艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(3)

 

村雨が初めてクラスのメンバーと面接をした直後、鎮守府教室棟。

 

「んじゃ白雪、講評頼む」

天龍の言葉に、白雪が少し考え込むような仕草をした。

「・・・天龍さん」

「なんだ?」

「村雨さんのSPI・・見ても良いですか?」

天龍は村雨を見た。

「白雪に見せても良いか?」

村雨が答えようとした時、白雪が村雨をじっと見ながら言葉を被せた。

「私がSPIを見たら貴方の色々な事が赤裸々に見えてしまいます。それが嫌なら今のまま答えますよ」

村雨は白雪を見た。星占いって雰囲気じゃない。白雪の表情は大真面目だ。

そして、白雪はジト目になりながら天龍を見た。

「・・・と、きちんと仰ってから可否を問うべきですわ、天龍さん」

天龍は白雪にぺこっと頭を下げた。

「・・悪ぃ、白雪。そうだな」

天龍は村雨が不思議そうな顔をしてるのに気付いた。

「ん?どうした?」

「あ、いえ、あの、先生と生徒がまるで逆みたい・・って」

天龍は肩をすくめた。

「俺は今はたまたま白雪の先生って事になってるが、白雪は本物の天才だし、さっき言ってる事も事実だ」

白雪はふいっと窓の外に目線を逸らしたが、少しだけ頬が赤くなっていた。

「どうする?村雨。劇薬には違いねぇ。自分で決めな」

村雨は目を瞑って数秒間唇を噛んでいた。

「お願い、します」

天龍は村雨のSPI記録を白雪に渡し、良いから良いからと村雨を隣に座らせ、手を握った。

急に手を握られた事に村雨はびっくりしたが、この1週間で理解していた事があった。

天龍は、理由の無い事は何1つしない。これもきっと、意味がある。

白雪はゆっくりと最初から結果を見ていたが、ファイルを閉じると、

「村雨さん」

「は、はい」

「裏切ったのは長い付き合いだった子ですね?」

村雨の顔からすうっと血の気が引き、天龍の手を握る力が抜けた。

 

教室内を沈黙が支配した。

 

川内が僅かに頭を上げ片目だけきょろりと天龍に向け、質すような視線を寄越した。

それに気付いた天龍が頷くと、川内は再び伏せて寝息を立て始めた。

 

