艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file87:姫ノ島(14)

11月27日夜明け1時間15分前 大本営通信棟

 

「龍驤・・・五十鈴よ。教えて」

「なんや!もう発艦は終わったで!止められへんで!」

「信じられない早さね・・・で、この後どういう計画?」

「ウチはこれから艦隊を離脱し、あのド阿呆の航路の背後から追ったる」

「それで?」

「天山に乗せた爆弾を投下して、建物に集中空爆や!皆覚悟決めとる。ウチもや!」

「建物があるってどうして知ってるの?」

「知らんで!しかし島やろ?砲台なり滑走路なり格納庫なり、必ず地上に出てる建物はある筈や!」

「それはそうね」

偵察隊の榛名は真っ赤になって怒鳴った。

「攻撃は完全に命令違反です!そんな勝手は許しません!」

だが、五十鈴は意外な言葉を発した。

「天山の爆弾は何を積んだの?」

「800kg爆弾や」

「カメラは?」

「主翼前側に装着しといたで」

「追加装甲は?」

「下部と正面にありったけ重ねといた。要塞並みや」

「じゃ、特攻計画ではないのね?」

「特攻はせぇへん。しても・・・黒潮は喜ばんやろからな」

五十鈴は頷いた。賭けは私の勝ち。

「瑞鳳」

「はい」

「震電の機銃は整備してるわね?」

「ええ、もちろん」

ふうと一息つくと、五十鈴は口を開いた。

「五十鈴の責任で命令を変更します。空母2隻を中心に戦艦と駆逐艦で輪形陣を取り、その場で待機」

「艦隊はそれ以上絶対に島に近づいたらダメ。他から攻撃を受けたら確認せず即時戦闘を開始」

「う、うちが囮になる!」

「龍驤、最後まで聞いてから反論して」

「・・・」

「震電全機は最高高度と出来るだけ高速で最短距離を移動、島が見えたら撮影開始。何を撮っても良い」

「そして、天山も最高高度と出せる最高速を維持して移動。」

「良い?天山の空爆のチャンスは行きの1度だけ。決して7500m以下に下がらない事」

「!」

「もし投下出来なかったらそのまま帰還。鎮守府が近いから海底地形を変えたくないわ」

「天山達が空爆を開始したら震電も7500mより上の空域を維持、可能な範囲で敵の航空機を攻撃」

「空爆し終わった天山は他を待たずU字状に空域を離脱、最高高度で帰還しなさい」

「島が鎮守府から5km手前まで来たら未投下機も含めて全機帰還。これは主力隊への誤爆を防ぐ為」

「最後の天山が帰還を始めたら震電は四方に散って帰還開始。」

「震電帰還開始を合図に艦隊は輪形陣を解除、全速力で大本営に移動、艦載機は帰還しながら収容すること」

「駆逐艦は着艦出来なかった機体から搭乗員だけ回収し最短で復帰。機体やカメラは無視して良い」

「着艦した震電と天山が撮った写真と何か情報があれば全て通信で報告する」

「島や航空機が艦隊まで追ってきたら3手に分かれて海域を離脱しながら迎撃、その後帰還すること」

「これで良いわね?龍驤」

「・・・ほんまに、ええんか?」

五十鈴はニッと笑った。

「あのド阿呆に1発かましたいのは龍驤だけじゃないわ。でもこれが最大限の譲歩。もう許さないわよ」

「解ってる。うちはなんぼでも処罰を受けるから、妖精達を責めんといてや」

「それは後。今は作戦に集中しなさい。そろそろ探査されてもおかしくないわ!」

霧島と榛名は肩をすくめた。まぁそれなら多少の変更だし、五十鈴が言うのなら仕方ない。それに、

「ちゃんと撃ち込んで来なさいよ!」

「うちの鎮守府だって2艦隊も帰ってきてないんだから!かましてきてよ!」

「よし、一気に決めるで!」

 

