艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file70:東雲ノ真実

11月9日朝 岩礁の小屋

 

「ほっほー、めんこいのぅめんこいのぅ」

「ハウゥゥゥ」

岩礁にやってきた早々、工廠長は「彼女」の頭を撫でた。

「彼女」は頬を染めながら、嬉しそうに撫でられている。

「この子が、さっき言っていた装置の妖精かの?」

「妖精・・で良いんでしょうか。多分合ってると思いますけど」

工廠長は頭を撫でながら屈み込み、「彼女」と目線を合わせると、

「お名前はなんと言うのかの?」

「ア、エエト、皆カラハ「彼女」トカ、「装置」ッテ呼バレテタヨ」

「名前を付けられたことはなかったのか?」

「ハイ」

「まぁそうか。工廠の妖精達も意図的に付けぬ限りは名前がないからのう」

「そうなんですか?」

「うちは全員にワシが名付けた。皆可愛い我が子じゃからの」

「そ、そうなんだ・・」

その場に居た艦娘達は思った。工廠長も提督も似た者同士だ。

「じゃあ、何か呼ばれてみたい名前はあるかの?」

「特ニ・・ナイ」

「ふうむ」

工廠長は「彼女」の髪を手に取ると、言った。

「この色は東雲色、に近いかもしれん」

「シノノメイロ?」

「うむ。日本の伝統色で言うならの。というわけで、東雲、はどうじゃ?」

「シノノメ・・・ウン!解ッタ!」

「じゃあ東雲ちゃん、改めて。私は睦月です!よろしくね!」

「睦月・・チャン。ヨ、ヨロシク・・」

きゅっと握手した後、東雲はリ級に向き直ると、

「ア、アノ、今マデズット話シカケテクレテ、アリガトウ」

と、ぺこりと頭を下げた。

「良イノヨ。トコロデ貴方ハ、ドウイウ時ニ調子ガ悪クナルノ?」

東雲はきょとんとした。

「調子ガ、悪イ?」

「エエト、時折色ガ変ワッタリ、大キナ深海棲艦ヲ出シタリスルデショウ?」

東雲は真っ赤になって俯くと、

「ア、アレハ、失敗シチャッタ時」

「失敗?」

「轟沈シタ子ノ怨念ヤ執念ガ物凄クテ言ウ事ヲ聞イテクレナイトカ、攻撃サレテ集中力ガ乱レタ時トカ」

「フム」

「ソウイウ時ハ、上手ク作レナイママ深海棲艦トシテ誕生シチャウカラ」

「ジャア、作リタクテ作ッテタワケジャナイノネ」

「モチロン」

レ級が問いかけた。

「トコロデサ、東雲チャン」

「ナアニ?」

「深海棲艦ヲ、艦娘ニスル事ハ出来ルノカナ?」

東雲はうーんと考え込むと、

「艦娘ッテ、ナアニ?」

と聞いた。

「オオウ、ソウイウ事カ。エット、睦月トカ、ココニ居ルオ姉サン達ノヨウナ感ジ」

と、研究班の面々を指差した。

東雲はじっと見た後、

「轟沈スル前ノ、状態ッテ事?」

と言った。高雄が小声で

「やっぱり、深海棲艦は轟沈した艦娘達なのね・・・」

と悲しそうに呟いた。レ級は続けて

「ソウソウ。轟沈シタ時ハ怪我シテルト思ウンダケド、出来レバ怪我ハ無イ状態デ」

「エエト、今マデモ、怪我ヲ治シテルダケノ、ツモリナンダヨ?」

東雲以外の面々は驚いた。

「えっ?そうなの?」

東雲はもじもじしながら続けた。

「私ハ、元々建造ドックノ修繕妖精ニナル筈ダッタノ」

「ダケド、着任シタ直後ニ、鎮守府ガ攻撃サレテ、丸ゴト焼キ払ワレタノ」

「先輩ノ妖精サンカラ何モ教エテモラエナイママ沈ミナガラ、何カシタイ、コノママ死ニタクナイッテ」

「ソシタラ、イツノ間ニカ、アノ場所ニ居タノ。ソレデ、沈ンデクル子達ヲ何トカ治シテアゲタクテ」

「ソレデ、誰カ知リマセンカッテ海中デ叫ンダラ、同ジヨウナ格好ヲシタ子ガレシピヲ教エテクレテ」

「ダカラ今マデ、ソノレシピ通リニ直シテタンダケド・・・」

一同はぽかんとした。深海棲艦のレシピに従って轟沈した艦娘を改造してたって事?

