艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

236 / 526
加賀の場合(19)

 

加賀が大鳳を連れて提督棟に入った午後。

 

「ここまで来て何をしてるんですか」

加賀は廊下の柱にしがみつく大鳳に声をかけた。

「だ、だだだだだって、提督に何て言えば良いの?」

「素直に謝ることです。行きますよ」

「あ、ま、待っ」

コン、コン。

「どうぞ、お入りください」

扶桑の柔らかい声を耳に、加賀達は提督室のドアを開けた。

大鳳達が続いたが、大鳳は小さくなって白雪の陰に隠れている。

「おや、加賀・・・どうした?」

「な、何がでしょうか?」

「・・・・・。扶桑、すまないが用事を頼みたい」

扶桑はお茶の用意を始めたところだったので、慌てて戻ってきた。

「は、はい、どういった事でしょうか?」

「カステーラを3本、買ってきて欲しい」

「お時間がかかりますが・・」

「構わない。すまないが、頼めるかな?」

「わ、解りました」

首を傾げながら出て行く扶桑を見送り、ドアが閉まった後に加賀は提督を見た。

「ええと、どうして解ったのです?」

「言いにくそうにしてた事、ちらちらと扶桑を見てたこと、そして」

提督は大鳳を見た。

「大鳳は、昔から扶桑によく叱られてたからな」

大鳳がはっとして顔を上げた。

「て、提督・・」

提督はがたりと席を立ち、真っ直ぐ大鳳に歩み寄った。

「久しぶりだね、大鳳」

提督は目を瞑り、目を開けた。目頭から涙が零れ落ちた。

「・・おかえり」

提督はただそれだけ言うと、大鳳を両腕でぎゅうっと抱きしめ、頭を撫でた。

「随分大人びたね。沈ませてしまった後、そんなにも辛い思いを重ねてきたのかい?」

大鳳は言葉に詰まった。

「どれだけ謝っても許してもらえるものではないが・・」

提督はすいと下がると、そのまま正座しかけた。

「だめぇぇっ!!!」

「!?」

大鳳はぼろぼろと涙をこぼしながら、床の上で提督にしがみついた。

「ふ、文月さんから聞いた。提督のミスじゃなくて、私が出撃直前にごちゃごちゃ開発したから・・」

「大鳳・・」

「ごめんなさい、ごめんなさい提督。悪いのは、悪いのは全部私」

「大鳳、違うよ」

「・・へ?」

そっと大鳳の頬から涙を拭うと、提督は寂しそうに微笑んだ。

「出撃前の最終確認をするのは私であり、出撃の全責任を取るのも私なんだ。だから、私の見落としなんだ」

「違う、違います提督」

「君達は何の為に私の命に従う?安心して戦う為だろう?私が安心を担保しなければいけないんだ」

「だめ、それ以上言わないで。文月が可哀想」

「・・文月が?」

「文月は、世界中を敵に回しても提督の盾になるといってる。提督が提督を責めたら文月が苦しむ」

「・・・」

「あの件は、私が余りにも勝利を焦っていたから起きた事なの。だから提督は悪くないの」

「仮にそうだとしても、それをきちんと指導出来なかったのは私なんだよ」

「私の為に色々な人が傷ついて悲しんだ。提督もそう。もうこれ以上傷ついて欲しくない」

「・・・だから、一人で背負うのかい?」

「私がしでかしたことなのだから責任を取るわ」

「どうやって取るんだい?」

「命を以って、償います」

「誰に償うんだい?」

「もちろん、提督にです」

「私が私の娘が自害するのを見て、ああ立派に責任を取ったねと頷くと思うかい?」

「!」

「次の瞬間、私も後を追うよ?」

「そっ!それはダメ!」

「愛する娘を追い詰めて死なせてしまったのに、どうしてのうのうと生きなきゃならない?」

「でも、でも、提督は皆に愛されてるから」

