艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file78:姫ノ島(5)

11月26日朝 ソロル付近の岩礁

 

「フーン」

探索班の妖精から、波が穏やかで手頃な岩礁があると聞いた姫は、自らの「島」を岩礁に上陸させた。

丁度背後にあるソロル本島が北からの海風を遮ってくれるので、浅い岩場と相まって非常に塩梅が良い。

ソロル本島に建物があったので調査兼掃討班を送ったが、誰一人居なかった。

それなら面倒も無いという事で、岩礁を拠点とする事にしたのである。

そして迎えた朝。

澄み渡る空が美しく明けていく様は、姫や妖精達に束の間の安らぎを与えた。

やがて明けきってからも、青い海と白い岩は楽園を思わせた。

北の凍てつく大地から数日をかけて南下してきて良かった。

姫は思った。ここで死ぬまで過ごすのも悪くない。

 

 

11月26日午前 仮設鎮守府作戦司令室

 

5隊に分かれて順番に調理、喫食、片付けを短時間で済ます、「朝食」という名の大イベントが終わった。

皆、急いで食べ過ぎて目を白黒させている事を重く見た提督は、食堂を4棟増設した。

部屋には駆逐隊、整備隊、戦艦隊のボスと、秘書艦全員、東雲と睦月、工廠長、それに提督が揃った。

元々この部屋は提督室と呼ばれていたが、提督が自ら

「皆で作戦を立てる部屋だから提督室はおかしいだろう。作戦司令室と呼ぼう」

と言い出した。

リ級やル級はどっちでも良いという顔をしていたが、ロ級は嬉しそうにしていた。

もっとも、リ級が指摘すると

「ニ、人間デモ気遣イノ出来ル奴モ居ルモノダナト、チョット見直シタダケ・・」

というような事をもごもごと言っていた。

「さて、これらが大本営に寄せられた今回の件に関係すると思われる事件の情報だ」

長門が顔をしかめた。

「遠征に出る艦隊の旗艦は必ず非常警報発信機を持っているが、1度も使われた形跡が無い」

日向が応じた。

「気づく前に襲われ、発信する間もなく全滅したという事か?」

ロ級が呟いた。

「ヌ級ノ部隊ハ、LVモ高カッタ。シカシ、遭遇シテカラ全滅マデ10分トカカッテイナイ」

赤城が聞いた。

「そんな短時間で、よく通信できましたね」

「通信シテイル最中ニ襲ワレタンダ」

「それは・・心中お察しします」

「一番ノ戦友ダッタンダ・・」

「・・・絶対何とかしましょうね」

「モチロンダ。ソノ為ニ居ルンダ」

扶桑が資料を見ながら言った。

「彩雲の主翼が穴だらけという事は、敵陣には相当高密度に高射砲台が設置されているのでしょう」

山城が溜息を吐いた。

「彩雲で逃げ切れない相手なんてどうすれば良いの?あれが最速なのに・・・」

「航空機が使えないと弾着観測射撃もダメになるわね・・航空戦艦としては嫌な状況」

「電探は積むとして、相手の射程はどれくらいなのかしら?」

リ級が思い出しつつ言った。

「襲ワレタ潜水艦達ノ周囲100mハ、マルデ隕石ガ衝突シタカノヨウニ黒ク抉レテイタ」

提督が返した。

「海中でそんな威力って大量の爆雷かな?1発なら恐ろしい威力だな」

「過去ノ経験ダト、海底ヲ走ッテ逃ゲレバ回避率ガ高カッタノダケド」

タ級が手を叩いた。

「ダカラ海底ヲ走ッテ移動シタンデスネ」

「ソウヨ。気付カレズニ逃ゲルツモリダッタモノ」

提督が溜息を吐いた。

「しかし・・・うちの鎮守府に腰を落ち着けてしまった以上は、対決せねばならん」

全員が提督を見た。

「ハ!?」

「どういう事ですか提督!?」

