艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file95:姫ノ島(22)

大型爆撃機が主力隊に情け容赦なく爆撃していた頃。

 

第2防空壕の提督と深海棲艦達は大激論を交わしていた。

要は島に爆撃機がまだ残っているか、飛行中の爆撃機がまだ爆弾を持っているかという事だった。

今出て行って爆撃機がまだ爆弾を持ってれば犬死するだけだと反対する提督。

あれだけ出たのだからもう居ないし、全部撃ち尽くしただろうという深海棲艦達。

そうこうしているうちに、爆撃音が止んでしまった。

更に、爆撃機は鎮守府正面海域からまだ遠ざかる方向に飛んでいる。

駆逐隊のロ級が叫んだ。

「提督!今マデノ協力ニハ永遠ニ感謝スルガ、今ダケハ!ヤラセテモラウ!」

整備隊のリ級も賛成に回った。

「仮ニ残ッテイテモ、今ガ最大ノチャンスダト思ウ。ロ級ヲ支援スルワ」

戦艦隊のル級も

「提督、多少ノ犠牲ハドウシタッテ出ルワヨ」

提督はついに折れた。

「解った!行って来い!金剛班出撃!全力で砲台を1つでも多く潰せ!」

「私達の出番ネ!フォロミー!皆さん、ついて来て下さいネー!」

「オオー!」

「頼ムワヨ!」

「イッテキマス!」

 

提督はマイクを握り締めた。

ついに、出してしまった。

本当に、本当にこんな賭けをして良かったのか?

頭を抱える提督に、扶桑からの通信が届いた。

「提督、お話がございます」

「扶桑か、どうした?」

「ずっと観察していたのですけれど、島を航空戦艦と例えるなら、今は座礁してますよね」

「そうだね」

「座礁した後、後部で爆発があったのは、推進機関の過負荷だと思います」

「うむ、そうだろうね」

「それでも砲台が動いてるのは、他の場所で発電施設が生きているからだと思います」

「・・・だろうな」

「ならば発電施設を止めてしまえば、砲台も、電探も、管制システムも無力化出来ませんか?」

「それはそうだが、それはどこにあるんだ?」

「発電施設は解りませんが、後部の爆発で今も放置されている所と、真っ先に消火された所があります」

「・・・・」

「真っ先に消火された所を砲撃すれば、発電施設、あるいは燃料庫を破壊出来るかもしれません」

「そ、それは、賭けだな」

「賭けです。でも、何もしないで見ていたくありません」

「・・・・」

「提督、事態は一刻を争います。どうか我が主砲と、晴嵐達にお命じください」

提督は目を瞑った。その時。

「こちら日向。提督、生きてるなら応答してくれ」

提督は両方の回線を開き、繋げた。

「扶桑、日向達だ!日向!聞こえているぞ!」

「ええっ!?日向さん、ご無事だったのですか?」

「提督、扶桑、こちらには日向、伊勢、隼鷹、そして飛鷹が居る。我々は予備隊で待機中だった」

「体勢は整ってるのか?」

「伊勢です!もっちろん出来てます!晴嵐達は既に甲板に乗ってます!」

提督は一瞬で思考した。

「よし!扶桑隊出撃!狙いは島後部の鎮火箇所とその周辺の一斉攻撃。手段は扶桑に任せる!」

「はい!」

「隼鷹さん、飛鷹さん、航空機を発艦し、敵の航空機を徹底的に邪魔してくれ!」

「あいよ!いっくぜー!」

「さぁ、飛鷹型航空母艦の出撃よ!」

「日向と伊勢は扶桑隊に加わってくれ!手段は同じく一任する!」

「日向、いい?出るわよ!」

「伊勢のやつ、張り切り過ぎだ」

「日向」

「なんだ?」

「伊勢達を、頼む」

「任せろ」

 

 

11月27日13時半 姫の島指揮官室

 

