艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file20:夜ノ訪問客

4月1日夜 岩礁

 

「どうぞ、開いてますよ~」

提督は答えてからおかしい事に気付いた。ここ、海の只中の小屋だ。

なぜノックされるんだ?

見知った顔は全て部屋の中に居るってのに、他に誰が居るんだ?

 

ガチャリと開いたドアから顔を見せたのは、長門だった。

「提督、邪魔するぞ・・って、何だ?その恰好は?」

「何だというのは?」

「藻染めでも挑戦したのか?」

「違う。五十鈴と夕雲と響から茶をかけられた」

「ついにハレンチな事でもしたのか?」

「ついにってなんだ。違う。ちゃんと説明してやる。その間は水も飲ませないからな」

「なぜだ?」

「もう熱い思いは御免だからな。ところでどうした。もうクビになったのか?」

「ある意味、間違ってはいない」

「とにかく入れ。遠慮は要らん。外は寒かろう」

「ああ、邪魔するぞ」

にこにこしながら入ろうとした長門の前に、台所から2つの影が出てきた。

長門の目が点になった。

 

「ま、まてっ!待て長門!」

「ちょ!て、提督!違う!どう見えてるか知らんがそいつは人間じゃない!」

「解ってる。ヲ級だろ?砲を下せ。攻撃中止!中止!」

「解ってるだと?き、貴様深海棲艦か!?提督を食ったのか!」

「違う!レーダーで見てみろ。深海棲艦反応は・・・あ、ヲ級が居るからあるな」

「貴様あああああああああ!」

「待て!違う長門!違う!本物の私だ!」

「じゃあ証拠を見せてみろ!」

41cmの砲門がピタリと狙っている。ガチンという装填音がした。

あんなもん発射されたら小屋ごと粉になる。

提督は極僅かな時間考えたが、それしか思いつかなかった。

「な、長門はっ!」

「なんだ!」

「私が買ったピンクのウサギのぬいぐるみを毎晩抱いて寝てるだろ!」

 

瞬間、場が凍りついた。

 

これは私しか知らん筈だ。本人と認めてくれたかな?

「長門、私だ。本当の提督だ。このヲ級は故あって・・・」

「提督、提督」

「なんだ響、早く長門に納得してもらわないと」

「長門、聞いてないよ」

えっ?

そういえば、固まってる気がする。

恐る恐る長門の目の前で手を振ってみる。何の反応もない。

「本当ニ、変ワッタ鎮守府ダナ」

ヲ級が小さく呟いた。ぬいぐるみを抱いて寝る戦艦?私の中の戦艦娘イメージがガタガタだ。

何というか、自分の境遇が大しておかしくない気がしてきた。

だって、戦艦とぬいぐるみだぞ?機関銃とセーラー服くらい取り合わせとしておかしい。

そうか、そんな映画あったな。いやそういう話題じゃない。

 

「も、もう戦艦として生きていけないではないか~」

玄関で硬直した長門を3人がかりで部屋に引っ張り込んで1時間。

ようやく長門は意識を取り戻したが、わんわん泣き出してしまった。まるで少女のように。

「す、すまん、長門。すまん」

「うえええええん」

「悪かった。私が悪かった。何でもするから許せ」

そういうと長門は、上目遣いに提督を見た。

「ほ、本当か?」

「あぁ本当だ。今度は青のペンギンのぬいぐるみを買ってやろう」

「いらない」

「そうか、何でもいいぞ」

「・・グスッ・・・ヒック・・・考えとく」

 

少し離れた所では、響とヲ級がちゃぶ台を挟んで仲良く茶を啜っていた。

提督達を見ない方角を向いて。

関わらないですよ私達は。

見ざる言わざる聞かざる天ざるです。カボチャの天ぷらがベストです。

むっ、提督がそわそわしてる。なんかこっちに話が振られそうな気がする。

響とヲ級は同時に察知した。

 

「ヲ級、茶のお代わりいらないか?」

「アァ、私ガ淹レテコヨウ」

「いや、私が行くよ」

「イヤイヤ、私ガ」

「いや、大丈夫。遠慮しないで」

 

部屋を脱出すべく、お互いを制しながら台所に脱出を図る二人。

その時、提督が声をかけた。

 

「ヲ級」

くっ、響が勝ち誇った顔をして台所に行った。もう逃げられない。

「ナ・・・ナンダ?」

「朝の話、長門にしても良いかな」

「ア、アア、構ワナイ。好キナダケシテクレ」

「ヲ級?」

「チョ、チョットトイレ行ク」

「あぁ、行って・・おいで」

ヲ級がいそいそとトイレに入った。

・・・え?

ヲ級トイレ行くの?

そうなの?

ちゃんと電気つけてるし。カギかけてるし。

まぁ良いか。良いのか?

 

飲み物を置かずに説明するとなんて早いのだろうと、提督は思った。

熱い湯を被る事も無いし。制服が緑に染色される事もない。

長門は過呼吸で少しオーバーヒートしてるがな。

「ちょ、ちょっと待ってくれ提督。驚きすぎて息が苦しい」

「そうだな、少し休もう」

頭から湯気が出そうな長門と私に、響がそっとお茶を置く。

お、おい響、私をまた緑に染めたいのか?

響が耳元で呟く。

「ちゃんと冷茶にしたよ」

心遣いはありがたいがそういう問題じゃない。

 

一方、ヲ級は出るタイミングに困っていた。話は済んだのだろうか?良く聞こえない。

入ってから何もしてないけど水は流した方が良いか?痛い子なんて思われたくないし。

ん?痛い子ってなんだ?ひょいと出てきたけど言葉の意味が解らない。

「提督」

「ん?ヲ級どうした?紙が無かったか?」

「違ウ。『痛イ子』トハ、ナンダ?」

「・・は?」

「イヤ、知ラナイナライイ。急ニソウイウ言葉ヲ思イ出シタダケダ」

「記憶が、途切れているのか?」

「途切レテイルトイウカ、曖昧ナ部分ガ沢山アル。他ノ深海棲艦ハ解ラナイガ」

「そう、か」

「あ、あのね」

「響、ドウシタ?」

「ええとね、痛い子っていうのは、恥ずかしいとかみっともない事をする人の事だよ」

「ソウカ。ナルホド」

 

長門と提督は冷茶を啜りながら二人を見ていた

こんこんと現代用語の基礎知識を説明する響と、うなづくヲ級。

なんだろう、この不思議空間。気にしたら負けか。

 

「茶、美味いな」

「ああ、美味いな」

とりあえず茶を飲んでゆっくりしよう。

長門がなぜ来たかまだ聞いてないけど。

「提督よ」

「なんだ」

「ゆ、指輪で、良いぞ」

「ん?何?聞こえなかった」

「何でもない」

 




うちの長門さんはケッコンカッコカリ出来るまで、まだまだ先は長いです。
大事に育てます。
頑張ります。
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