艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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高雄の場合(4)

 

 

1年前、姫の島事案の少し後、鎮守府の砂浜。

 

機材を浜に積み上げていたリ級は、工廠長と高雄達を見つけると手を振った。

「工廠長サン!待ッテタワ!」

「加工場が欲しいじゃと?」

「チャントシタ工場ガアレバ最高。最悪、普通ノ倉庫ガアレバ良イワヨ?」

「工場・・のぅ。作った事が無いから図面が引けるかどうかじゃな。言うだけ言ってみい」

リ級は数秒考えた後、立て板に水のごとく話し始めた。

「エエト、立地ハ海ニ面シテ欲シイケド、食ベ物ヲ扱ウ場所ダカラ浸水ハ厳禁。建物内ハ防水加工ヲ・・・」

 

15分後

「・・ココノ天板ハステンレスデ表面ハNO4、ココニチタン製ノ直径1mノ釜ヲ75cmノ高サデ・・」

工廠長の眉がぴくぴくと動いた。

「ホントに細かいのう!」

「言ウダケ言ッテミロッテ言ッタジャナイ!」

「まったく、提督といい陸奥といい文月と言いお前さんと言い、なんでこうも似た者が揃うかのう」

「類ハ友ヲ呼ブカラヨ」

工廠長は図面を訂正し終えると、

「・・・こんな感じか?」

「ア、入リ口ハ奥行キヲ少シ広ゲテ。入口正面ニ風除ケノ壁ヲ作リタイノ、アトネ・・」

その時、愛宕が戻ってきた。

「ル級さんの方は後は大丈夫だって・・・あら、どうしたの?」

「リ級さんの加工場の打合せで、図面作ってるんだけど・・・ね」

その間もピシピシ指定していくリ級に、工廠長が溜息を吐いた。

「お前さんが一番細かいわ」

「マアマア」

愛宕は納得したように頷いた。

 

 

更に2時間後。

「こんなもんかの。まさかこんな短時間で基礎工事からするとは思わんかったわい・・」

「良イワネ!良イ仕事ガ出来ソウ!」

工廠長が建物を作った後も設備を入れながら手直しを重ねた結果は、どうみても食品工場だった。

「こんな短時間でこんな工場が出来るって、さすが工廠長さんよね・・・」

愛宕が巨大な換気口を見上げながら言った。

「コレナラISO対応デHACCP的ニモ良イワ。皆ニ天プラトカ作ッテアゲルカラネ!」

「ほほう、天ぷらはわしの好物じゃ。期待しとるぞ」

「マカセテ!」

愛宕が首を傾げた。

「天ぷらって・・・海老天とか?」

高雄が首を振った。

「天ぷらっていうのは、この場合薩摩揚げの事ですよね?」

リ級が頷いた。

「ソウヨ。形モ中身モ様々。オデンニ入レタリ、炙ッテ食ベルト美味シイワヨ」

「へえ、薩摩揚げの事を天ぷらって言うのねえ」

その時、整備隊の部下の一人が走ってくると、ピシッと敬礼しながら言った。

「ボス!機材搬入終ワリマシタ!」

リ級はにこっと笑うと、

「ジャア早速、試験運転ニ入ルカラ」

というと、加工場に向かって歩き出したが、すぐにひょいと振り返ると、

「ア、工廠長サンハ、モウチョットダケ居テ。手直シガ出ルカモシレナイカラ」

「まだこき使うか」

「使イ始メテ解ル問題ッテアルノヨ。チョットダケ!チョットダケ一緒ニ居テ!」

「しょうがないのう・・・」

「ア!入ル際ハ、ソノゴム長ヲ履イテ消毒槽ニ!ハイ!帽子!白衣!マスク!ゴム手袋!」

「目が三角になっておるぞ・・・白衣きついのう・・・」

「ホラ、帽子ハシッカリ被ル!エアシャワーハコッチ!」

「とほほ・・・」

あっという間に引っ張られていく工廠長を笑顔で見送ると、高雄は提督棟に足を向けた。

提督に説明した後、また寄りましょう。工廠長さんが倒れないように!

