ホシグマと朝食を食べる話。



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ホシグマの信頼度3の会話のネタバレを含みます。



鬼は見かけによらぬもの

何が起こっている?

目が覚めて今日初めて頭に浮かんだ言葉だ。

 

私は今、気がつくと麗らかな朝日が部屋に差し込む部屋で食卓に座り目の前に並んだ美味しそうな朝食を前にしている。

 

なぜこんなことになっているのかというと、朝、なぜかズキズキと痛む頭を気にしながら目が覚め寝室から出ると、何故かキッチンに立っている彼女におはようと言われ、歯を磨くように促され、そして磨き終わったら食卓に座るように言われたのだ。

 

そして今、台所からは朝食を作り出すために使用したであろう調理器具を洗う心地よい水音が聞こえる。

 

目の前にある朝食は目玉焼き、トースト、スープ

どれもこれも冷凍食品ではなく手作り。

目玉焼きは半熟で目玉焼きの下に敷かれたベーコンはカリカリで食欲をそそる匂いを漂わせる。

トーストは外はカリカリ、中はフワフワ。

スープはコーンスープでじっくりコトコトと煮込まれており、一口飲んで見たところ程よい甘みと滑らかさが私の口内を幸せでいっぱいにした。

 

幸せな朝、幸せな朝食。

今の状況を表現するなら、まるで・・・・一家団欒朝食・・・・・

 

「私は実は結婚していた?」

 

「何を言っているのですか?ドクター」

 

キッチンから移動し同じ食卓に座った彼女、ホシグマが怪訝な顔でそう呟く

彼女の姿はいつも見る戦場での服装ではなく、どこか見覚えのあるラフな服装の上に可愛らしい熊のワッペンがついたエプロンをつけていた。

また実家のような安心するフローラルな香りが彼女から漂う。

そんな可愛らしい姿と香りを感じることによって寝ぼけた私の頭は少しずつ覚醒を始めようとするが、いつもとまったく違う朝の光景に脳が働かない。

 

そんな脳の状態で、目の前で朝食を一口ずつ丁重に食べている彼女を見ながらともに食卓を囲み、共に朝食を食べている状況を鑑みて、私はもう一度思う

まるで新婚夫婦のような・・・・

 

「私はやはり結婚していた?」

 

「医療班をお呼びしましょうか・・・・?」

脳みそがまだ動いていない私は、何故かその言葉遣いに違和感を覚えたが、呆れたホシグマは服装と相まって可愛かった。

 

 

とりあえず、妄言はここまでにしておいて、一口トーストを齧る

やはりカリカリフワフワ。そしてそれとともに目玉焼きを一口。

濃厚な半熟卵とカリカリに焼けたベーコン。その二つだけでも最高の贅沢であるのにもかかわらず、トーストの存在がその最高の美味しさに拍車をかける。

咀嚼し、嚥下し、コーンスープを飲みこむ。

コーンスープは滑らかな舌触りで口内に侵入し、程よい甘みを味覚にもたらす。

うまい。記憶喪失のせいで家庭の味など記憶に存在しないが、それでもこの朝食から家庭の味という温かみを感じる。

 

これを作ったのが目の前の彼女なのは疑いようのない事実。

実際、いつも職務にあたっている彼女を見ていると彼女が文武両道に優れた人であるのがわかるので、こういった朝食を作るのなんてお茶の子さいさいなのかもしれない。

 

最初彼女と出会う前に、彼女について調べるため写真や経歴を軽く見た時は、荒くれ者のようなイメージを勝手に持ってしまったが、実際にあった時、彼女の口調からすぐにそのイメージはまったくの間違いだったことを思い知らされた。

彼女の今までの経歴と、戦場での戦果、そして雑に着こなしている制服姿からでは彼女のことを知ることなどできない。

彼女はまさに文武両道、勇猛果敢であり冷静沈着な優秀なオペレーターである。

まったくもって見かけによらな・・・

 

『ふぅ。・・・さぁ・・・・・だ。・・注・う。』

緑色、酒、徳利、夜、傷跡、肌色

 

ん?

なんだろう、何か今記憶に・・・?