「エエイ、コイツラ一体ドコニ居タノヨ!」

姫は机を割らんばかりの勢いで叩いた。

攻撃機450機は総力を挙げて島に上陸する深海棲艦を攻撃していた。

残存砲台は懸命に海上の金剛隊と扶桑隊を相手にしていた。

しかし。

深海棲艦達は港から少数のグループで上陸し、あっという間に崩れた砲台や建物の陰に隠れてしまう。

そして稼働中の砲台に侵入すると内部で滅茶苦茶に砲撃。次々と機能停止させていったのである。

砲台の爆発に巻き込まれる深海棲艦が続出したが、覚悟を決めた深海棲艦達は実に獰猛だった。

攻撃機は苛立って爆弾を投下するが、攻撃機の爆弾装填数はたった2発しかなかった。

その為、次々と弾切れになっていった。

一方で深海棲艦は少数ずつ、そこらじゅうから上陸していた。

ついに爆弾が切れた攻撃機は機銃掃射に切り替え、低空を飛行しだした。

それを見たロ級、リ級、ル級は、残忍な笑みを浮かべた。

おいおい、こちとら深海棲艦だぞ?

対空能力があるの忘れてないかい?

ル級がロ級にそっと手を置いた。

「私達デ航空機ヲ潰スカラ、今ノウチニ準備シナサイ。突入タイミングハ自分デ決メテ」

リ級が口を開いた。

「ル級、アタシ達ハアナタヲ支援スル。ロ級、ヌ級ニヨロシクネ」

ロ級は二人を見た。

「アァ、伝エルサ。姫ニハキッチリ落トシ前ヲツケテモラウ」

ル級が言った。

「サテ、ナニカ良イタイミングハ・・・」

 

その時。

ズズンという鈍い音と共に、島の電源が落ちた。

攻撃機は突如消えたレーダーの表示に動揺していた。

「今ヨ!」

戦艦隊全員が海上に姿を現すと、一斉に対空砲撃を開始。

低空で索敵していた200機近くが一瞬で撃墜された。

その隙を見て整備隊が一斉に上陸。

最後まで稼動していた砲台も、突然の停電になす術はなかった。

戸惑いながら出てきた砲兵達に銃を突きつけて制圧し、砲台を占拠。中から破壊した。

それらを横目に見ながら、駆逐隊は全員で未だ破壊されていない、島の中央にある棟に突撃した。

姫の臭いがする。プンプンするゼエエエ!!!

 

姫は侵入者を、奴らが棟に入る前から気付いていた。

だから指揮官室の自分の席に腰掛け、到着を待った。

 

