亡霊のお話   作:Luly

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美恵さんと別れてからのお話。


第五話 痕跡

 

美恵と別れてから、1年が経った。

 

あの洞窟から飛び去ってからというもの、大変だった。

 

まず、当然のように追っ手が来た。

 

予想していなかったわけではないが、しつこさには呆れた。

 

一応のカモフラージュはしたものの、即座に見破られ、追われる羽目になった。

 

だから、撒いた。

 

撒いて、撒いて、撒いて、撒いて…撒き続けて3ヵ月ほど。体力が尽きた。

 

タイミングよく、追っ手は私を見失った。

 

だから、私は体を散らせた。

 

体を散らせて、全感覚遮断状態で体力の回復を待った。

 

幸いというべきか、異質者を見つける方法というのは存在しないらしかった。

 

体力がある程度回復したころ、私は自分の姿を変えた。

 

黒く短い髪に黒い眼。黄色を基調としたトップスに水色のスカート。

 

これが、新しい私のカモフラージュ状態だった。

 

ちなみに以前のカモフラージュ状態は黒く長い髪に黒い眼、ピンク色を基調としたトップスに黄緑色のスカート。それから髪に白い朝顔の花、というものだった。白い朝顔の花は美恵が私にくれたものだった。

 

元々私は“霊”であるため、食事を必要としなかった。

 

だから、長い間、何もせずに待つことができた。

 

私がカモフラージュ状態を変えたことで、追っ手は私のことが分からなくなった。

 

だから、体力が完全に回復してから6ヵ月の間、平穏な日々を過ごしていた。

 

…1年経った今、まだ美恵は約束の場所に現れない。

 

だから、私は美恵を探すことにした。

 

最近使えるようになった分身術で約束の場所に自分の分身を置いて、美恵が来た時に対応できるようにした。

 

この1年の間で、私は美恵の痕跡を辿れるようになっていた。

 

何故かはわからない。

 

でも、今の私が美恵を探すには痕跡を辿るしかない。

 

私は体を散らし、痕跡が示す道を辿り始めた。

 

辿り始めたはいいものの、基本的には私と美恵が一緒に住んでいた家と約束の場所にしか辿り着かなかった。

 

稀に商店街に辿り着くこともある。でも基本的には住んでいた家と約束の場所だった。

 

美恵の痕跡を辿り始めてから4週間。住んでいた家、約束の場所、商店街以外に通じる痕跡が2つ、あった。

 

どちらの痕跡も、別方向につながっていた。

 

1つは空中に。もう1つは地に。

 

先に地にある痕跡の方を辿ることにした。

 

その先に何があるかは知らない。

 

でも、先にこっちを知らないといけない気がした。

 

地に存在する痕跡を辿っていくと、やがて1つの家に辿り着いた。

 

1軒の大きな木造の家。そうしかいえなかった。

 

誰かが住んでいるんだろうか。長い時間ここに存在しているはずなのに、朽ちかけている様子はなかった。

 

丁度近くに人気のない場所があったため、その場所を起点に元の姿に戻った。

 

カモフラージュ状態になるのも忘れないようにして、その場所から出た。

 

再度、その家を見た。

 

やはり、朽ちかけている様子はなかった。

 

しばらくそうしていると、戸が開くような音がした。

 

?「…ん?」

 

中からおじいさんが現れた。

 

おじいさん「どうしたのかね?」

 

亡霊「…朽ちてない、と思いまして。」

 

おじいさん「そうか…」

 

私とおじいさんは少しの間その家を見上げていた。

 

おじいさん「…むかしはのぉ。儂の孫がここに遊びに来とったんじゃよ。それも、儂の娘が亡くなった7年前まではの…」

 

亡霊「そうですか…」

 

おじいさん「…そう、ちょうど…お前さんに似ておった。黒く長い髪に黒い眼。水色を基調としたトップスに…」

 

亡霊「黄色のスカート…」

 

おじいさん「うむ。…む?何故お前さんが孫の特徴を…?」

 

亡霊「大切な人に…似てるので…」

 

おじいさん「…」

 

おじいさんはそこで無言になり、門の鍵を開け始めた。

 

おじいさん「…入りなさい。」

 

