艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(6)

 

 

村雨の夕食会が終わった夜、天龍の自室。

 

「ふぅ~い、今日も頑張ったぜっと」

「天龍ちゃん、おかえりなさい」

部屋に帰ると龍田がタカタカとパソコンのキーを叩いていた。

「おう、ただいま。龍田はほんと忙しそうだよなぁ・・」

天龍がちゃぶ台の傍に座ると龍田はキーから手を離し、

「あらぁ、ごめんなさい。天龍ちゃんに構ってなかったかしら~」

と、背後からぎゅっと抱きついた。

「いや、そういう意味じゃねぇよ」

「良いじゃない、スキンシップ、スキンシップ~」

「・・・ま、いいけどさ」

首を少し傾けて龍田の頭とこつんと触れ合った時。

ヴーッ!ヴーッ!ヴーッ!

天龍のポケットでスマホがメールの着信を知らせた。

「ん?」

画面を見ると、タイトルに

 

「相談、良いですか?」

 

と書いてあった。

天龍は真顔に戻ると、メールを読み始めた。

 

 夜分ごめんなさい、先月までお世話になっていた電なのです。

 赴任先の鎮守府の運用について相談があるのです。

 私は秘書艦としてやりくりしてるのですが、いつも資材不足になって困っているのです。

 司令官さんは良い人で、出撃も育成もとても熱心なのです。

 最近は装備を整えたいと仰って開発を強化しているのですが、失敗ばかりなのです。

 そちらでやるより失敗続き・・というより、ほぼ100%失敗なのです。

 司令官さんがほとほと困ってるので助けてあげたいのです。

 どうしたら良いでしょうか?

 

「あらぁ、どこの子?」

「んお?ええとな・・・」

差出人のアドレス帳を開き、メモ欄を見た。

「・・・第14125鎮守府、秘書艦として行ってる」

「ということは、司令官は新人さん?」

「そういう事。相談内容もいかにも、だ」

「赴任前のLVは?」

「2」

「じゃあほとんど新人さんねぇ」

龍田はPCを操作しながら首をひねった。

「そうね・・毎日1000前後溜めては1桁になるまで使ってるわね・・・」

「マジか?」

「ほら」

「・・・・ホントだ。1桁だと食事も困るだろうから秘書艦としては頭痛ぇだろうな」

「毎晩頑張って出撃してるのね。建造は少ないみたいだけど」

「んー・・・・あ!」

「どうしたの?」

「この時点でこの開発を毎日回すのはキツイだろ・・・ボーキの量から考えて艦載機狙いか?」

「赤城さんを迎えた頃と一致してるわね・・・でも、このレシピは見たこと無いわ」

天龍と龍田は顔を見合わせた。

「・・・間違えてねぇか?」

「20、10、60、110・・・あ」

「もしかして、20、60、10、110がやりたいのか?」

「横縦間違えて覚えたのね~」

「よっし」

天龍は返信をタップした。

 

 電、元気そうだな。天龍だ。

 相談読んだぜ。司令官と頑張ってるじゃねぇか。

 早速だが返事だ。最近回してるレシピ、艦載機狙いなら弾薬が60で鋼材が10だぜ。

 それでもダメならまた連絡してこいよ。

 あと、余裕が出たら燃料11、弾20、鋼材111、ボーキ10もやってみな。

 

