスタースパーク”
東方projectより、魔理沙のスペルカード。
凍符“エターナルフリーズ”
オリジナルスペルカードにしてチルノのスペルカード。意味は“永遠の凍結”。周囲を瞬間的に冷やし、物を凍結させることを目的とするスペル。
斬符“
斬符“
斬符“
斬符“
斬符“
斬符“
秘奥“
ソードアート・オンラインシリーズより、全てソードスキルをスペルカードとしたもの。刀カテゴリソードスキル、全て“
フォトンランサー・ファランクスシフト
魔法少女リリカルなのはシリーズより、フェイト・テスタロッサの必殺技。
スターライト・ブレイカー
魔法少女リリカルなのはシリーズより、高町なのはの必殺技。