艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file99:姫ノ島(26)

12月1日午前 ソロル鎮守府入口の港

 

提督は長門から受け取ったおしぼりで顔を拭うと、咳払いを一つした。

 

「まず、艦娘は100名。うち受講生40名を送り返し、艦娘は全員生還させました」

「おぉ」

中将が唸った。

「深海棲艦側は出航時1500体居りましたが、多数の犠牲が出ました」

「姫への敵討ちを望み、突撃した部隊850体は全員轟沈」

「突撃を後方支援した2部隊650体の内、555体が轟沈」

「最終的にここに居るのは私達を含めて160弱。およそ9割が沈みました」

大将は眉をひそめ、目を瞑り、じっと聞いていた。

「我々が生還出来たのは、他でもなく、主力隊の、そして五十鈴さんのおかげです」

中将が意外な顔をした。

「なぜだ?主力隊は、為す術も無く全滅したのだぞ」

「・・・主力隊は、敵の爆撃を一手に引き受けてくれました」

「・・・・」

「そして五十鈴さんは、要所要所で精神的に支えてくれた」

提督は居住まい正すと、

「順を追ってお話します」

と、言った。

 

「まず、敵の存在を中将から、化け物である事を五十鈴さんから教えて頂き、我々は離脱準備に入った」

「準備がほぼ整った時、深海棲艦の皆が鎮守府に集まってきた」

「集まった深海棲艦の多くは、以前から艦娘化や腐敗撲滅で協力してくれていました」

中将が口を開いた。

「元、君の所に居た艦娘も、来たのかね?」

「エエ、私ヨ」

提督の後ろにル級が立っていた。

「私ハ、深海棲艦側ハ既ニ被害ガ出タシ、イズレ艦娘側モ実害ガアルカラ早ク手ヲ組モウト考エタ」

提督は頷いた。

「我々は避難する目的だったが、滅ぼさねば滅ぼされるという切羽詰まった理由が生じた」

リ級が寄って来ながら口を開いた。

「モンスターハ、遭遇前ニ逃ゲルノガ最善策。ダケド、狙ワレタラ成長前ニ立チ向カウシカナイノ」

提督が継いだ。

「だから我々は利害の一致を見て手を結び、旧鎮守府に移動し、攻撃方法を検討した」

「中将殿から頂いた情報、深海棲艦達の被害状況や証言から、敵規模を予測した」

東雲がちょこんと提督の裾を持ったので、提督は膝の上に乗せた。

「この、元妖精である東雲にも活躍してもらいました。」

「ワ、私ハ・・」

「この子が敵のボスと通信をしてくれて、攻撃理由や思考方法等が解った。」

「デ、デモ、位置ヲ特定サレチャッタノ」

提督は東雲の頭を撫でた。

「敵は朝乗り込むと言ってきました。それはブラフと考え、短時間で準備出来る事を考えました」

「相手は自分の技術に絶対の自信を持っていた。だから艦隊決戦ではなく意表を突く事にした」

古鷹が手を拭きながら言った。

「提督が鎮守府は真っ先に攻撃されると言って、地下数カ所に防空壕を作りました」

「実際、姫の島は湾に入ると一直線で鎮守府に乗り上げ、あらゆる建物を押し潰しました」

提督が続けた

「Cの字型の入り江である鎮守府正面海域全体を1つの戦場と見立て、陸も使う事にしたのです」

赤城が言った。

「戦艦と空母と重巡は、長門班、加賀班、金剛班、扶桑班の4班に再編成。全員ダメコンを装備したわ」

夕張が笑った。

「軽巡と駆逐艦と潜水艦は裏方役。連絡係とか情報収集とか弾薬補給とか色々大変だったのよ?」

工廠長が言った。

「ワシらは鎮守府のある入り江の内側に向かって800門の臼砲を用意したんじゃ」

中将が聞き返した。

「は、800門の臼砲?どうやって作ったんです?」

工廠長は提督の方を見ながら言った。

「提督がの、臼砲なんてただの短い筒で良いから、岩を抉って砲筒と見立てろと言うて、な」

「た、弾は?」

「掘った岩の残りじゃよ。もっとも、崩れないように鋼鉄と混ぜたがの」

「発射は?」

「無線式の遠隔装置じゃよ。まったく、提督の無茶振りには困ったもんじゃよ」

提督は工廠長を見ると

「そんな嬉しそうに困られてもなあ」

「まぁ、普段から無茶を言いおるからの。慣れておるよ」

