艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file91:姫ノ島(18)

11月27夜明け1時間後 第1攻撃壕(最上の陣地)

 

「おおっ・・・おっきいね・・・ちょっと予想以上だ」

「そうですわね。本当に島という感じ。喫水線からの高さは意外と低いですけど」

最上は入り江の入り口(Cの字の右下)に陣を張っていた。

三隈は入り江の奥(Cの字の左上)に陣を張り、二人は相互通信を行っていた。

提督からの指示はミサイルが無くなるか陣地が壊されるまで攻撃するというものだった。

主たる攻撃対象を問われた時、最上は滑走路を選んだ。

それは、このミサイルの開発目的だったからだ。

三隈の応答を聞きながら、最上は発射装置を撫でた。

「ねぇ三隈、このミサイルは本当に地盤を貫通できるかな?」

「最後の5秒間で飛び上がって反転、地面へ垂直に突入、貫通後に起爆。ステキな設計ですわ」

「あ、ありがとう。でも、せめてもう少し試験してから実戦配備したかったな」

「仕方ないですわ。1発が高いですし」

「うん・・・おっと、そろそろだ。用意は良いかい?」

「いつでも良いですわ」

「じゃ、始めよう。・・・せーの!」

フシュッ!

発射時の反動は緩く、独特の感覚だった。

後端から勢いよく火柱は出るが、発射口をぬるっと出る感じで砲弾よりは圧倒的に遅い。

しかし、推進モーターはミサイルの速度を確実に上げていく。

ミサイルに装備された照準用カメラの映像を見るのが最上は好きだった。

時速数百キロに達し、コントローラーを動かすとその通りに旋回する。

おっと、妖精さんに当てたら可哀想だ。

反射的に避ける。

まるで自分が飛んでるような感覚だ。

見とれているとビーッとブザーが鳴った。制御不能になる10秒前だ。

最上は三隈との打ち合わせ通り、島の滑走路のど真ん中に着弾点をセットした。

再びブザーが鳴ると、映像が途絶えた。

さて、次を込めますか。

 

 

その時。

整備班長は格納庫の前で土砂や岩の撤去作業を指揮していた。

入り江に入った途端、まるで火山弾のような巨大な岩が雨あられと降ってきた。

砲台は相当数潰されたが、滑走路は岩の破片をどかせば使用可能だった。

滑走路は見た目こそ単なるアスファルトの広い道路だ。

しかし、重量級の爆撃機離発着に耐えられるよう、頑丈な基礎を埋め込んである。

この工法は費用も時間もかかるので周囲は渋い顔をしたが、整備班長が押し切った自信作だった。

だからこれだけの攻撃でも表面だけの修理で直り、短時間で復旧出来ると自信を深めていた。

しかし。

先程の座礁後、鎮守府脇の山の土砂崩れにより、作ったばかりのC滑走路は1/3近く埋まった。

しかも崩れた崖の残りが滑走路の目の前にそびえたっている。

あれでは攻撃機さえ離発着出来るか怪しい。爆撃機は到底無理。あの大量の土砂を撤去するのも困難。

だが、島が座礁して山に突っ込んで土砂崩れを受ける想定なんて不可能だったと自分を慰める。

折角作ったばかりだったのにと溜息を吐きながら何気なく横を向いた整備班長は、おやと思った。

何か丸い点が、白い煙を吐きながら自分の方に飛んできている。

整備班長も近くに居た班員も、命の危険より技術者としての興味が勝ち、そのまま見つめていた。

それは次第に大きくなったので、遙か遠くから飛んできたのだと解った。

さらに、自分に真っ直ぐ向かってたのに、自分の近くに来た時に突如避けるような軌道を描いた。

「!?」

横を通り過ぎた時に全体が見えたが、その姿は徹甲弾を引き延ばした物のように見えた。

新手の墳進砲か?さっき避けたように見えたのは偶然か?飛行中に能動的に動けるのか?

整備班は興味津々の視線で追い続けた。

それは滑走路の上空に到達すると、突然急上昇し、程なく地面対して垂直に落ちた。

つまり、横から見て「?」のような軌跡を描き、滑走路の真ん中にズンと刺さったのである。

静寂が訪れた。

爆発も何もしない。ただ垂直に刺さっているだけだ。

整備班長は現実を色々受け止めきれなかったが、何より刺さった事が信じられなかった。

自立式の脚があるのかと目を凝らしたほどだ。

自分が設計した滑走路の基礎は半端ではない。

1mも掘り下げた穴に、鉄筋コンクリートとバナジウム鋼板をミルフィーユのように重ねてある。

戦艦の装甲よりはるかに硬いシロモノだ。

その滑走路の基礎に、刺さっただと?

最後の軌跡が関係してるのか?

そもそも一体全体あれは何なんだ?

整備班長は困惑していた。

 

三隈は2発目が送ってきた着弾寸前の映像を見て、最上に声をかけた。

「あの、最上さん」

「なんだい?」

「ミサイルが起爆してない気がしますわ」

「へ?」

最上はゴーグルを取り、発射管からミサイルを取り出すと、状態を点検した。

えっと、ここは推進モーターと燃料だからもっと前か。信管は自動でしょ・・・あ。

「解ったよ三隈」

「なにがですの?」

「爆薬を入れてなかったよ」

「でもミサイルの重量バランスは設計値通りですわよ?代わりに何が入っているのです?」

「ダミーウェイトのタングステンさ。どうせならイリジウム合金を入れてみたかったんだけど」

「何故そのようなものを・・爆薬より高いじゃありませんか」

「設計時に爆薬の比重を間違えちゃって。飛行実験用に設計と同重量の物を詰めたのさ。大丈夫。害はないよ」

「そういう問題じゃないですわ・・それで、装填用の爆薬はどこにあるのです?今から換装しなければ」

「あは」

「ま・・・まさか」

「飛行実験の後で高比重爆薬を作ろうと思ってたけど忘れてた。今思い出したよ」

「入れ忘れというより、元々無いって事ですのね・・どうするのです?」

最上は腕を組んだ。

「うーん、とりあえず」

「ええ」

「滑走路が使えなきゃ良いんだから、ミサイルを刺していけば良いんじゃないかな?」

「はい?」

「弾頭は偶然とはいえ、対艦徹甲弾と似たような構造になってるし、刺さるんじゃないかな」

「・・・ミサイルを刺して滑走路上の障害物とし、航空機が発着出来ないようにするという事ですの?」

「さすが三隈だね。そういう事さ」

三隈は目を瞑り、額に手を置いた。

最上は良い子だし一人でミサイルを作れるほど頭も良いが、たまにちょっと抜ける。

だから守ってあげたくなる。

それにしても、刺してもすぐ撤去されそうよね。大丈夫かしら。

でも、タングステンという事は着弾焼夷効果がある。上手く行けば、あるいは。

「ま、最後まで続けようよ。提督には僕から謝っておくからさ」

「もちろん一緒に参りますわ。あと・・立てるのなら、滑走路の数カ所に固めて撃ちこみましょう」

「なるほどね。うん、解った。僕は三隈の言う通りにするよ」

最上はミサイルを発射管に戻し、ゴーグルをかけ直した。

三隈と攻撃位置を調整しながら、最上は思った。

次はどんなミサイルにしようかな。

これは操縦出来る時間が短くて物足りないし、高比重爆弾は実現のアテもないし、とんだ失敗作だね。

さっさと全部使っちゃおう。

 


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