 

「ドクター、早く食べませんと冷めてしまいます。」

 

「!。ああ、すまないすまない。つい美味しくてこの味を噛み締めていたんだ」

 

「ふふっ。ありがとうございます」

彼女は、目を細めクスクスと笑った。

 

その姿は見惚れるほど綺麗なものであった・・・って、どうも今日の私は少し変だ。

確かに目の前の彼女は綺麗だ。だがここまで私は惚れっぽかっただろうか?

なにか、おかしいような・・・?

 

そう考えると、ふと彼女は思いついたかのようにこちらを見た。

 

「そういえば、ドクター。昨日から後を引いてはいませんか?体は痛くありませんか?」

 

「後を引く?」

 

昨日?確か昨日は危機契約終了祝いで戦場から帰って着の身着のまますぐに慰労会という名の宴会が行われたのは覚えているのだが・・

 

「もしや、覚えてないのですか?」

 

「あー。えーとこの頭痛のことかい?」

 

「それも、ありますが・・・・やはり覚えていないので?」

そういう彼女の表情はどこか呆れるようであり、少し落胆しているようであった。

 

彼女にそんな表情をさせてしまうのだ。私は何をやったのだろうか?

すこし背筋が寒くなる。それに罪悪感も出てくる。

 

「すまないホシグマ。ちょっと寝起きで脳が働いていないんだ。すぐに思い出す」

 

「いえいえ、こちらのことは気にしないでゆっくりと思い出してください」

 

そう彼女はいうとゆっくりと再び朝食を取り始める。

 

朝食をとり栄養を脳に送ることで必死に寝起きの脳を叩き起こし記憶を巡らせる。

ただでさえこの前記憶喪失という名のキャッシュ削除をしたばっかりだ。記憶などロドスに来てからしかないのだ掘り返す記憶など高が知れている。

 

宴会はどうなったのだったか・・・?

たしか、昨日は宴会は無事終了して・・・・・

その後に・・・・ああそうだチェンに今回の危機契約や今後のことについて話さないかと誘われたのだった。

そして二人で宿舎に移動したら、チェンが秘蔵の酒を持ち出して来たからこちらもこの前私室に隠されていた(おそらく自分の)秘蔵のワインを持ち出して、乾杯して、最初は危機契約の振り返りをして、その後は雑談

『酒を飲むときはリラックスしたらどうだ?』とか『私が注いでやろう』などの砕けた口調で話をして・・・・?あれ?なにか違和感が・・・

まぁ今はそこはいい。その後、酒がお互い進んで・・・・ん?

 

「私はチェンと二人で飲んで・・・・?」

私の口からつい言葉が溢れると、目の前の彼女はその言葉を聞き何か悩んでいるようであった。

そして一拍の静寂の後彼女は再びクスリと笑う。

 

「隊長とドクターはお二人とも疲れていたのでしょう。お二人とも酒を片手にそのまま眠られていましたよ」

 

私の今の頭痛はそれが原因か

だが眠っているのなら今私は宿舎にいるはず。私の私室にいるという事は・・・

 

「なんと・・・ということはホシグマが私を宿舎まで連れて来てくれたのか」

 

「そうですね。隊長は途中で意識を取り戻されたので一人で帰られましたが、ドクターは酔いつぶれておりまして、どうしようかと悩んでいるとドクター自身が私に鍵を渡して来たのでお送りしました。ただ、そのままドクターを私室にお送りした後、すぐにドクターが床についてしまったので、私が部屋から出るとドクターの部屋の鍵がかけられず、だからといってドクターの私室の鍵を持ち出して外から鍵をかけるのも・・・・と思いまして、昨晩はリビングのソファーを勝手に使わせていただきました」

 

「それは・・・・やってしまったな・・・・」

 

「いえいえ、気にしないでください」

 

そう彼女は朗らかに笑う。

何故か、私は何故かその姿・・・いや『何か』に私は妙な違和感を覚える。

 

だが今はそんなことどうでもいい。

一番の問題は、よっぱらって女性に部屋まで送られて、自分はベッドで寝ているのに彼女にはソファーで眠らせて、最後には朝食まで作らせしまったことだ。

 

おお、心が罪悪感で押しつぶされそうだ。

潰されてしまえ

 

「いやいや、本当に本当に申し訳ない。なんとお詫びをすればいいものか」

 

そう言い私は彼女に頭をさげる。

どうやら私は気が緩んでいたらしい、いつもならこんな事はしないのだが、大きな山場を超えた事とチェンと指揮官としての苦悩について話して行くうちに気が抜けてしまったのであろう。

 

「それなら大丈夫です。お詫びはもらいましたから」

 

ん?