 

 

所変わって提督室。

 

「二人とも、たくましく生きてるなあ」

提督が高雄の報告にしみじみ言うと、加賀も頷いた。

「ちゃんと上を目指した仕事ですね。それにしてもクリスティンに出品出来るとは・・・」

首を傾げながら加賀に聞き返す提督。

「良く解らんが・・・それって、凄いのか?」

加賀は呆れたような顔をして答えた。

「世界中の名品が集まるオークションハウスです。出品出来ること自体名誉ですよ」

「んー、陸奥は艦娘より宝石デザイナーになった方が良いんじゃないか?」

「あ、陸奥さんの話では、石が研磨によって宝石になる確率は物凄く低いそうなんです・・・」

「なるほど。主収入にするには不安定なんだな」

「ですね・・」

「んで、とりあえず今の所問題は無いんだね?」

「はい。大丈夫です」

「うん、良くやってくれた。高雄達のおかげで迅速に解決の目処がついた。これなら事務方も安心出来る」

「い、いえ・・・あの、ありがとうございます」

その時。

提督室のドアがノックされた。

「はい!」

加賀の返事に応じるかのように、ドアが開くと、リ級がひょこっと顔をのぞかせた。

「提督、加賀サン、コンニチハ。高雄サン、サッキハアリガトウ」

「いえいえ。工場の出来栄えは如何ですか?」

「完璧。デ、工廠長サンヘ御礼ヲ兼ネテ、早速天プラヲ作ッタノ。良カッタラ試食シナイ?」

「おっ。それは良いね」

「頂きます」

 

はむっ。

 

「・・・旨い天ぷらはそのまま食うのが一番と聞いていたが、実感したのは初めてだ」

「もうこれは、そのままで料理ですね」

「お魚の味が濃厚で、もっちもちね。美味しいです~」

「こんな美味しいの食べた事ない・・・皆にも食べさせてあげたいわね」

「ウフフ。魚モ取レタテダカラネ。工場ノ皆モ喜ブワ」

提督が箸を止めて言った。

「折角工場も作ったのだし、持続体制を取るべきだ。うちにも販売する形で卸せばいい」

「ソウネ、一部ハ工場ノ建設費ト相殺スル形ニシタイシ。ココニモ売レルナラ嬉シイワ」

「建設費?律儀だな」

「アンナ凄イ工場貰ウワケニ行カナイデショ。文月トハ話ヲ済マセタワ。後ハ請求方法ト必要量ガ知リタイワネ」

高雄がにっこり笑った。

「請求方法は私がお教えできますからご心配なく」

「アリガトウ。ジャア、必要量ハ誰ニ聞ケバ良イカシラ」

「高雄、すまないが鳳翔と間宮さんの所に案内してあげてくれ」

「交渉も立ち会いますね。それじゃ、行きましょ」

「提督、アリガト」

「こちらこそ」

リ級と提督は笑顔で握手を交わした。

 

「ISO基準でHACCP対応の工場で作ってるんですか?安心ですね!」

間宮が目を丸くした。

「裏ノ浜ニ工場ヲ作ッテモラッタノ」

「まさに産地直送ですね・・・んー、このボール美味しい!」

「ソレハウチノ子達モ好キ。アトハ・・コレガ人ニハ好評カナ」

「さつま揚げも味が濃厚ですね。これなら軽く炙るだけで立派なおかずです」

鳳翔がゆっくり噛み締めながら言う。

「間宮さんと鳳翔さんのお墨付きなら文句なしですね!」

「ソレデ、必要量ハドレクライカシラ?」

間宮と鳳翔の顔つきが変わる。商人同士の会話だ。

「そうですね、美味しいから頻度を上げたいですが・・・」

「これらを幾らで卸してもらえるか、ですね」

リ級は眉間にしわを寄せながら電卓を数回叩くと、二人に見せた。

「・・・1kg辺リ、コレ位デ」

「え?こんな値段で良いんですか?」

「輸送費ガ無イシ、工場建設費ノ相殺分モアルシ、オ世話ニナッテマスシ」

鳳翔と間宮も自分の電卓を取り出し、それぞれ叩いた後で見せる。

「ええと、じゃあこの位大丈夫ですか?」

「うちはこれくらいで」

リ級は頷いた。

「ソレクライナラ問題ナイワ。トリアエズ2週間位ハ毎日様子ヲ見マス?」

「そうですね。後は需給量を少しずつ合わせて行きましょう」

「供給ハ明日ノ午後カラデ良イカシラ?」

「OKです!」

「じゃ、よろしく!」

リ級が鳳翔や間宮と力強く握手する様を見て、高雄は愛宕に囁いた。

「こうやって、皆で仲良く生きられたら、それが一番よね」

「ええ、そうね、姉さん。」

「私達が頑張って、第一歩を作らないとね!」

「そうね・・・ほんと、そうね!」

 


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