艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file80:姫ノ島(7)

11月26日昼過ぎ 仮設鎮守府作戦司令室

 

昼時でも部屋を離れるのを躊躇った一同は、作戦司令室に握り飯を運んでもらい、食べていた。

そこに文月達が帰ってきた。

 

「お父さん!」

「どうした?」

「残念ですが重過ぎて、ここまでの輸送手段が無いそうなんです」

「重過ぎる?」

「基本的には航空機で爆弾をばらまくそうなんですけど、それだと高射砲の餌食になる」

「そうだね」

「だけど、榴弾を撃って1つ1つ潰すのでは時間がかかるし、航空機に見つかると反撃出来ない」

「うむ」

「その為、臼砲を遠隔操作して一斉射してはどうかと」

「臼砲?」

「物凄く大きな金属の丸い球を、45度以上上に向いた短い筒から打ち上げるそうです」

「大きな、というと?」

「陸軍が持ってる自走臼砲はドイツ製で、口径が60cmあるそうです」

「60cm!?」

長門が歯を食いしばり、拳を握った。

「り、陸軍に負けた・・・」

「張り合うな長門。あ、重すぎるって、まさか・・」

「自走臼砲は120トンあって、まるゆさんは無理、あきつ丸さんでも1台しか運べないと」

「工廠長」

「さすがに図面位くれないと自走臼砲を作るのは無理じゃぞ?」

「砲だけなら似た物を作ったじゃないですか」

「なんだ?」

「40号の打ち上げ花火発射装置です」

「・・・なるほどな。しかし、そんな巨大な弾と砲身をどうやって運ぶかのう」

「自走臼砲の移動手段は?」

「無限軌道装置で、最大時速6kmだそうです」

「ろ、6km!?」

「歩く速度じゃないか」

「それ以上出そうにも重すぎて無理だそうです」

「・・・工廠長」

「なんじゃ?」

「装置全体を使い捨てにしましょう」

「まぁ、見つかったら放棄するしかないし、そうなるじゃろう」

「そして、装置そのものを、現地で仕立てましょう」

「どういう事じゃ?」

「調整機能もすべてなくせば、単なる短い筒です」

「まぁ、それこそ臼じゃな」

「臼を洞穴と、読み替えたら?」

「が、岩盤を砲身とするつもりか?」

「弾もです。1発だけならこれで作れませんか?」

「弾は鋼材で包み、砲身側は繊維補強コンクリートを内側に塗って極端に短くすれば・・ああ、臼か」

「臼です」

「・・・いけるかもしれんの」

「妖精達でも建設作業出来ますか?」

「無論じゃ」

「ならば、この半島で湾に面したあらゆるところに、万遍なく着弾するように作ってください」

「途方もない数が要るぞ」

「ですから、発射装置は無線制御で」

「・・・無茶苦茶言いおって。久しぶりに腕が鳴るのう」

「お願いします」

「岩盤臼砲は妖精達に作らせよう。わしは砲の制御装置、防空壕と海中通路を掘ろう」

「手伝わせますか?」

「わしの方は要らん。妖精を運んでくれ」

「文月!」

「はい!」

「駆逐艦を全員召集。必ずダメコンを持ち、妖精1班毎に1隻ずつ付けなさい」

「はい」

「・・そうだな。敵はいつ来るか解らん。近い方から始めてくれ」

「解りました!」

「もし敵と遭遇したら応戦せず、全員散り散りに逃げ、海域離脱後に大本営に駆け込みなさい」

「わ、解りました・・・」

「必ず生きて、しのぐんだぞ、文月」

「お、お父さん・・・急いで行ってきます!」

「達者でな。それと、長門」

「うむ」

「大本営に仔細を説明し、午後の便を引き返させろ。もう無理だ」

「支援を断るのか?」

「元々支援志願者は居ない。もう出発の準備を整える頃だ。急いで伝えてくれ。長門にはまだ話もある」