「ア、アノ、ヤリ方ガ違ッテタノナラゴメンナサイ」

工廠長は東雲の頭を優しく撫でた。

「やり方に従っただけなんじゃから、東雲は何も悪くないぞい」

「工廠長サン」

レ級が考え込んだ。

「ダトスルト、轟沈時ノ状態ニハ戻セルンダネ」

「ウ、ウン。怪我ガ酷イカラ可哀想ダケド」

「工廠長サン」

「なんじゃ?」

「妖精ガ妖精ニ伝エル艦娘ノレシピハ解ル?」

「無論じゃ」

「ジャア、東雲ニ教エテアゲテクレナイカナ」

「ほう」

「デ、東雲チャン」

「ウン」

「私達深海棲艦ヲ、教エテモラッタ艦娘ノレシピニ従ッテ修繕シテクレナイカナ」

「それで上手く行くかのう?」

「ヤッテミリャ良イジャン。僕ヤルヨ」

全員がレ級を見た。この子凄いな。

「よし、まずは熟練妖精を連れてこよう」

 

「ふむふむ、説明はそれくらいかかるんじゃな」

東雲と熟練妖精の打ち合わせに混じっていた工廠長はレ級達を振り向くと

「説明に大体2日はかかるのう。水曜の午後という所じゃ」

と言った。

「ソウカー」

「説明ノ間、コチラニ預ケテ良イデスカ?」

「無論じゃ。提督も承知してくれるじゃろうよ」

「じゃあ東雲ちゃんは工廠に居てもらったら良いのかな」

「うむ。妖精じゃから妖精と一緒に過ごしたほうが良いじゃろうて」

高雄が立ち上がると

「私は提督に状況を報告してきます。他の皆は工廠長と東雲ちゃんを工廠に案内してあげて」

「了解」

「睦月ちゃんは工廠長さんに付いて行ってね」

「はい!」

「リ級さん達は、また水曜の午後に来てもらえるかしら?」

「エエ、解ッタワ」

「僕モ来テ良インダヨネ?」

「本当に初めての人になるの?実験台みたいなものよ?」

「ダッテ、誰カガヤラナキャイケナイジャン」

タ級が不安げにレ級を見る。

「レッ、レ級ハ大事ナ友達ナンダカラ・・・サ」

レ級はにっと笑うと

「コウイウ勘ヲ、僕ハ外シタ事ハ無インダ。大丈夫!」

と言った。

「じゃ、そういうことで、今日は解散しましょう!」

「はい!」

 

「また一気に話が進んだものだなあ。それにしても可愛いなあ」

「ア、アリガトウゴザイマスゥ・・・」

わしゃわしゃと東雲の頭を撫でる提督に工廠長が目を細めると、

「なぁ、妖精とは皆可愛いものじゃろう?」

「工廠長からすると孫みたいなもんですか?」

「まぁそうじゃの。で、これから熟練妖精がつきっきりでレシピを教えていくが」

「何か問題が?」

「東雲はあくまでも装置の妖精じゃから、正しい操縦者が必要じゃ」

「うん、そうでしょうね」

「じゃから睦月を指名したいのじゃよ」

睦月が驚いた顔で工廠長を見た。

「わっ、私でお役に立つのでしょうか?」

「うむ。現時点で最も優秀なオペレーターじゃとワシは思っておるよ」

睦月の目が潤んだ。

「工廠長さん・・・」

「というわけで、正式にオペレーターとしての許可を貰いたいんじゃがの」

提督は睦月を見ながら聞いた。

「睦月は専属オペレーターとして仕事するのでも良いのかな?」

「はい!それで私が役に立てるのなら嬉しいです!」

「まぁ、嫌になったらいつでも専属解除してあげるから心配しないで良いよ」

「はい!」

提督は東雲を向くと

「睦月が操作して、深海棲艦を艦娘に戻す為に、君に働いてもらいたい。承知してくれるかな?」

東雲はにっこり笑うと

「ハイ!チャント教エテモラッテ、皆ヲ治シタイデス!」

と、元気よく答えた。

「決まりじゃな」

提督と工廠長は深く頷きあった。

 




GWの間、実は何話か書いてたのですが、全部捨てました。
直前に本当に碌でもない都市伝説(要するに怖い話)を読んでしまい、気持ち悪い胸糞悪いと言いながらその話に引きずられ、変にネガなストーリーを延々と綴ってしまったためです。

なんというか、読んだ後もずっと頭にこびりつくような後味の悪い話というのは、長さに関係なく私は大嫌いです。
これはそういう話にしませんからご心配なく。
というか今もうっとうしいです。あの話の分だけ記憶を消去したい。

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