「ま、こんなもんだろ」

「あらぁ、秘蔵のレシピ教えちゃうの?」

「良いじゃねぇか」

「可愛い教え子ですものね~」

「ま、そういうことだ」

天龍は手を組み、腕を上にぎゅうっと伸ばした。

「ねぇ天龍ちゃん」

「んあ?」

「休み取れてる?大丈夫?」

「そういや妙高にも言われたな。俺は傍から見てヤバいほど働いてるか?」

「天龍ちゃんのクラスに常時誰か居るって状況は最近になってからでしょう?」

「そりゃそうだが、妙高達や龍田はいつも大勢教育してるだろ」

「私達は教科書通りに教えれば良いけど、天龍ちゃんの場合は教育というより療養だから」

「そうか?確かに教科書はねぇけどさ・・・」

天龍は思い出したように笑いながら、

「白雪はすぐに新入りの指導ポイント見抜くし、伊168は封印された心をこじ開けるのが上手い」

「川内は絶妙なブレーキ役だし、祥鳳はそれを解ってて揺さぶりをかける」

「俺は確かに先生やってるけど、実際教えてんのはあいつらのようなもんさ」

龍田はにこっと笑った。

「天龍ちゃんの人徳よねぇ」

「ん・・んなもん・・ねぇよ」

「天龍ちゃんの言う通り、あの子達の能力が高いのは事実だけど、凄過ぎて敬遠されちゃった子達だもの」

「そこが解らねぇよな。提督も言ってたけど好きにやらせりゃ良いじゃねぇか」

龍田は溜息をついた。

「提督は許容範囲が広過ぎるからね・・・」

「待て龍田。それはつまり俺もってことじゃねぇか」

「さぁ、どうかしら~」

「まぁ・・・良いや。それで思い出したんだけどさ、龍田」

「なにかしら~」

「あの4人、マジで行き先ないのか?」

龍田は困った笑顔を浮かべた。

「過去と能力を説明するとね、相手先の鎮守府がどこも尻込みするの」

「けど、あいつらはホントに頑張って自分を鍛えてるからさ・・・」

「ええ。だからこそ、それを受け入れられる鎮守府も少ないの」

「大きな鎮守府でもダメなのか?」

「残酷な話、もし彼女達が戦艦や正規空母なら引く手数多だったでしょうね」

「うちの提督は、どの艦種も大事だって言ってくれるのにな・・」

「そうね。でも、それは多数派ではないの」

「・・・だとしてさ、龍田」

「なぁに?」

「この先も深海棲艦を艦娘化して教育するなら、うちのクラスに来る奴は絶えないだろ?」

「・・・ええ、現実論としてはそうでしょうね」

「そいつらの為に、あの4人を雇えないか?」

「・・・まぁ、提督はOKと言うでしょうね」

「提督は・・って事は」

「肝心な事は、白雪さん達がそうしたいかって事」

「・・・」

「あの子達が、自ら教育班の講師を望むならいつでも頼んであげる」

「・・・」

「でも、天龍ちゃんが行く先が無い事に同情して動いたら、それこそあの子達が可哀想」

「・・・」

「私個人としては・・良い案だと思うわ」

「・・・龍田」

「あの子達は凄く頭が良い。だからあらゆる物を通り越して結果を読んでしまう」

「・・・」

「結果が見えてしまうから、司令官を想ってるほど、良かれと思って意見してしまう」

「・・・」

「でも自分の言う事を聞かない事に司令官は疎ましく思い、言われた通りの結果になって驚き、恐れるようになる」

「・・・」

「そして、それぞれの艦種としての戦い方に嵌めればあの子達は才能を発揮出来ない」

「・・・」

「あの子達を動かすのは優秀な人じゃなくて、思いの通りにやらせてあげる人」

「・・・そうだな」

「そこまで認めて、受け入れて、使ってあげられるのは・・・」

「・・・うちの提督くらいじゃね?」

「ええ。でも、行き場が無いからここに来ると言うのと、来たくて来るのでは全く違う」

「そうだな」

「あの子達が最大限能力を発揮して一丸となったら、うちの第1艦隊並みの実力だと思うんだけどね」

「・・・」

「あの子達が望む未来としてうちの鎮守府が上がるなら、それはとても嬉しい事なんだけど、ね」

「・・・何とかできねぇかなあ」

龍田は天龍の鼻先をつんと指で弾くと

「頑張ってね、天・龍・先・生」

「うー」

「うふふふふ」

 

 


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