艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file100:姫ノ島(27)

12月1日午前 ソロル鎮守府入口の港

 

山城は咳払いを1つすると、話し始めた。

「扶桑姉様、私、それに日向さんと伊勢さんで、島の後部側面を集中砲火してたの」

「最初に特攻に気付いたのは日向さんで、直ちに最大戦速で8の字周回するよう命じられた。」

「でも私は、狙いを付けた位置が燃料タンクだと確信していたから、撃ち漏らしたくなかった」

「移動開始が遅れた事が災いして、モロに爆撃機5機が横から突っ込んできたわ」

「爆撃機の妖精は目を瞑ってた。完全に覚悟を決めていた」

「爆撃機は衝突と同時に猛烈な勢いで燃え上がったわ。多分そういう素材ね」

「その後も次々来た爆撃機に私は押し倒されるように沈んだわ」

「終わりだと観念したらダメコンが発動して、海面に戻れた時には攻撃が止んでいたわ」

扶桑が山城の肩を叩きながら言った。

「山城の勘は正しかったわ。あれに着弾した後で液体が噴き出し、島が停電したのよ」

ル級は納得したように頷いた。

「我々ハ突撃ノタイミングヲ見計ラッテイタ。敵ノ攻撃機ハ爆弾ガ切レテ低空飛行ニ入ッテイタ」

「ソコニ、ソノ停電ガ来タ。攻撃機ガ動揺シタヨウニ見エタカラ、ソレヲ合図ニ突撃シタ」

リ級が継いだ。

「ル級達ハ海上カラ攻撃機ヲ一斉射シ、我々ハ砲台ヤ格納庫ニ突撃シテ制圧シタワ」

「ソシテ・・・ロ級達ハ姫ノ本拠地ニ突ッ込ンデイッタ」

タ級も俯くと

「ロ級サン達ハ仲間ガ攻撃機ノ特攻デ吹キ飛バサレテモ、真ッ直グ突入シテイッタ」

「相手ハ命ト引キ換エニ行ク手ヲ阻ミ、コチラハ屍ヲ踏ミ越エテ突撃スル。凄惨ダッタ」

ル級が引き取った。

「ソシテ本拠地突入後、ロ級サンノ「総員用意」トイウ声ガシテ、程ナク棟ゴト爆散シタ」

「私達ハ痛手ヲ負ッテモ生キヨウトシタケド、ロ級ハ違ッタ。最初カラ死ヌツモリダッタ」

リ級がぽつりと言った。

「アノ子ハ、ヌ級ガ最高ノ理解者ダッタカラ、早ク傍ニ行キタカッタノ、カモ」

そして横の浜を見つめながら、

「馬鹿ナ奴。ホント、馬鹿ヨ」

と、付け加えた。

提督は目を伏せた。

「目的を達したら帰って来いと約束したけど、目的が友人の元に行く事だったんだな・・・」

扶桑も呟くように言った。

「爆発音がした時、提督が悲しむだろうなって、すぐ思いましたわ」

長門が提督を見ながら言った。

「提督は今回集まった深海棲艦を全員丸め込んで艦娘に戻す気だったろう?」

「えっ!俺いつ話したっけ?」

「聞いてないぞ。だが提督の事だから、そんな事だろうと思っていた」

「ううううう」

「何年提督と生活を共にしてると思ってるんだ?」

「それはまぁ、そうだ。」

提督は肩をすくめると、

「姫の棟が爆破された後、程なく島は丸ごと消滅しました」

「跡形無く壊された鎮守府の跡に、我々は合同慰霊碑と慰霊塔を立てた」

山城が言った。

「塔の上で姫がおじいさんに頭撫でられてたわよね?」

一瞬、全員の行動が止まり、一斉に山城に視線が向いた。

「えっ?な、何よ?じっと見て」

提督がそっと言った。

「わ、私は、小さい丸い火だけ見えたんだけど」

工廠長もコクコクと頷いた。

「わしも、火しか・・見えとらん」

ぎょっとした顔で長門が言った。

「えっ!?何も見えなかったぞ?火ってなんだ?」

扶桑が首をかしげながら、思い出すように言った。

「慰霊碑というか、入り江の入り口まで、大勢の妖精や主力隊の皆さん、深海棲艦さんが居ましたよ」

扶桑姉妹以外の全員がすーっと青ざめた。

「な、何か言ってたの、かな?」

扶桑が頷きながら、

「ええ。提督が今後も弔いたいと仰った時、皆さん大層喜んでましたわ。」

「ひぃっ!?」