「いつも感謝してますよ。実際、臼砲の砲撃によって島にあった砲台は相当数潰す事が出来ました」

「予想外じゃったが、臼砲の発射で崖が次々に崩れ、島は滑走路が1本埋まり身動きが取れなくなった」

「ええ。そして、戦略でも我々は徹底的に裏を掻こうとしました」

長門が口を開いた。

「提督は艦娘が陸で戦って何が悪いと言ってな、私達は森の中を走っては砲撃を繰り返した」

「あの森は旧鎮守府に居た時は走破訓練コースだったから、熟知していたという事もあるんだがな」

加賀はシシャモを飲み込むと言った。

「長門さんが陽動に出てくれたので、私達は島の近くから爆撃機を使って空爆しました」

「もう少し引きつけられれば良かったのだがな。すまない」

「いえ、五十鈴さんの警告を生かせなかったのはこちらの落ち度です。すみません」

提督が言葉を補った。

「長門は強装甲にしてましたが、余りにも捕捉が早く、加賀が助けようと予定外の低空空爆を行った」

「結果、航空機の軌跡を辿れらて加賀隊が見つかり、航空機もろとも返り討ちにあってしまった」

「長門隊も陽動の結果、大破してしまったんです」

大将が頷いた。

「続けてくれ」

「我々は臼砲を打ちつくし、長門隊も加賀隊も大破した。」

「鎮守府は姫の島が乗り上げて全て潰されたので、修理も食事も出来なくなった」

「期限が一気に狭まり、本当に深海棲艦達を送り出して良いか迷っている時、主力隊が来てくれた」

「だが、敵は本当の兵力を温存していた。敵の主兵力は巨大な爆撃機だったんです」

加古が言った。

「1機に8つもエンジンがついていて、大きくて、長くて、胴も太かったんだよ」

提督は頷いた。

「目視した後に五十鈴さんに撤退を進言する通信を発しましたが、応答はありませんでした」

ル級が口を開いた。

「爆撃機ハ姫ノ島カラマッスグ主力隊ノ上空ニ向カイ、爆弾ヲ投下シ、ソノママ通リ過ギタ」

提督は頷いた。

「私は爆撃機が弾を残してる可能性を危惧したが、深海棲艦の皆は好機到来だと主張した」

リ級は肩をすくめた。

「アラ、結局正解ダッタデショ?」

提督は頬を掻いた。

「まぁ、弾が残ってれば特攻してこないだろうからな。正解だった、認めるよ」

リ級はニヤリと笑った。

「賭ケ以外ノ何者デモナカッタケドネ」

長門が口を開いた。

「爆撃機は通り過ぎる際、1回で全爆弾を投下した。あれでは戦艦でさえ1発轟沈だった」

提督は頷きながら表情を曇らせると、

「でも、1回の攻撃だった。もし主力隊が全員ダメコンを積んでいたら、助かったかもしれません」

中将は顔を歪めた。ダメコンか兵器か、大本営内でも壮絶な言いあいがあったのを思い出す。

結局、そこまでの敵戦力はありえないという事で兵装になってしまったのだが。

「深海棲艦の皆が突撃するにあたり、我々は3つの事をしました」

「1つは金剛班に、残存砲台の掃討を命じました」

「1つは扶桑の提案で、扶桑班に島の発電施設を潰させ、兵装の無力化を図った」

「最後は主力隊の生き残りだった隼鷹さんと飛鷹さんに、航空機の帰還を邪魔させた」

中将ははっと気付いた。

「そうか。君のところの日向と伊勢、それに隼鷹と飛鷹は数合わせ出来なくて予備隊に・・・」

金剛が腰に手を当てて言った。

「砲台掃討はだいぶ上手く行ったケド、後ろから来た攻撃機の特攻は酷かったネー」

扶桑も頷いた。

「爆撃機も島に着く前から我々の攻撃に気付いていたのでしょう、まっすぐ突っ込んできました」

山城が横を向きながら言った。

「提督がダメコンを積めと命令してくれなかったら、私は完全に轟沈していたわ」

扶桑がニコニコ笑いながら

「山城、提督に言う事があるんじゃないかしら?」

山城は真っ赤になりながら

「え、えと、あの、提督の戦法を臆病とか散々言っちゃって・・ごめんなさい」

提督は

「それも本当だからな。でも、何であれ生還してくれて本当に嬉しい。それだけだよ」

と応じ、続けて

「山城、その時の状況を説明してくれるかい?」

と言った。

 

 


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