「・・・解った」

ロ級はふんと息を吐いた。

「死ヌマデ付キ合ッテクレルノガ本当ノダチダガナ」

「軍は仕事だよ。それと、伊勢」

「うん?」

「お前は日向と共に受講生を連れ、元の鎮守府に返してこい」

「え・・・」

「受講生を巻き添えには出来ん。預かった子だからな。早く行きなさい」

「う、嘘でしょ。アタシは提督達と戦うよ!」

「誰かが引率しないと受講生達が迷うだろうが」

「なら、なら日向だけ」

「馬鹿者。姉妹離れ離れにするような指示はもう2度としない」

「でも!一隻でも多く戦艦は残らないと!」

「お前達はなんだかんだでしっかり教育を手伝っていただろう?後の世に伝えてくれ」

「止めてよ!今生の別れみたいな事言うの!」

「みたいな、じゃない。お別れなんだ。理解しろ。命令だ」

伊勢は絶句した。提督はどうしてそんな穏やかな顔で言えるんだ?

「比叡」

「はっ、はい」

「鎮守府内で生に未練があるものは大本営に避難するよう伝え、金剛4姉妹で導きなさい」

「ええっ!?」

「お別れだ比叡。元気でな」

「・・・・お、お姉様に、言います」

「言うんじゃなく、命令として伝えよ。良いな?」

「・・・」

「さ、伊勢も、日向も、比叡も、もう行くんだ。時間が無いぞ」

日向が口を開きかけた、その時。

バタン!

「テートクー!」

「金剛、丁度良かっ」

「ハイ!私、質問がアリマース!」

「・・なんだ?」

「提督にラブで、未練タラタラなら、ココに残って良いですカー?」

提督はぽかんと口を開いた。

「・・・ここは、滅亡するんだぞ?」

金剛はチッチッチッと指を振った。

「テートクー?」

「な、なんだ」

金剛はえっへんと胸を張る。

「良いデスカー?火力より回避力、砲弾より装甲、突撃より再戦デスネー」

そして前に身を乗り出し、提督に噛んで含めるように言う。

「何よりも生きて帰って来る事を最優先に考えなサーイ、勝てる戦しかしてはいけまセーン」

その仕草は、まるで・・

「解りましたか提督ぅ?」

かつて、金剛を叱った時の私だ。

とどめとばかりに金剛はバチンと解りやすいウインクをすると、

「破ったら、NOなんだからね!」

と言った。

提督はどうっと、椅子の背もたれに身を預け、目を瞑った。

「姫」の言葉に知らず知らずのうちに腹を立て、策に乗せられていたのかもしれない。

一息吐き、ゆっくり目を開けると

「伊勢、日向は受講生を送り届ける事。これは命令。」

「て、提督・・」

「ただし」

「?」

「また会おう。必ず」

「!」

「金剛」

「ハーイ!」

「再戦は出来ない。1発勝負だ。それでも勝てる戦にする為に、策を一緒に考えてくれ」

「フッフーン、霧島っ!」

「はいはい、策を用意してきましたよ」

「本当か?」

「ええ。榛名と一緒に考えたんです。長門さんが戻ったら説明しますね」

「提督」

「なんだ、日向」

「私達は、送り届ける受講生の鎮守府に、支援艦隊を頼んでみる」

「・・・・。」

「力と力の戦いなら1隻でも多い方が良い。場所はここと解っているしな。」

提督は日向をじっと見た。

「・・・ダメだと言ってもやるんだろ?」

「そうだ」

「・・・解った。ただ、断った鎮守府を恨むなよ?」

「無理な注文に解ったとは言わない。主の命に関わる問題なのだからな」

「・・・さ、行ってこい」

「伊勢、行くぞ!」

「こ、金剛!皆!提督を頼むね!無茶させないでね!」

「大丈夫デース!任せてくださいネー」

 

 




カナ表記直してマス。
指摘ありがとね。

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