 

11月27日夜明け1時間前 姫の島指揮官室

 

部屋のドアを叩く軽いノックの音が響いた。

姫はこの瞬間を心待ちにしていた。

昨晩は整備班長を捕まえ、ちゃんと事情を話して詫びた。

整備班長と相談し、攻撃機1200機と大型爆撃機400機の製作で折り合いをつけた。

丁度攻撃機3機に爆撃機1機の比率は最も訓練した形だ。

窓の外には真新しい滑走路が斜めに横切っている。

格納庫はコンクリートだと間に合わないので多重鋼板にしたが、この戦いが終われば換装する。

なにより、ちゃんとそういう調整をつけて今を迎えている。

きっと機関長は許してくれる。

カチャリと開いたドアから、機関長が入ってきた。ほら、笑顔だ。

「姫、約束ノ紅茶ト」

機関長はにっこりと笑うと

「ロールケーキヲ持ッテ来タゾ。ヨク謝ッタナ。」

姫は頬を赤くしながら

「ダッテ、ケーキ食ベタカッタンダモン」

「ソウカソウカ。ヨシ、窓辺ノテーブルデ食ベヨウ。置クノヲ手伝ッテクレ」

「ウン。日ガ昇ッチャウモノネ」

このケーキを食べたら、夜明けをすっかり見たら、全航空機を発進させる。

会話しながらカップや皿を並べていた二人は、微かな飛行機の音も、水平線上の群れも、気付かなかった。

 

同時刻 戦域上空

 

「こちら天山1-B小隊。見えました!建物も!対空砲台も!うじゃうじゃ居ますよ!」

「写真!写真撮ってや!」

「勿論です!じゃあ、滑走路脇の対空砲台に撃ち込みます!」

「待ちぃな!滑走路やて?」

「ええ、滑走路があります。3本!」

龍驤は一瞬で判断を切り替えた。

「天山全班、命令変更や!建物が面倒なら滑走路をいてまえ!」

「対空砲台じゃなくてですか?」

「滑走路や!そうや!滑走路を最優先でいてまえ!」

「は、ははっ!」

 

姫の執務机の通信ブザーが鳴ったのは、姫がケーキの一口目を口に入れた直後だった。

「姫、呼ンデオルゾ」

だが、姫は思い当たる事があったので、ケーキを味わう事に集中していた。

「多分整備班長カラヨ。滑走路ノ誘導灯テストノ終了報告。漏レテタカラ至急ヤルッテ言ッテタノ」

「ナラ、ソレヲ確認シナサイ。ケーキハ逃ゲン」

機関長はじっと姫を見て、促した。

姫は肩をすくめると、テーブルを離れて机の通信機のスイッチを入れた。

「ナニカシラ?」

「姫!大変デス!敵襲ノ恐レアリ!」

「ナンデスッテ!?一体ドコカラ!?」

そこまで言った時、1発の爆弾が滑走路脇の対空砲台に着弾。周囲の砲台も巻き込んで爆発した。

「ナッ!?迎撃!迎撃シナサイ!」

「始メテマス!準備出来次第開始シマス!」

「攻撃機モ発進!敵ハドコナノ!レーダーニ反応ハ?」

「アリマセン!今ノ時点デモ無インデス!」

機関長はとっさに窓から上を見た。そして姫に言った。

「敵ハ高々度ダ!レーダー圏ノ上カラ空爆シテオル!」

姫は愕然とした。

島のレーダーは正確な敵位置を知る精度と引き換えに、最高高度を5000mとしていた。

それは戦った経験から弾き出した、敵が肉眼で爆撃地点を定められる最大高度であった。

レーダーが高性能だったが故に完璧に信じており、全砲台はレーダー連携で自動攻撃としていた。

まさか超高々度から「当てずっぽう」で撃ち込まれるとは誰一人予想しなかったのである。

「クッソオオオ!」

姫は怒り任せに机を拳で叩いた。

「砲台ノ半数ヲ手動連携ニ変更!直チニ対応シナサイ!」

「了解!第1次攻撃隊発進シマス!」

 

