艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(38)

 

龍田が天龍組と響を面接してる頃。鎮守府の中庭で。

 

「あ!伊168さん!」

「村雨ちゃんか。どうしたの?」

村雨が伊168を見つけると、ぱたぱたと駆け寄ってきた。

「あの、川内さん見かけませんでしたか?」

「んー、響ちゃんと一緒に居るんじゃないかな・・・解んないけど」

「その響さんを探してるんだけど二人とも見つからなくて」

「なにかあったの?」

「響さんの連絡先を聞いておきたかったの」

「あぁ、それなら知ってるよ。メアドと電話番号とIDで良い?」

「うん、十分」

「じゃあ通信でアドレス帳送ってあげる」

「・・・よっし、受信した。ありがと!」

「準備、進めてるんだね」

「天龍先生が何かしようとしてくれてるみたいだけど、就職は間違いない未来だし」

「まぁ、そうよね」

「後で聞き逃した事に気付いたら嫌だなって思って確認してたら、響さんの連絡先聞いてなかったって」

「でもさ、働き出してからだって売店とか食堂では会えるでしょうに」

村雨の動きが固まった。

「・・・・・へ?」

「え?」

村雨は伊168の肩をがっしりと掴んだ。

「ど!どういうこと?ねぇ、会えるの!?入って良いの!?」

「ちょ!く、苦しいって・・・落ち着けっ!」

「う、ごめん」

「全くもう・・・ええとね、白星食品の社員は鎮守府の食堂と売店には入場が認められてるの」

「ほんと!?」

「そうよ。外部の受講生も利用する為に作られてるから良いだろうって、提督が言ったらしいわ」

村雨はぺたんと膝をついた。

「鎮守府の子とは連絡だけで、もう一生会えないんだと思ってた」

「大袈裟ねえ・・・それに鎮守府に入れなくても連絡して外で会えば良いじゃない」

「あ」

「・・・考えが回らなかったのね」

「うん」

「だからあの時大泣きしたのね」

「う・・・ん」

「まぁ、普通に生活してれば知らない情報だよね」

「伊168ちゃんは何で知ってるの?」

「随分前、白星食品が出来るちょっと前に、提督達がそういうルール決めでドタバタしてたの」

「へぇ」

「私はまだ普通の受講生だったんだけど、先生からコピー頼まれた書類がルールの最終稿だったのよ」

「それで?」

「だからコピーのついでに読んでたの。まぁ、潜水艦だから情報集めるのは好きだしね」

「なるほどねえ」

「そういやそういう事、天龍先生話してないよね」

「うん」

「明日にでも教室で聞いてみたら?教えてくれると思うよ」

「ありがと!凄く気が楽になったよ!」

「役に立てて良かったわ」

「じゃあね!」

「ええ、また明日」

ててっと駆けていく村雨に手を振りながら、伊168は微笑んだ。

明日は色々衝撃的な日になりそうね、村雨ちゃん。まぁ良い事だから良いんだけど。

それにしても先生たちは上手く行ったのかなあ?

 

 

午後、提督室。

 

「なるほどなぁ・・・確かに白星食品と陸奥の工房だけって必要も無いしなあ」

だが、本日の秘書艦である加賀は首を捻った。

「それは鎮守府の仕事なのでしょうか?業務を拡大し過ぎるのは如何なものかと」

龍田は頷いた。

「ええ。歯止めは必要です。コンツェルンになりたい訳じゃないしね」

「その辺、龍田さんはどのようにお考えなのですか?」

「教育と敷地という2つの歯止めをかけようと思ってるの」

「教育と敷地?」

「ええ。まず教育の方だけど、人間として旅立たせるにしても、いきなり世間に放り出すのは可哀想よね」

「そうですね」

「だから、教育期間の間に起業させてみるの。安定させられるなら卒業後は一般金融に切り替えさせる」

「なるほど。経営の実習って事ですね」

「近いのはベンチャーキャピタルね。でも、そこまで教育方で引き受けるのは無理だから今まで出来なかった」

「確かに」

「もう1つの敷地というのは、言うまでも無くこの島の中にある白星食品と陸奥さんの工房の話」

「鎮守府との経理事務って事ですか?」

「ええ。2社との決済関係まで事務方がしてるから重荷になっちゃってるの」

「そうですね」

「だから鎮守府の経理部門と教育用ベンチャーキャピタルを受け持つ部署を、白雪さん達で作ってもらうの」

「鎮守府の経理もですか?」

「ええ」

提督がふむと頷いた。

「事務方は書類改善で随分作業が減ったらしいが、それでも不知火や文月は遅くまで仕事してるからなあ」

「ええ。もう少し軽くしてあげても良いかと思うわ」

「・・・ふむ」

じっと考える提督に、白雪は恐る恐る口を開いた。

「不躾だとは承知しておりますが、申し上げてもよろしいでしょうか?」

「ん?良いよ、そんなに堅くならずに言ってごらん」

「私、大本営で経理事務をしていたんです」

「ほう」

「ですから、昔やっていた事なので、素人ではないつもりです」

提督は白雪をじっと見た。

「・・・しかし・・・これをやると、バンジー出来る回数が減るかもよ?」

「うぐふうっ!」

「大丈夫?」

「うぅ・・・だ、大丈夫・・大丈夫です」

「・・・ホントに?」

「死力を尽くして効率化に励みます。絶対に時間を捻出します!」

「・・・龍田さん」

「何でしょうか?」

「最初から全部負わせるのは可哀想じゃないかな?趣味と両立させてあげようよ」

「んー、それならまず、白星食品と工房の経理事務からやってもらいましょうか」

「それくらいが良いと思うよ。まだ事務方がパンクした訳じゃないしね」

「・・・パンクするまで手をこまねくつもりですか、提督?」

「ひっ!?いっ!いえっ!そんなつもりは!」

「その前に手を打ちやがれ、ですよ~」

「だ、だだだだだからこの案を通して良いよ!良いから!」

「そうですか?じゃ、そうしますね~」

 

一同が去り、パタンとドアが閉まった後、提督はへちゃりと机に伏した。

龍田は苦手だ。言ってる事は正しいんだが。

そんな提督の背中に、加賀は優しく手を置いた。

「んー?」

「・・・提督も色々大変でしょうけど、私も精一杯支えますので」

「解ってる。いつも本当にありがとうな。感謝してるよ」

加賀はくすっと笑った。

 

 

月曜日、天龍の教室。

 

「・・・え?言ってなかったっけ」

「聞いてないです聞いてないです超聞いてないです」

村雨から指摘を受けて、白星食品と鎮守府のルールについて説明してなかった事に気づいた天龍は、

「悪ぃ悪ぃ、これに書いてあるし、細かいのはビス子から聞いてくれ。俺説明は苦手なんだ」

と言いながら、村雨に書類を手渡した。

「説明が苦手って・・・先生でしょう?」

「先生にだって得手不得手はあるんだぜ・・・」

「とにかく、食堂と売店は入れるんですね?」

「おう、特別な理由が無い限り、時間は0800時から2000時までって制約はあるけどな」

「まあ夜中に入るつもりも無いですし」

「そんなとこだ。で、今朝はもう1つニュースがあるんだぜ?」

村雨が首を傾げた。

「ふえ?なんですか?」

 


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