パタン。

「指揮官室ニ入ル時ハノック。ソレガココノルールヨ」

姫は窓の外を見ながら、悠然と言い放った。

「ヘェ、ソウ。俺達ハココノ者ジャナイカラ知ラナイネ」

馬鹿にしたような口調で言ったのを、姫はギッと睨み返した。

「オォ怖イ怖イ。怖イネエ」

ロ級は手を後ろで組んだまま睨み返した。二人の間で見えない火花が散っているかのようだった。

駆逐隊の隊員達も指揮官室の前までは来ていた。

しかし、姫の気配に圧倒され、ロ級しか入る事が出来なかったのだ。

隊員達は固唾を呑んで耳をそばだてた。

「・・・ヨクモ、機関長ヲヤッテクレタワネ」

「ヌ級達ニ手ヲ出スカラダヨ」

「アタシ達ハ世界最高ノ職人ト言ワレタ妖精ヨ!オ前達トハ違ウ!」

「デ、アンタガ指揮シタノカ?」

「エエソウヨ。アタシ一人デ全部考エタワ」

「・・・今回ノ俺達ノ攻撃、誰ガ考エタト思ウ?」

「ドウセ提督ッテ言ウンデショ?ソレトモ貴方?」

「両方不正解。正解ハ、俺達全員、ダ」

「ハ?」

「皆デ知恵ヲ出シ合イ、話シ合ッテ決メタンダヨ。艦娘ト、深海棲艦ト、提督ト、妖精ガ、ナ」

「・・・・」

「アンタ達ノ装備ハ凄カッタ。対スル俺達ハ原始的ダッタ」

「ソウネ。投石器ナンテ、ドコノ石器時代カラ持ッテキタノヨ?」

「ダガ、アンタ達ハ負ケタンダヨ」

「・・・・」

「コレカラ地獄ニ連レテイクワケダガ」

「アタシハ天国ニ行クワ。機関長ガ待ッテルモノ」

「散々艦娘ヤ深海棲艦ヲ嬲リ殺シニシテオイテ、天国モネェヨ。ソノ機関長トヤラモナ」

「・・・・」

「最後ニ、コノ世デ1ツ勉強シテ行キナ」

「何ヨ」

「コノ世デ、一番強ェノハナ、技術ジャナクテ、願イ、ダ」

「願イ?」

「ソウダ。相手ヲ想イ、願ウ心ダ。ソシテ最モ弱イノガ、恨ム心」

「・・・」

「俺ハ提督カラ、ソレヲ教ラレタ。アンタガ賢イナラ、今回ノ敗戦カラ学ビナ」

姫はロ級から目を離さず、机の下で手を動かしていた。

その時の顔を見逃さない為に。

一番右のスイッチを上げれば、電源が起動する。

「ダッタラアンタモ、私ヲ恨マナイ方ガ良インジャナイ?」

「俺ハ無理ダ。頭ガ悪イカラナ。ダカラ提督ニ全部任セタンダヨ。大成功サ」

ロ級はニイッと笑った。

姫はありったけの憎悪をこめて睨みつけた。だが、コイツには通じない。

くそ、負けないわ。

2つ目のスイッチ、誤操作防止用の蓋を開けて。

「アアソウ。トコロデゴ存知カシラ?」

「ナンダ?」

「島ハアンタ達ノセイデ停電中ダケド、1箇所ダケ電源ガ生キテル所ガ在ルノ」

「ホウ」

「ソレガ、ココ」

「デ?」

「アタシガ指ヲ動カセバ、棟ゴト吹ッ飛ブワヨ。」

「・・・・」

「提督ノ所ニ連行スルツモリデショウケド、ソウハ行カナイワ。アタシノ勝」

「ハァ?」

姫はロ級が全く動揺しない事に動揺していた。どういう事だ?提督は元の妖精に戻したいと・・・

「俺ノ願イハナ、オ前ヲ地獄ニ連レテクッテ事ダ」

ロ級は両手を前に出した。そこには溢れんばかりの手榴弾が握られていた。

そのまま1つを残して床にばら撒くと、残した1個のピンを抜いた。

「総員!用意!」

廊下で次々と手榴弾のピンが抜ける音がしたのを聞いて、姫は絶句した。

こいつら、特攻・・・

ロ級がニイと笑った。

「ヌ級ニ紹介シテヤルヨ。賢イガ最後マデ判断ヲ間違エ続ケタ姫様ッテ、ナ」

姫の指がスイッチから離れた。ガチガチと顎が震えだした。

「ヤ、ヤメ」

 

島の外側では、弾が切れた大型爆撃機達の特攻が終わっていた。

ターゲットとなった金剛班と扶桑班は、懸命に応戦しながら耐え抜いた。

しかし、それぞれ程度は異なるものの、全艦破損していた。

山城などは本当にダメコンが発動してしまったほどだった。

互いに体を支え、何とか航行していた金剛班と扶桑班のメンバーは、数回の爆発音に気付いた。

その意味を、彼女達はすぐに理解し、悲しげに俯いた。

ロ級さん、提督は本当に待ってるんですよ。

本当に、本当にそれで良かったのですか?

 

扶桑達が島の港に着くと、ル級達戦艦隊と、リ級達整備隊、それに投降した妖精達が居た。

ル級も、リ級も、燃え盛る指揮官棟を見ていた。

妖精達は泣いていた。

ル級が一番先に気付き、隊員達と共に島から降りてきた。

「戦艦隊モ、半数ガヤラレタ。モウスグ艦娘ニ戻ル予定ノ子モ居タノダガ、ナ」

リ級も傍に来ると、ぽつりと言った。

「整備隊ハ、護衛隊シカ残ラナカッタ。セメテ天国ニ成仏シテ欲シイワネ」

 

皆が島を振り返ると、島全体が煌々と輝きだした。

島に残った妖精達も、輝きだした。

そう。島自体が深海棲艦であり、命運尽きたのだ。

艦娘達も、深海棲艦達も、手を合わせて頭を垂れた。

生まれ変われたなら、平和な世界で、静かな海で会いましょう。

 

 


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