「工廠長さんがお盆の時期に来ようと言った時も、ぼたもち宜しくと仰ってましたわ」

工廠長は飲みかけの水を喉に詰まらせた。

「うっ!げほっ!げほっ!何?ぼたもち!?」

山城も何を今更という風情で言った。

「だから帰りの航海は静かで潮の流れも良かったじゃない。あれだけ大勢に守られてたんだから」

提督はふと、長門が自分の軍服の裾を握りしめている事に気付いた。

更に、膝の上の東雲がカタカタ震えている。

長門の手を握り、東雲の腹の上にそっと手を重ねると、二人はぎゅっと掴んできた。

提督はごくりとつばを飲んでから、問いかけた。

「え、ええと、ええと、山城さん」

「なんで真っ青なんですか?」

「その、その子達は、今も居たりするのかな?」

扶桑はきょろきょろと周りを見ると、

「到着したのを見届けて帰ったみたいですね・・・ええ、今は居られませんわ」

山城はニヒャリと笑うと、

「あ!提督の後ろに恨めし気なロ級さんが!」

「ぎゃああああああああああああああああ!」

山城は最初、叫んだ提督を指を指して笑い転げていたが、そのままピタリと止まった。

「な、なんだよ、山城・・・もう脅かさないでくれよ」

山城はそっと呟いた。

「ええと、幽霊さん?成仏出来ないなら手伝いましょうか?」

「・・・・・提督ノ、バカヤロウ」

ぎょっとして全員が振り向くと、ずぶ濡れになったロ級がそこに立っていた。

「ひぃぃぃぃぃぃ!じょ、成仏!成仏してくださあああああい!」

ロ級は全身から怒りのオーラをほとばしらせ、わなわなと体を震わせながら、

「提督!ナンダコレ!」

といって拳を突きだした。

提督と長門が出されたものを見て、同時に

「あ」

と呟いた。

それは、ダメコンの欠片だった。

「提督ガ!手榴弾ハ!箱ノ中ダト言ウカラ!適当ニ掴ンデ持ッテッタラ!コレガ挟マッテタンダ!」

リ級がぽかんとした後、ロ級を指差し、腹を抱えて笑い出した。

「カッ、艦娘ノ!ダメコンガ!深海棲艦ニモ効クッテ解ッテ良カッタワネ!最高!アハハハ!」

ロ級が真っ赤になって怒った。

「ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ!提督!私ニ何カ恨ミデモアルノ!」

提督と長門は両手と首をブルブル震わせて否定した。

「ちっ!違う!そんな事は決して!」

「提督も我々も、今の今までロ級は皆と成仏したって思ってた!本当だ!」

ロ級は大きく振りかぶってダメコンの欠片を浜に叩きつけた。

「チクショウ!コノ!クソ提督ゥゥゥゥ!」

東雲がとことことロ級に寄っていくと、

「運命ッテ、カコクダヨネ」

と、背中をぽんぽんと叩いた。

「アンタ、過酷ッテ意味解ッテンノ!?」

東雲は首をかしげながら、

「ンー、ナンカコウイウ時、使ウ?」

リ級は浜を転がっていた。

「アッ!アハハハ!ロ級ガ!ロ級ガ!子供ニ説教サレテル!傑作!死ニソウ!アハハハハハハ!」

ロ級が火山の噴火口のように真っ赤になったかと思うと、

「リ級!テメエ!許サネェェェェェェ!」

と、浜を追い掛け回した。

東雲は肩をすくめ、首を振りながら、

「ヤレヤレ、デスネ」

と、溜息を吐いた。

提督はぺたりと畳に座り込んだ。

もう疲れた。本当に、疲れたよ。

大将が同情の言葉をかけようとしたその時、赤城が言った。

「提督」

提督はゆっくり顔をあげた。

「なんだい?」

赤城はにっこり笑った。

「そろそろお昼です。メニューは何ですか?」

提督は長門が呼びかける声を聞きながら、ふわっと意識を失った。

 




予測した貴方、エスパーですか?

誤字1箇所訂正しました。ご指摘ありがとうございます。

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