艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

127 / 526
file81:姫ノ島(8)

 

11月26日昼過ぎ 仮設鎮守府通信棟

 

「・・そうか」

「なるほど、これで移動したのには理由があるって解ったわ。それにしても本当に姫なんて・・・」

長門は五十鈴との通信で、大本営から姫の島が動き出している事を聞かされた。

そして通信の経緯を説明したのである。

「それじゃ補給船団の派遣は中止するわね」

「うむ。提督は船団が途中で姫の餌食になる事をとても心配していたのでな」

「で、本題。大本営側の討伐隊が揃ったから伝えておくわね」

「・・なり手は居なかったのではないか?」

「あら、挙手しないなら命じるまでよ」

五十鈴はさらっと言った。

「大本営直轄部隊を軸に2大隊で行くわ。出航前に行先が、それも見知った場所だったのは助かるわ」

「可能なら教えて欲しい。どれくらいなんだ?」

「1つは戦艦、重巡、正規空母、護衛の軽巡。もう1隊は、戦艦、軽空母、駆逐艦よ」

「7隻か。それでもありがたい」

「長門。私は2大隊って言ったわよ」

「どういうことだ?」

「私は種別を言っただけ。船の数はおよそ80隻」

「!?」

「・・・あぁ、ありがと。ええとね、今のペースで行けば姫がそこへ到着するのは明朝9時頃」

「そうか」

「戦闘はどの海域でやるの?到着時間を合わせるわ」

「鎮守府正面海域だから、そのままだな」

「ど正面!?至近距離で殴り合うつもり?」

「そうだ」

「・・・何か考えがあっての事よね?」

「無論だ。色々趣向を凝らして迎えるつもりだ。盛大にな」

「珍しい言い方をするのね。じゃあ私達は姫の島を挟む反対側で良いのかしら?」

「鎮守府は半島の先端だが、鎮守府の正面海域自体はCの字型の入り江になっている」

「そうね」

「姫の島を入り江まで引きこむから、出入り口を塞いでくれ。索敵と通信は怠らないようにな」

「もちろん。そっちもちょっとでも形勢不利なら陸路でも何でも逃げなさいよ?」

「多分、この1回が全てだ。提督も覚悟している」

「ちょっと、変な事考えてないでしょうね?中将も私達も貴方達の為に最大限動いてるんだから」

「・・・提督の想定とはいささか状況も変わっているようだしな。伝えよう」

「長門」

「なんだ?」

「呑まれちゃダメよ。普段を思い出しなさい」

「・・・そうしてるつもりなんだが、な」

「怪しいわよ。それじゃ、今度は日没時に」

「解った」

スイッチを切ると、長門は息を吐いた。

先程の提督の目、あれは間違いなく死を覚悟していた。後で私に言うのも、そういう事だろう。

陸奥も居る。皆で一緒に大艦隊決戦の中で散るのも悪くないと思っていたのを見透かされたか。

だが、80隻もの大隊が来るなら、戦況は変わるのではないだろうか?

聞き入れてくれるかは解らないが、進言してみるか。

 

「提督、大本営と話を・・金剛達、どうした?」

「テートクに喝を入れてましたネー!」

「喝?」

「ネクラな顔してたから、昔、私達に言った事を言ってあげたのデース」

長門はきょとんとしたが、提督の表情から意味を理解した。

提督が実に苦々しそうな顔で横を向いていたからだ。

「まさか提督・・・金剛に叱られたのか?」

「うるさいうるさい!まったく、これから起こる事を考えたらそれくらい覚悟するだろ?」

「バカ言っちゃいけませーン。まだケッコンカッコカリさえ済んでませーン!」

「おっ!お姉様!早まってはダメ!見捨てないでええええ」

「比叡を見捨てたりしませんヨー。一緒に戦いましょうネー」

長門は一つ咳払いをすると、

「提督、大本営からの贈り物があるぞ」

「贈り物?」

 

「は、80隻が、背後から支援攻撃してくれるのか?」

「そうだ」

「それは・・望みが出てきたかもしれんな」

「うむ。特攻せずとも、な」

「・・・見抜いてたか」

「私も、それも悪くないと思ってたのだが、五十鈴に叱られた」

「なんだ、長門も叱られたのか」

「気にする所が違うと思うのだが?」

「ま、私も金剛に言われて思い出したよ。勝ち戦にせねば、な」

「ああ、そうだな」

「しかし、予定時刻が通信内容とあまりにもぴったりなのは気になるな。油断させる囮かもしれん」

「うむ、大本営も我々も最高速度は知らぬのだからな」

「解った。じゃあ霧島、作戦とやらを教えてくれ」

「はい!」

 

1時間後。

 

霧島の案を元に、深海棲艦各隊と艦娘がどのように分担するかを話し合った。

案では、島への上陸は不明な点が多過ぎるので回避する事になっていた。

しかし、駆逐隊のボスであるロ級は、隊を率いて上陸、姫に突撃すると言って譲らなかったのである。

「ロ級さん、それで良いんですか?」

提督がロ級を見て言った。

「ウン。君達ハ君達ノ流儀デヤルトイイ。私ハ元々弔イ合戦ヲヤルツモリダッタシ、ソレニ」

「それに?」

「向コウデ、ヌ級ガ待ッテルンダ。仇ヲ討ッテ、報告シテクルヨ」

リ級が溜息を吐きながら言った。

「戦ウ事ニ意味ナンテ無イト思ッテタケド、今回バカリハ、アンタノ気持チモ解ルワ」

ロ級が顔をしかめた。

「リ級ガ私ノ話ヲ解ルダト・・アァ、ダカラ艦娘ガ味方シテクレルノカ。納得シタ」

「ドウイウコトヨ?手伝ッテアゲナイワヨ?」

「手伝ウダッテ?海底火山ガ噴火スルゾ!逃ゲロ!」

「アンタネェ!」

ル級がとりなすように

「マァマァ、ソノ辺デ」

といった。

提督はロ級を見た。

ロ級は見返し、静かに頷いた。

提督は目を瞑り、一息吐き出してから頷くと、口を開いた。

「よし、それでは今回の攻撃手順と分担をおさらいしよう。違ってたら言ってくれ」

 

「ふぅい、地下通路と防空壕を作って来たぞい」

「工廠長、お疲れ様です」

「それから、提督、ほれ」

「なんですか、これ?」

「臼砲の発射装置じゃよ。マス目状に並ぶ1つ1つが発射ボタンだ。ちゃんと無線化したぞい」

「マス目の縦横には意味があるんですか?」

「列は左が最も鎮守府に近く、右が入り江の入り口じゃ。航路が多少ずれてもどれか当たるじゃろ」

「行は組じゃよ。1つの範囲に4回攻撃出来るようにの」

「4行5列だから20門か。結構敷設しましたね」

「ん?1ボタンで40門一斉射じゃよ。発射自体成功するか解らんからの」

「・・・・えっ?」

「じゃから、合計800門じゃよ」

全員が一斉に工廠長を見た。

「は・・800門・・ですか?」

「全部飛べばな。実際は2割って所じゃろう。なんせ岩の窪地を砲門と言い張っとるんじゃからな」

「それでも160発ですから大きいですね」

「うむ。弾は1発で3トンある。敵砲台を1つでも多く押し潰して欲しい物じゃな」

「砲門設置の進行状況は?」

「間もなく完了じゃよ。駆逐艦達が異様に速く動いてくれておる」

「そう、ですか」

「文月が15時までに終わらせて絶対に戻ると凄まじい圧力をかけとるらしい」

「・・・」

「文月の思い、無駄にするでないぞ」

「・・解りました」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。