艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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筆が横滑りどころかドリフトしてます。
一晩中書き続けて現在5時。明るくなってきましたねえ。



加賀の場合(16)

 

 

希望者受付が終わった翌日、昼過ぎ。

 

「まったく、大鳳の奴はどこほっつき歩いてんだよ・・・」

かきこむように昼食を済ませた天龍は、島の中を捜し歩いていた。

朝からずっと大鳳が来ない。部屋にも居ない。外に出た様子は無いから島の中に居る筈だ。

しかし、と天龍は立ち止まった。

反省させようと座敷牢に入れてみれば

「正座記録更新!足は痺れてません!自己新記録ですっ!」

と、自慢げに胸を張る始末。

ありゃどうやって反省させれば良いんだ?

「こんな時は白雪に聞きてぇなぁ・・ん?」

そうか。

経理方に居るんだから相談するのはアリか。

気付いた天龍は事務棟に足を向けた。

 

「あぁ、成仏させられた大鳳さんですか?」

天龍から大鳳という言葉を聞いた途端にジト目になった白雪は続けて、

「泣きべそかきながら浜に行ったようですけど」

成仏という単語を聞いて天龍は嫌な予感がした。

「お、俺が言うのもなんだけど、大鳳は仏の文月を召喚したのか?」

白雪はこくりと頷いた。

「早くケッコンカッコカリしたいから演習に混ぜろと」

天龍は手のひらを額に当てた。

「あっちゃー・・ますます申請が通りにくくなるじゃねぇか・・」

「でも・・文月さんはさほど怒って無かったですよ」

「え?」

「お灸を据えるだけで、その後叢雲さんをフォローに出したんです」

「・・・」

「ところで天龍さんは、あの大鳳さんを昔からご存知なんですか?」

「なんでだよ?」

「今、苦虫を噛み潰したような顔をなさったからです」

「・・・ずっと前、うちの艦娘だったんだがハチャメチャな奴でさ。1週間で轟沈したんだ」

「よほど無謀な戦術で進撃されるんですね?」

「ビンゴだぜ白雪。あぁするする会話が進むから楽だ。うちから手放すんじゃなかったぜ」

「逃した魚は大きいのです」

「自分で言うか?んでさ、あいつに付ける薬を探してんだよ」

白雪は眉をひそめた。

「・・・・・それは比喩じゃないですよね?」

「比喩って?」

「バカにつける薬はなんとやら、です」

「・・いや、あいつは、ハチャメチャだが馬鹿じゃねぇ」

白雪はにこりと笑った。

「それが解っていればスタート方向は間違ってないです」

「で、どうしたら良い?」

「提督に会わせてはいかがですか?」

「提督に?」

「・・・あ」

「なんだよ?」

「提督は、その轟沈を気にしてますか?」

「そらあもう。それで戦い方も鎮守府の運営スタイルも大きく変わったからな」

「・・・」

天龍は白雪の長考をじっと待った。

やがて白雪はうむと頷くと

「文月さんに聞きましょう。あの指示の訳を」

と言った。

 

「ありゃりゃあ、見られていたのですか~」

白雪から大鳳との対決の件を切り出された文月は、テレテレと頬を染めると俯き加減になった。

「あまりお見せしたい物じゃないのですけどね」

「その後、叢雲さんを派遣された意図を知りたかったのです」

「どうしてですか?」

「あの大鳳さんは天龍組なんですが、天龍さんも手に余ってるんで」

「・・・なるほど」

すっと真顔になった文月は

「ちょっと、経理方の会議室でお話しましょうか」

と、席を立った。

 

「大鳳さんが昔のままなのは、天龍さんもお分かりですね?」

「あぁ、相変わらず切れ者でハチャメチャだ」

「その通りです。だから今、お父・・提督に会わせればまた提督を困らせます」

「だろうな」

「でも大鳳さんに悪意は全くない」

「ああ」

「そして何より、提督は大鳳さんを認めていた」

「・・・そうだったな」

「提督を困らせない程度には気付いて欲しい。でも折角帰って来たのに追い詰めるのは可哀想」

「あぁ」

「・・・天龍さんはどんなアプローチを?」

「座敷牢で座禅1日」

「それで、結果は?」

「正座連続大記録達成って威張ったから拳骨1発」

「予想以上に酷いですね」

「あぁ。反抗期のちび共とは訳が違う」

白雪がジト目で天龍を見た。

「ちびで悪かったですね」

「白雪の事とは言ってねぇ。大体、白雪は終始俺の事を弄って遊んでたじゃねぇか」

「人聞きの悪い。上手に転がしてたと言ってください」

「もっと悪いじゃねぇか」

文月はぽんぽんと手を叩き

「本論に戻りましょう」

「おう」

「すみません」

「大鳳さんにはもう少し、周りが見えて欲しい。心配してる事とか、傷ついてる事とか」

「そうだな」

「ですから、余計なお世話かと思いましたが、叢雲さんを当てました」

「んー」

「叢雲さんはとても繊細で優しいです。一方で真っ直ぐに叱る事が出来る」

「あぁ」

「想いを込めて叱られる事で気付いて欲しい。それが、叢雲さんを送った理由です」

「確証は無いって事か」

文月は肩をすくめた。

「特効薬があればとうの昔に処方してます。あの時だってお父さんを散々苦労させたんですから」

「俺達も建造中はブラック企業並みの労働環境だったんだが」

「それは妖精さんの気まぐれなので」

「まぁな。今なら睦月に頼んだら一発で出してもらえるのにな」

「・・・・」

「どうした、文月?」

「もしかして・・そうか」

「ん?」

「特効薬が、あるかもしれません」

白雪が眉間にしわを寄せたまま口を開いた。

「睦月さんはハイレベルですが、そこまで都合良く建造出来ますか?」

「でも、言う事を聞いてくれそうかどうかといえば、もう、同型艦召還しか・・」

「・・・」

白雪は首を振った。

「もし、今の大鳳さんと同じ考えの方だったら、ダブルですよ?」

「はうううううっ!」

文月は頭を抱えてうずくまった。

あの大鳳が二人?加古とのコンビで手一杯だってのにトリオ化したら鎮守府が崩壊する。

「それに・・・本当に、単に言う事を聞いてないだけなのでしょうか?」

「え?」

「キレ者、という事はお二人とも仰ってる。私もそう思うし、提督も認めていた。」

「あ、ああ」

「その割に行動が一致しません」

「それは・・そういう性格なんじゃないかなと思ってましたけど・・」

「少し、お話してみたいです、大鳳さんと」

「でも今、どこに居るかなんて」

「叢雲さんに聞けば解りますよ?」

「あ」

文月はインカムをつまんだ。

 

「経理方の白雪です」

「初めまして、だよね?大鳳です」

 

食堂のテーブルを挟んで向かい合った二人を、遠くの植込みの陰から4対の目が覗いていた。

天龍、加賀、文月、そして叢雲である。

「な、なぁ、なんで隠れるんだ俺達?」

「さぁ。私は引っ張り込まれました」

「私は怒ってるって事になってますし、すぐに許しては意味がありません」

「私は本当に怒ってるからちょっと気持ちを整理したいわ」

視線の先の二人は穏やかに会話していた。

白雪は会話に織り込んだ質問の答えを整理しながら、慎重に次の言葉を繰り出していた。

しばらく話した後、大鳳はふっと目を細め、表情を固めた。

「・・貴方なら、ちゃんとお話ししても良さそうね」

白雪は頷いた。やはり、演じていた態度だったか。

 

 

 


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