「ソロル乗っ取られたの!?」

「そういう事になる。岩礁に上陸しているらしい」

「カレー小屋ハ無事ナンデスカ?」

「諦めた方が良いだろうな。また建てよう」

「部屋の床下に隠したボーキサイトおやつが盗られちゃう!」

「何を言ってるんだこんな時に。それにどこに仕舞ってるんだ・・・」

「提督室の本棚の右奥に隠してる栗羊羹だって危ないかもしれませんよ?」

「何故知ってる!それに置いてくるわけなかろう。ほれ、ここにちゃんと」

「おやつ発見!包丁とお皿持ってきます!」

「やらん!」

加賀が赤城の頭にそっと拳を置いた。

「いい加減にしないと、ねじ込みますよ」

赤城の顔から血の気が引いた。

「すいません。大人しくします。それはとっても痛いから勘弁してください」

 

1時間後。

 

議論はし尽くされていたが、手詰まり感が拭えなかった。

提督は腕組みをした。

「うーん、後何か見逃してることは無いかなあ」

リ級がふと、思い出したように言った。

「ソウイエバ、潜水艦ガ言ッテタ事、変ダワ」

「何が?」

「潜望鏡デ見タラ、空爆サレタト言ッタノ」

「うん」

「モシ、鬼姫ガ深海棲艦ヲ作レルナラ、深海棲艦ヲ送リ込ム筈」

「そうだなあ。全滅したかどうかの確認はその場に留まれず、海中に潜れない航空機では難しいからね」

「アト、潜望鏡ヲ上ゲタノヲ見ツカッタンジャナク、海中ニ居ル時カラ見ツカッテタンダト思ウ」

「航空機の装備を揃えて離陸させるのはそれなりに時間がかかるしね」

「デモ、ソレシカナケレバ、ソウスルシカナイ」

「という事は、島の砲台と、その射程外や海中は航空機で攻撃、この2種類って事なのかな?」

「ある意味、物凄く大きな航空戦艦よね」

「アト、海中海上共ニ適応スルソナーヲ持ッテル可能性ガ高イワネ」

「兵装を確認したいですが、我々の狙いに気付かれれば対策される可能性がありますから、無理でしょうね」

「深海棲艦を配備する前に決着をつけたいな」

ぽつりと、東雲が言った。

「私ト・・・同ジ・・・ナノカナ」

全員が東雲を見た。

「そっか。東雲ちゃんは鎮守府で爆撃されて、海に落ちちゃったんだよね」

工廠長が尋ねた。

「東雲や」

「ナアニ?」

「妖精専用の通信チャネルがあるのは知っておるか?」

「ウウン、初メテ聞イタ」

「そうか・・」

提督が工廠長を向いて言った。

「どういう事です?」

「ほれ、うちの鎮守府がインチキしておると因縁を付けられた事があったじゃろ?」

「ありましたね。その後熟練妖精さんを各鎮守府に派遣しましたっけ」

「その時、各鎮守府の妖精と連絡したのがそのチャネルなんじゃよ」

「そういえば調整の時、通信棟を使ってませんでしたね」

「東雲、使い方を教えるから、通信出来るかやってごらん」

「イイノ?」

「まぁ、答えてくれるかは解らんがな。あと、皆。」

「何です?」

「この部屋に向こうの音も聞こえるし、部屋の中の音は相手にも聞かれる。喋ってはならんぞ」

「はい」

 

「姫」

「ドウシタ?」

「・・・深海棲艦ノ妖精カラ通信ガ入ッテキマシタ」

「ハ?」

「元鎮守府ノ妖精デ、鎮守府モロトモ攻撃サレ、深海棲艦ヲ作ッテルラシイデス」

「・・・・ソウ」

「オ話サレマスカ?偽物ノ可能性モアリマスガ」

「少ナクトモ、コノ通信回線ハ妖精専用ヨ。騙サレタトコロデ今更ヨ」

「・・・ハイ。デハ、ドウゾ」

「モシモシ」

 

 


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