艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file13:長門ノ差配

3月31日午後、鎮守府

 

長門は鎮守府で工廠長と島風を見送っていた。あれは、吐くだろう。工廠長、本当にすまぬ。

しかし、これで一段落かな。

凝った肩をコキコキと鳴らしている長門に、摩耶が駆け寄った。

「長門、大変だ!」

まだ何かあるのか・・さすがにしんどいぞ。

しかし、摩耶の話を聞いて長門は愕然とした。

 

そうだ!提督の送別会をすっかり忘れていた!

 

「どうする長門?もう打ち明けるか?送別会をやるか?」

長門は頭を抱えた。秘匿してきたが打ち明けても良いかもしれぬ。提督もうすうす感づいてる気はする。

「ダメです。送別会をしましょう」

二人が声の方を向くと、赤城がいた。

「赤城・・」

「提督は大本営の船で岩礁に行く事になってます。大本営にはまだ隠さねばなりません」

「そうか、そうだな」

「それに」

「それに?」

「送別会といえばパーティじゃないですか!食べ放題です!」

長門と摩耶はガクッとつんのめった。そうだ。赤城はこういう奴だ。

だが、大本営に秘匿するのは正しい。

「摩耶は荷造りは終わっているのか?」

「おぅ!バッチリだぜ!」

「では済まないが、間宮と鳳翔に相談してきてくれないか?少し夕食を遅らせて食堂で行おう」

「まっかせな!行って来るぜ!」

走り去る摩耶を長門は目で追った。摩耶はこういう所によく気がつく。感謝せねばな。

 

「うふふ、そろそろ来ると思ってましたよ」

手を合わせる摩耶に、鳳翔はくすくすと笑いながら答えた。

「じゃ、じゃあ」

「用意してありますからご安心ください。それに、間宮さんにも頼んであります」

「さすが、恩に着る」

「ただ、私も私の店の荷造りがあるので、食器は食堂のをお借りしますよ」

「解った。じゃあ長門に一旦報告しにいって、その後手伝うぜ!何でも言ってくれ!」

「あら、助かります。それじゃあエビフライを少し多めに作りましょうね」

「本当か!やった!じゃあひとっ走り行って来るぜ!」

鳳翔はにこにこしていた。摩耶さんは本当にエビフライがお好きなのですね。

さて、下ごしらえも済みましたし、片付けられるものから梱包していきましょう。

鳳翔は腕まくりをしながら、店の中に消えていった。

 

長門は各班長から、概ね荷造りが終わったとの報告を受け、送別会を食堂でやることを伝えた。

ふと工廠の方を見ると、響がぽつんと居るのを見つけた。

 

「どうした?加賀を探しているのか?」

「あ、えっと、長門さん・・でしたよね?」

「そうだ。覚えてくれて嬉しいぞ」

響は工廠棟を見上げて言った。

「司令官の鎮守府には、こんな立派な工廠はなかったんだ」

「そうか。ここは何度か増築したのだ。ほら、あの継ぎ目から新しいだろう?」

「本当だ。幾つか色が違う」

「最初から大きな工廠なんて大本営くらいのものだからな」

響が言葉を切った。長門が響の肩に手を置く。

「長門?」

「響、お前もそうだ。最初は出来ない事が多くて悔しいかもしれぬ。だが経験を積み、考え抜けばきっと守る力を持てる」

「そう、かな」

「そうだ。この長門が保障するぞ」

「うん。解った」

「響は提督をどう見た?」

「どう、って?」

「何でも良い。見たままの思いで」

「ええと、司令官よりおじさんだった」

「ははははは。そうか」

「それと、優しいけど、悲しみを知っている目だった」

「・・・そう、だな」

「長門は何か知っているの?」

「提督はその昔、些細な差配ミスで艦娘を沈めてしまったのだ」

「うん」

「その事を提督は心の底から苦しんだ。きっと今も苦しんでいる」

「でも、私達は兵器だ。戦う以上壊れるのはある意味当然だよ」

「そうだが、提督は艦娘全てを守ると宣言し、その戦法を編み出した」

「それは無茶だよ」

「無茶だ。その通りだ。だが提督は実現した。だから私達は1人も減っていない」

「あ、だから守る戦い方なんだ」

「そうだ。提督から聞いたのか?」

「加賀からも聞いた。」

「うむ。この長門も含め、皆それを叩き込まれている。仲間を守り、互いに強くなるのは楽しいぞ」

「長門」

「なんだ?」

「私、強くなる。不死鳥の名にかけて、皆を守れるようになりたい」

「良い目をしている。その意気だ」

「ありがとう」

「では、響」

「なんだい?」

「提督の荷造りを手伝ってやってくれないか。多分一番荷物が多いからな」

「うん、解った。提督室に行けばいいんだね?」

「そうだ。ありがとう」

「いってきます!」

小走りに去る響をみて、長門はうなづいた。

あの子は未来を見始めた。大丈夫だ。

 

 




ラララ~ 
エビフライ~エッビフライ~♪

摩耶「そこに居ろ。20.3cmを食わしてやる」

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