 

「敵さんが来たで。逃げろ逃げろ!爆弾放り込んで上に逃げるんや!」

龍驤の指揮は冴えに冴えていた。基本作戦として五十鈴が示した内容はシンプルだった。

1小隊ずつ、到達直前にどこへ撃ち込むかだけ短く指定したら、後は投下し帰還するのに何の指示も要らない。

右に左に奥に手前に。対空砲台を翻弄しては爆弾だけ落とす。

敵の航空機が登ってくれば震電と天山は遥か上に逃げ、挙句に爆弾を放り出す。

運の悪い航空機はまともに爆弾に突っ込む形となり、空中で幾つも爆弾が炸裂していた。

こちらの被害もゼロではなかったが、撃墜数は少なかった。

龍驤は追加装甲のおかげと判断した。

「こちら天山3-A小隊。滑走路脇の格納庫1つ撃破!恐らく中の航空機でしょう。誘爆してるのが見えます!」

「隣接建物もいてこませ!じゃんじゃん上から放り込んだれ!」

「こちら天山3-B小隊、格納庫付近へ投下!」

 

「何ヲシテイル!」

「攻撃機ガ上昇スル間ニ四方カラ撃タレテ圧倒的ニ不利ナンデス!」

「砲台ハ!砲台ハ何ヲシテルノ!」

「敵ガ高高度デ速ク、手動制御デハ照準ガ間ニ合ワナイデス!」

「予測砲撃デ良イ!撃チナサイ!」

そう言った次の瞬間、指揮棟の壁に爆弾が着弾した。

壁は堅牢で辛うじて崩壊しなかったが、ピンポイントのように狙われた窓ガラスは耐え切れなかった。

そのすぐ内側で窓越しに上を見ていた機関長は、その爆風をまともに受け、反対側の壁まで叩きつけられた。

「グハッ!」

姫が駆け寄って抱き起こす。

「キ、機関長!機関長!シッカリシテ!」

「ヒ・・姫」

「ナニ!?」

「ヒ、引キ際ヲ・・見極メルンダゾ」

「救護班!誰カ!救護班ヲ呼ンデ!機関長ガ!」

機関長は優しい目で姫を見つめた。

「ミ、皆ヲ・・・無駄死ニ・・・サセテハ・・・ダメダゾ」

機関長の体が光に包まれていく。

「イヤ!イヤアアアアアアアアアアア!」

到着した救護班が見たものは、部屋の床に座って呆けている姫の姿だった。

「ヒ、姫・・・サマ」

「・・・・」

「オ気ヲ確カニ!姫様!」

「・・・アハ。ユルサナイ。許サナイワヨ?」

「姫様?」

「アイツラ・・・アイツラアアアアア!」

「ヒッ!」

姫は沸騰した頭を最高速で回転させた。そうだ。

「整備班長!」

「ハイ!」

「レーダー精度ヲ落トシテ良イ!高度10000mニ再設定!完了シタラ報告!」

「ハイ!」

「砲兵班長!」

「ハイ!」

「弾薬ヲ高性能爆薬榴弾ニ変更!8000m自発設定!照準ハレーダー誘導ニ切替!完了後待機!」

「ハイ!」

「航空隊長!」

「ハイ!」

「攻撃機ノ爆弾ト増槽ヲ下ロシ、機銃ノミ装備。最高速仕様ニシテ発進!潰セ!」

「解リマシタ!」

血走った目で姫は空を睨んだ。

アイツラ、皆、潰ス。

潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰スゥウウウウウウウウウ!!!




すいません。ちょい設定間違いがあったので訂正しました。

度々すいません。2箇所ほど素で間違えてたので訂正しました。
ご指摘感謝。

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