天龍の手の中で村雨の手はかたかたと震えていた。

でも、まだ、大丈夫。

白雪は村雨をじっと見ながら言った。

「今のまま、未来へ踏み出して大丈夫ですか?」

「・・・」

「いえ、言葉が悪かったですね。このまま未来に踏み出すのは、危険です。」

「・・・」

「貴方が残り時間ですべき事は、恐怖を吐き出す事です」

村雨は掠れるような声を出した。

「はき・・だす・・・?」

「ええ。天龍さん風に言うなら・・・」

白雪はスッと目を細め、ピッと人差し指だけを立てると

「裏切り者のクソ野郎がお前に何したか喋っちまいな!・・です」

村雨の顔面は蒼白で、手はじっとりと汗をかいていた。

そろそろ、無理だ。

天龍はちらりと白雪を見た。

白雪は天龍に小さく頷きかえすと、

「これは最終目標です。白星食品の試験対策は簡単でしょうから、こちらも並行して進められるはず」

村雨の手がぴくりと動いた。

「村雨さん、貴方の対策キーワードは1つだけ。それは・・・」

村雨はごくりと唾を飲み込み、白雪の言葉を待った。

「度胸です」

村雨は酸欠の金魚のように口をパクパクとさせた。思いが絡まりすぎて言葉にならない。

白雪は天龍を見た。

「講評は以上ですが、天龍さん、何かありますか?」

天龍は頷いた。

「おう、1つだけ」

「なんでしょう?」

天龍は村雨の手をぎゅっと握りながら言った。

「白雪はこの件、乗るかい?」

白雪は真っ青になっている村雨を数秒間、じっと見た後でにっこり笑うと、

「ええ」

と、答えた。

「伊168はどうする?」

「んー、保留かな」

「祥鳳は?」

「艦載機が関わらないなら喜んで」

「川内は?」

「夜戦なら」

「よし、川内も参加、と」

村雨が天龍を見た。

「え?あの、夜戦・・・するんですか?」

伊168が肩をすくめながら言った。

「川内ちゃんは夜戦が絡まないとYESって言わないからね・・」

そして続けて、

「あと、あたしが保留って言ったのは村雨ちゃんの事が嫌いなんじゃなく、中立点が必要なのよ」

「中立点?」

「すぐに解るわよ。村雨ちゃんが求めるならいつでも助けてあげるからね」

「は、はあ・・」

天龍は伊168に向かって言った。

「おいおい、それじゃ俺達がなんかヤバい事する人みたいじゃねぇか」

1ミリ秒も躊躇わずに伊168が返した。

「みたい、だったらどんなに良かったかしらね」

「良い事を教えてやるぜ」

「なによ」

「ここに居る奴は全員天龍組って呼ばれてんだ」

「もー!あたしはたまたま!たまたまここに居るだけなのに!」

祥鳳がウィンクしながらとどめを刺した。

「あなたも同類って事」

「絶対!絶対認めないんだからね!」

白雪が頷きながら言った。

「そもそも軍服と防弾チョッキ着て潜るのを拒否する時点で我々の仲間です」

「いつ敵襲があっても良いようによ!潜らなくても戦えるもん!」

「普通の潜水艦は水着を着て潜って出撃しますよ?」

「ぐっ」

天龍がパンパンと手を打ちながら言った。

「ほらほら、同類でも親戚でも似た者同士でも良いじゃねぇか」

「全部違うっての!」

「いーから、とりあえず、度胸付けるのに何が良いか、意見募集」

 

しんと静まった教室で、村雨は何となく嫌な予感がした。何となく。

 

「じゃ、川内」

「岩礁地帯を最大戦速で航行」

「祥鳳」

「爆撃の雨の中を弾無しで撤退」

「白雪」

「後ろ向きバンジージャンプ」

「伊168」

「パス!ていうか、最初なんだから加減してあげなさいよ!殺す気!?」

 

村雨は最後の伊168の言葉にごくりと唾を飲み込んだ。

ま、まさか。幾らなんでもホントにやらないよね?

あ!その為の仮想演習場よね。そうに違いない・・・何とか言ってよ天龍先生!

 

「んー、岩礁が続くサンゴ礁はちょっと遠いんだよなあ」

「今から行ったら丁度夜になるよ!」

「しょっぱなから夜航の最大戦速はきっついだろー」

「夜は良いよねぇ、夜はさ」

「夜が良いのは解ったが今回はパスな」

「えー」

「爆撃は悪かねぇんだが、協力してくれそうな空母が居ないんだよな~」

村雨が疑問の表情で祥鳳を見たが、その視線を受け止めた祥鳳はにっこり笑い、

「なんでしたら副砲ガン積みで炸薬榴弾の雨を降らせてあげましょうか?」

「い、いえ、いいです」

「艦載機なんてこの世からなくなっちゃえばいいのです!」

「えええっ!?」

「祥鳳は砲撃させたら百発百中なんだから雨じゃなくてフルボッコじゃねぇか」

「うふふふふふふふ」

「まぁいずれ隼鷹でも巻き込むか。そうすっと、最初はバンジーか」

「えっ?」

「定番ね」

「でも最近、あの辺りってずっと東雲組が使ってるわよ。大丈夫なの?」

「別に艦娘化作業してたって上から飛び降りるのは構わねぇだろ?」

白雪が首を振った。

「天龍さん、そういう所で確認をしないから怒られるんですよ、この前も事務方から・・」

天龍は苦い顔をした。おかんか?

「あー解った。解ったぜ白雪。確認とりゃ良いんだろ?」

「その通りです」

渋々天龍はインカムをつまんだ。

「・・・あー、高雄、俺だよ。天龍。ちょっと良いか?」

 

「はい、高雄です。あぁ天龍さん。・・・え?またやるんですか?・・・はぁ・・・はぁ・・・」

インカムでやり取りする高雄の様子を見ていた愛宕は思った。

相手が天龍さんって事は、またバンジーかしら?

白雪さんも変わったものが好きよね・・・

 

 


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