艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file22:提督ノ塩梅

4月1日夜 岩礁

 

すっかり夜も更け、響の現代用語セミナーが終わりを告げた。

大人しく聞いていたヲ級が礼を言うと立ち上がった。

「ソロソロオ暇スル」

提督が答えた。

「そうか。またおいで」

長門が冷茶を吹くが、着地点に居た響は素早く避けた。

「ゲホゲホッ!待て提督っ!」

「はいよ」

「どこまで仲良くなるつもりだっ!」

「深海棲艦にも同情すべき境遇の者が居る。温かく迎えてやろうよ」

「あ、あのな」

「・・・シ、心配スルナ。大丈夫。モウ、オ邪魔シナイカラ」

提督が長門をジト目で見る。

「あーあ、長門が苛めるからヲ級が涙目じゃないか」

少しドキリとした顔で提督を見るヲ級。

「エ?」

「わっ、私のせいなのか!?」

「イヤ、私ハ・・ムググ」

提督がヲ級の口を手で押さえながら続ける。

「戦艦娘は皆、度量も広い武人だと思ったのだが、な」

長門がぴくりと反応する。

「・・・私の度量が狭いとでもいうのか?」

「違うのかな?」

「違うさ!」

「なら可哀想な境遇に居る元艦娘にその広さを示してやりなさい」

「えっ、いっ、その」

「鎮守府筆頭艦娘の素晴らしい度量を見たいなあ」

「・・・あーもう好きにしろ!いつでも来い!何人でも来るがいい!」

提督の目配せに返しつつ、ヲ級は思った。

また、この漫才を見に来るのも良いかもしれない。面白いし。

「ソレデハ提督、マタネ」

「うむ、またな」

ぱたんとドアが閉まると、長門は一縷の望みにかけるべく響に問いかけた。

「なあ、深海棲艦は、戦うべき敵だよ、な?」

「別に、あのヲ級は嫌いじゃない」

がくりとうなだれる長門。

響、もう提督に毒されたか。素直な良い子だったのに。半日預けたばっかりに。

提督がぽんと長門の肩に手を置いた。

「運命は時に苛酷なのだよ」

「主砲一斉射して良いか?」

「冗談でもよしなさい。さて長門」

「なんだ?」

「お前さんの用事は?」

「・・・あ、そうか。のっけの藻染めから、あまりの出来事ばかりですっかり忘れていた」

「なんかあったのか?」

響は澄ました顔で明後日の方向を見ていた。提督はどう反応するかな?

「なに、簡単な話だ。向こうにソロル本島があるだろう?」

「あぁ、割と大きな島だな」

「そこに鎮守府を建設している。あと2週間で出来るから来てくれ」

 

この夜、2度目の静寂が訪れた。

 

「お前達と来たら、まったく」

計画内容をすっかり聞いた提督は、怒るというより呆れていた。

わざと顔をしかめて目を瞑り、長考に入った。

時間稼いで反芻しないと整理出来ないからな。

 

ええと、まず超多重遠征と装備転売で大量の裏資材を確保し、

裏資材を突っ込んで鎮守府全艦娘と全装備の複製を作成し、

ソロル本島近海の深海棲艦を大艦隊で討伐し、

工廠長を派遣して鎮守府を作らせ妖精を強制移住させ、

その証拠隠滅の為に鎮守府の工廠を爆破し、

爆発の責任を横領疑惑のある調査隊に被せて、

全部の許可を大本営に取り付けた。

それらを私に一切内緒で、うちの艦娘だけで計画し実行したわけだ。

3日間で。

 

・・・・・。

 

なんですかそのブラックオーダー。期間限定クエストが可愛く見えるぞ。

東京でユキヒョウ探して来いってのと大して変わらない無茶ぶりだぞ。

大本営がそんなクエスト出したら暴動起きるわ。

しかし、そうか、なるほど。

思えばあの怪しい任務表はそういう事か。てことは任務娘もグルか。

それで中将は五十鈴達を寄越したのだな。大方、長門-大和ラインだな。

昨晩の様子が打ち上げみたいだったのも文字通りそういうことか。

完敗だよ諸君。昨日の涙を返してくれよ。

あ!扶桑は「最後まで」とは言ったが「3月31日まで」とは一言も言ってない!