 

「それはどういう・・・?」

 

そう私が呟いた時、机に置かれた私の端末がピリリと音を発する。

そちらを見ると、どうやら電話らしく画面に表示されている送り主はチェンであった。

 

「ああ、隊長ですか。どうぞドクター」

笑顔を浮かべながら彼女はいう。

だがその笑顔は何か先ほどとは違う。普通の笑顔でも怒っている笑顔でも違う。

例えるなら、いたずらっ子のような・・・・・

 

「出ないのですか?ドクター?」

「あ、ああ。ちょっと失礼するよ」

ホシグマに促され、慌てながら端末をとり彼女に背を向け通話を始める。

 

「おはようチェン」

「ああ、朝早くにすまないドクター」

「大丈夫だよ。それで?どうしたんだい?」

「昨日の件でね」

 

ああ、そうだ。彼女も私と同じぐらい飲んでいたはずだ。

もしかしたら記憶があやふやで、それについて聞くために連絡をよこしたのかもしれない。

 

「そのことか、それなら・・・」

「私が帰った後もホシグマと酒を飲んでいたようだが大丈夫だったか?」

 

・・・・・・・ん?

 

「え?・・・ホシグマと?」

「ん?二人で飲んでいるとホシグマがやって来たじゃないか」

 

その言葉とともに、スロースターターだった私の脳内のニューロンが急速稼働し始め映像を脳内に映し出す。

 

『隊長とそれにドクター。こんな時間まで二人で酒盛りですか?』

 

「その後にホシグマと3人でしばらく飲み明かして、ホシグマも珍しく酔いが回り始めて」

 

『ドクター酒を飲んでいる時ぐらい、リラックスしたらどうだ?』

 

「私はアルコールの限界がきたから帰ったが、あの後二人で飲んでいたのだろう?」

 

『私が部屋まで送るから心配無用だ』

 

「ホシグマは酒が強いからな、あの後飲んでいたとするなら二日酔いにドクターが苦しんでいないか心配になってな」

 

『・・・余計に不安だと?ふっ・・』

 

私は理解した

やっと、先ほどから抱いていた違和感の理由に気がついた

 

「どうしたドクター?」

 

チェンの声が遠くに聞こえる

しょうがない、何故なら私脳内は大混乱になっているからだ。

だが理解はした。

 

何故私がホシグマの敬語に違和感を抱いたのか

 

何故、彼女が着ている服装に見覚えがあるのか

 

何故、戦場から着の身着のまま宴会をして私室に帰っていない彼女がフローラルな香りを漂わせているのか

 

それに加えて、記憶喪失で実家も故郷のことも思い出せない私がなぜ彼女の香りに実家のような安心感を抱いたのか

 

何故、彼女は体が痛くないかを聞いてきたのか

 

そして先ほど一瞬だけ見えた記憶の光景。

 

それが全てだ。

 

頭が情報に埋め尽くされ真っ白になりながらも、とりあえずチェンに返事をしようと口を開けた瞬間。

首の真横から腕が伸ばされる。

その腕は私の腕に蛇のように絡みつき端末を私の腕ごと握り、そのまま通話を切断した。

 

この腕が誰のものなのか、私はわかるが、私は頭が混乱し蛇に睨まれたカエルのように動けない。

 

するとその腕は私を抱きしめるかのように後ろに引き寄せた。

引き寄せられた私は後ろにいる彼女の腕の中に引き込まれる。

首元を彼女の綺麗な緑色の髪がくすぐりそして、耳元で呼吸音が聞こえた。

 

 

「よぉドクター。思い出したか?」

 

先ほどとは、まったく違う口調の彼女の声。

視線を向けるとそこには、先ほどとはまったく違う表情の

どこか妖艶でありながら可憐な彼女の顔があった。

 

 

一目見たときは荒くれ者

二目見たときは文武両道な逸材

三目見たときは・・・・・・・

 

「まったく。あなたは本当に見かけによらない」

私はそう苦笑し、昨日の夜と同じように

 

 




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