艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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加賀の場合(6)

 

 

臨時特大号が発行された日の夕方。提督室。

 

「渡しちゃえって、今?」

「はい!」

「なして?」

「私達が一緒に居ますよ!そうしたら流血の事態にならないんじゃないですか?」

「おお!なるほど!」

「じゃあお呼びしますね!」

「急展開だなあ・・・」

加賀と扶桑はそっと提督の手を握ると、

「何かあっても、私達がお守りしますから」

といって微笑んだ。

「ほんと心強いよ。ありがとう」

 

「どうした提督、用事だと聞いたが」

「日向、ええとな、まずは改めて、いつも私を支えてくれている事に感謝し・・」

「あー!!」

「ど、どうした扶桑!?」

「提督っ!私っ!そういうお言葉頂いてません!」

「・・・へ?」

「指輪を頂きながら、これからもよろしくねしか言ってもらってません!」

「な、なに!?ゆ、指輪!?ここはそういう場なのか!?」

「あー・・・」

提督は一瞬迷ったが、

「扶桑さん、ちゃんと言うから待ってくれるかな?」

「絶対ですよ!」

「うむ」

「なら待ちます」

「よし。それでだね日向」

「か・・」

「か?」

「か、髪型は崩れてないか?急いで来たから、その、鏡を見て無くてな」

「大丈夫だよ日向。ちゃんといつもの通り、りりしくて可愛いぞ」

「そ、そうか・・」

「で、その日向にな、指輪を用意したんだよ」

「あ・・・」

「ケッコンカッコカリは他の鎮守府は司令官からの命令に近いが、うちでは自由意志にしたい」

「・・・」

「その、承知してくれるかな?ケッコンカッコカリ」

日向はしばらく固まっていたが、

「ま、まぁその、てっ、提督が折角用意してくれたのだからな」

といって、小さく小さく頷いた。

そして皆の拍手の中、提督は日向の左手に指輪を嵌めたのである。

提督が扶桑の手を取り、求婚のやり直しをしている間、日向は加賀にそっと話しかけた。

「これが、ケッコンユビワ、か」

「ええ。私も今日頂きました」

「なんだかくすぐったいな」

「重くない筈なのに重くて」

「冷たい筈なのに暖かくて」

「見てるだけでニヤニヤが止まらなくて」

「とにかく、ただ、嬉しいな」

「・・・でも良かった」

「何がだ?」

「日向さんとは本当に長い事一緒に居ましたし、色々相談にも乗って頂いたので」

「本当に、色々あったな」

「だから、提督を大好きな日向さんの思いが叶って、良かった」

「んえっ!?なっ、なぜ勘付いた?ずっと黙ってたのにっ!」

「私も表情を抑える事には慣れてますから」

「う、ううう、気付かれてたとは恥ずかしいぞ」

「私も今、喜びで一杯ですよ」

「全く表情に出てないが?」

「普段の5倍くらい気を引き締めてます」

「締めないとどうなるんだ?」

「だらしなく笑いながら提督に抱き付いてしまいそうです」

「愛が溢れてるな」

「ええ。それで良いんだと思います」

日向は視線を戻した。提督が龍田にこわごわ指輪を嵌めている。

「龍田の奴、嬉しそうだな」

「そうね。龍田さんも我々に負けず劣らずポーカーフェイスですが」

「滲み出る喜びは隠しようがないか」

「でも提督は気付いてないですね」

「提督がそんな繊細になったら海水が干上がってしまうよ」

「地球上から空気が無くなるでしょうね」

「全くだ」

日向と加賀はそっと顔を見合わせると、くすくす笑った。

 

「え?」

「だからね、文月は、私とケッコンカッコカリをしてくれるかい?」

「・・・・」

文月は数秒間ぽかーんとした後に、

「良いんですか?」

「文月が良いなら」

「あ、あの、確かに私はLV99ですけど、普段兵装持ってないし、出撃しないし」

「戦闘力強化だけの為にするわけじゃないからね」

「あ、あの」

「ん?」

「ケッコンカッコカリしたら、やっぱり旦那様って呼ばないとダメですよね?」

「いんや、お父さんで構わないけど?」

「そうなんですか?」

「夫婦でも子供がいる所だと父さん母さんで呼び合う所もあるじゃない」

「じゃ、じゃあ私はお母さんて呼ばれるんですか?」

「今まで通り文月って呼ぶつもりだけど?」

「・・・じゃあ、OKです。」

「制度があれば、文月とは養子縁組カッコカリをしたいけどね」

「あは。そうですね。私もお父さんとは親子になりたいです」

「どうして?」

「親子の縁は永遠に切れませんから」

あっさり放たれた強烈な答えに一同はぐきりと文月を見た。

父と呼んでいたのはそういう訳か。誰よりも強烈な愛情表現じゃないか。

「制度が無くて残念です~」

と言いながら、文月は提督の袖口をぎゅっと引っ張った。

「とりあえず、指輪を嵌めてくださ~い」

「解った。じゃ、手を出して」

文月の小さな細い指にリングを嵌めると

「えへへへへへー」

と、文月はにこにこ笑ったのである。

龍田は顎に手を当てて考え続けていたが、文月と提督の会話が一段落したのを見て口を開いた。

「旦那様ぁ~」

「なっ、なにっ!?」

「冗談ですよ提督。そんなに慌てないで」

「んで、なんだい?」

「浜風ちゃんのように、艦娘側から贈るのもありにしたんでしょ?」

「そうだね」

「それはそれで良いと思うのだけど、陸奥さん達や浜風ちゃんに平和を取り戻してあげないと」

「・・・なるほどね。このまま明日を迎えるのは良くないよな」

「はい~」

「何かいいアイデアがあるんだね、龍田?」

「ベストかどうかは解りませんけど、希望者窓口を作ってはどうかしら?」

「ふむ。でもどこで?」

「提督室だと秘書艦さんが普段のお仕事と合わさって大変ですよねえ」

「う、うむ。人数が読めないしな」

「事務方では・・・きついのね。解ったわ」

「すみません。今週は締め切りが重なってるんで」

「どうしようかしら・・・」

その時、すいっと加賀が手を挙げた。

「あの、ファンクラブで対応しましょうか?」

龍田がぽんと手を打った。

「なるほどぉ。良い手かもしれないわ・・・あ、提督の前でクラブの事言っちゃって良かったの?」

「もう打ち明けました」

「じゃあ提督とケッコンカッコカリしたい人は、ファンクラブの加賀さんを訪ねるという事で」

日向が心配そうに口を開いた。

「それなら秘書艦当番は落ち着くまで外すか?」

「・・・そうね、次の当番は3日後だけど、微妙な所ですね」

「なら飛ばしておく。それと、応援は要らないか?」

提督が首を傾げた。

「ファンクラブに入った子でも20名位だろ?半日くらいで済むんじゃないか?」

全員が提督を睨んだ。

「ひいっ!」

「甘い。甘過ぎです。」

「羊羹に練乳かけたくらい甘いです」

「何その凶悪なデザート」

加賀が溜息を吐いた。

「まぁ、明日になれば解りますけどね」

日向が返す。

「解ってからでは遅いだろう。加勢しようか?」

比叡がにこっと笑うと

「私、明日オフですから手伝えますよ!」

加賀が申し訳なさそうに

「そうですね・・すみませんけど、日向さん、比叡さん、お手伝いを願えますか?」

と言った。

 

 


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