くっ、ころっと騙された。凄い。凄いぞ扶桑!座布団1枚だ!

まったく理由がこそばゆいな。怒るに怒れん。

しかし本当に奇跡の作戦だ。ここがキスカか。いやソロルだ。チロルじゃない。

チョコか。合わせてキスチョコだな。お返しは決まった。買って来よう。

 

長門は提督が厳しい表情で考え込んでるのを見て、内心ドキドキしていた。

発案者も責任者も私だ。私が処分を受ければ良い。後悔はしない。

提督はふぅと一息吐くと、目を開けた。

「まぁ考え付くかもしれんが、よく実現したなあ」

「え?それだけか?」

「なんだ、叱ってほしいのか?趣味か?ヒールで踏まれたいか?」

「私は変態じゃない。いずれにせよ、かなり疲れた。しばらく遠慮したい。」

「そりゃ、普通は不可能な作戦をやったんだ。私もこんな異動は二度と御免だよ」

長門と提督は顔を見合わせてふふっと笑った。

響は立ち上がった。お茶の御代わりを出しても水鉄砲にはならなさそうだ。

 

その後も細々した報告を長門から受けていた提督は、ある単語を反芻した。

「簿外在庫か」

「提督は知っていたか?」

「以前不知火が89式とか持ってきたよ。これどうしましょうと言ってな」

「それで?」

「事務方で適当に処分して良いよと言った」

「適当だな。あ、いや、適切という意味じゃない」

「あきつ丸と隅の方でゴソゴソやってたし、菓子代にでもしたんだろ」

「結果的には良かったが、問題ではないか?」

「文月が事務方を握る限りは大丈夫だ。あの子は限度を弁えている」

「もう少し厳しく管理すべきではないか?軍である以上、規律は大事だろう?」

「長門」

「なんだ?」

「木をくりぬいた器は、いかなる時にも隙間があってはいけないよな」

「当然だ」

「だが、樽のタガはな、乾いてる時に隙間なく締め上げると、水を入れたら樽が割れてしまう」

「・・・。」

「木は水を吸って膨らみ、乾いて戻る。でも少し曲がり、完全には元に戻らない」

「・・・。」

「だから色々な木を束ねるタガは、木と木の歪みを吸収する余裕を与えつつ、水を漏らさないよう全ての木を導くのだ」

「・・・。」

「長門。お前はとても優秀で誇り高く、自らを厳しく律する素晴らしい艦娘だ」

「なっ・・・・」

「長門。皆を一層活躍させる為には、タガの話を忘れるな」

「・・・。」

「長門のようにまっすぐな者、遊びが少しある者、遊びが多い者、時により変わる者、色々だ」

「・・・。」

「お前がお前である為に厳しく己を律するのは褒め称えられる事だ」

「・・・あ」

「だが、組織は全員が噛み合って威力を発揮する。だから締め上げるな。導くんだ」

「私に正しい加減が出来るか?荷が重いが」

「失敗したら私も一緒に謝ってやる。話を聞き、試行錯誤し、成功を覚えろ。これだけの大事を成し遂げたお前なら出来る。」

「な、なんだかくすぐったいぞ。褒め過ぎだ。」

「ん?長門がくすぐりで弱いのは膝だろ?」

「なぜ知ってる!」

「ほーれ、くすぐるぞー、ほれほれー」

「そのワキワキした手の動きを止めろ!やめろおおお!」

響は窓の外を見やり、熱いお茶を啜って溜息を吐いた。

あーあ。人を無視したラブコメ漫才早く終わんないかな。

部屋がムンムンで熱いよぅ。おまわりさん、地球温暖化の原因が居ますよぅ。タイホしてくださいよぅ。

ま、提督は納得したようだし。良いか。

ちらっとガラス越しに提督と長門を見る。楽しそうだ。

仲間って、良いな。

響は窓越しに星空を見上げた。

司令官。川内姉さん。私はこの提督についていく事にするよ。

心配しないで。

 




響がどんどんフリーダム化してます。
とても便利です。でも私にも響の行く末が見えません。

響「言う通りにしてるとクールでスマートなイメージが壊れそうな気がするんだけど?」
作者「まぁ、便利だし、もう手遅れだから」
響「・・・試し撃ちして良いかな。12.7cm」

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