亡霊「え…」

 

おじいさん「少し…話を聞きたい。」

 

亡霊「…」

 

私は少しためらったが、美恵の痕跡はこの家に続いているため、家の敷地の中に入った。

 

おじいさん「…ついてきなさい。」

 

門を通ると同時に、おじいさんについてくるよう言われた。よく見ると、家の敷地内に美恵の痕跡が多いのに気が付いた。

 

しばらくついていくと、その先にあったのは小さな小屋のようなものだった。

 

おじいさんがその小屋に入っていったため、私もついていった。

 

中は綺麗に整備されていた。

 

おじいさん「すまないの。こんな場所で。」

 

亡霊「いえ…」

 

私はおじいさんに勧められて小屋の中の椅子に座った。

 

おじいさん「…カモフラージュを解除しなさい。」

 

亡霊「えっ…?」

 

その言葉を聞いて警戒心が強まった。

 

おじいさん「お前さん、異端者じゃろう?孫…美恵と同じようにのぉ…」

 

亡霊「美恵を知ってるんですか!?」

 

椅子が倒れるのも構わず、立ち上がった。

 

おじいさん「そうじゃ。儂は美恵の祖父じゃ。あの子のカモフラージュも、あの子の本当の姿も…知っておる。流石に今何をしているかは知らぬが…のぉ。」

 

亡霊「…」

 

おじいさん「…異端者は自分の姿を他人にさらすのを怖がる。仕方のないことじゃ、この世界ではの…」

 

亡霊「…」

 

おじいさん「かつて…儂の妻も自分の姿を儂に見せるのを嫌がったものじゃ…」

 

亡霊「奥さんというと…美恵のおばあ様…?」

 

おじいさん「その通りじゃ。儂の妻も異端者でのぉ…美恵が生まれたときは、妻の生まれ変わりかと思ったくらいじゃ。見事な白い髪じゃったよ、妻は…」

 

私は話を聞き続けていた。

 

おじいさん「…美恵は、いまどこでなにをしているのじゃろうか…」

 

亡霊「それは…分かりません。1年前に、別れたきりなので…」

 

おじいさん「そうか……お前さん、美恵を探しておるのじゃろう?」

 

亡霊「え?は、はい…」

 

おじいさん「ならば…」

 

おじいさんは小屋の奥に行くと1つの小さめの箱を持ってきた。

 

おじいさん「確かこの箱の中にあったはずじゃ……これじゃな。」

 

箱の中から青色のペンダントを取り出した。

 

おじいさん「これを、持っていきなさい。」

 

亡霊「え…」

 

おじいさん「儂には必要ない物じゃからのぉ…」

 

亡霊「は、はぁ…」

 

私がそのペンダントを受け取ると、満足そうな顔をした。

 

おじいさん「さて。長めに話してしまったの…門まで送ろう。カモフラージュは大丈夫じゃな?」

 

私はその言葉で自分の姿を確認した。カモフラージュは解けていないようだった。

 

おじいさん「…そうじゃ、お前さん、名は…」

 

亡霊「私の名前…───です。」

 

おじいさん「良い名じゃの…」

 

亡霊「名前のなかった私に…美恵がつけてくれました。」

 

おじいさん「そうか…」

 

そこからは無言になって歩き続けた。少しして、門の場所までたどり着いた。

 

おじいさん「さて、ここでお別れじゃの…」

 

亡霊「はい…」

 

おじいさん「…[世界を支配する者はいずれ、強き悲しみによって打ち砕かれるであろう。空は荒れ狂い、地は焦土と化す。その地は草木の生えぬ死の地となるであろう。世界を支配する者は(いかずち)に打たれ、絶える運命となるであろう]…妻の母が言っておった言葉じゃ。儂も、娘も理解はできなんだが…じゃが、この年になると分かったかもしれないの…」

 

亡霊「…」

 

おじいさん「…さて、行きなさい。お前さんの道をどこまでも…」

 

亡霊「…はい。」

 

おじいさんは私の言葉を聞くと、家の中へと去っていった。

 

私は、人気のない場所に入り、体を散らせた。

 

 




美恵さんの親族さん。今はもう、このおじいさんしか生きていません。
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