「それは理由にならないよ。そこまで思い詰めさせた事に責任を取らねばならないな」

「・・・え?だ、ダメ、絶対に、絶対にダメ!」

提督は足首のホルスターから銃を取り出すと、皆が止める間もなくぴたりと自分のこめかみに当てた。

「やる」

「お、お願い・・だめ・・何でもするから止めて」

「なんでもするんだね?」

「します」

「じゃあ、命を以って償うなんて金輪際言うな」

「へ・・?」

提督はそっと銃の安全装置をかけると、ホルスターにしまった。

「大体、自決して何の責任が取れるんだい?」

「・・・・」

「残される我々の身にもなりなさい。そういう我侭な所は昔からの悪い癖だぞ、大鳳」

加賀はちょっと視線を逸らした。自分も少し耳の痛い話だ。

「うぅ・・」

「大鳳が責任を取るのなら、悪い事を自覚し謝りなさい。そして同じ事をしてはいけない」

「・・はい」

「お前は天性の素養を持ち、突き進める素晴らしい力を持っている。その力を正しく使いなさい」

大鳳は涙を浮かべながら提督を見た。提督は頷いた。

「ところで、うちに帰ってきてくれるのかい?」

大鳳はこくりと頷いた。

「私の戦術理論と、あと、あの」

「うん?」

「私の身も心も、提督に捧げます。その為に戻ってまいりました」

「え!?」

「世界広しといえど、心から従いたいと思う殿方は提督お一人でした」

「あ、あぁいやその」

「LVは大幅に下がってしまいましたが、また頑張ってLV99まで上げます」

「・・・」

「そうしたら、私を貰ってください」

提督は大鳳の耳元で、そっと囁いた。

「もしLV99まで頑張ったら、指輪と書類を用意してあげよう」

「・・へ?」

「それで、北方海域の事、水に流してくれるかい?」

大鳳は何も言わずに提督にぎゅむっと抱きついた。

加賀はほっと息を吐いた。仮申込書はもう、必要ないですね。

提督は大鳳の頭をよしよしと撫でながら聞いた。

「そういえば、戦術理論は完成したのかい?」

「したと、思ってたのですけどね」

「どうかしたのかい?」

「独りよがりかもしれないので、誰かに確認して欲しいなあって」

「ああ、それなら」

提督は白雪を見て微笑んだ。

「はい?」

「白雪さん、バンジー飛び放題付きの有給休暇を3日間あげるから、確認に付き合ってくれないか?」

白雪は表情すら変えるのを忘れ、コクコクコクと何度も首を縦に振った。

経理方になってからというもの、本当にバンジー出来る時間が減っていた。

まさに天恵!棚から牡丹餅!さすが提督解ってる!

天龍は頷いた。そうか、白雪を動かしたい時はこうすりゃいいんだった。

管理者になったのにすっかり忘れてたぜ。

「白雪さん」

「はい!」

「まずは仮想演習場で2艦隊紅白戦としたい。白雪は検証者として、参加者を考えて欲しい」

「・・・本気の紅白戦ですね?」

「一切手加減無用、だ。それで良いな、大鳳?」

大鳳はにこりと頷いた。

「1つだけお願い」

「なんだ?」

「こちら側に加賀さんを」

加賀は大鳳を見た。

「加賀さんには私が何をしたか、間近で見て欲しい」

大鳳がこちらを向いた。あれは真面目なお話の時の目でしたね。

「解りました。提督、私は構いません」

「そうか。では他のメンバーは白雪一任とする。天龍」

「ん?」

「仮想演習マップ、1つ適当に作ってくれ」

「・・適当に?」

「絶対に皆が不慣れなマップを」

天龍はにやっと笑った。

「何でもありか?」

「何でもありだ。そして、開戦まで一切非公開だ。」

天龍は頷いた。

「6隻1艦隊の2艦隊前提で良いな?」

「ああ。それで良い。早速頼む」

「任せな」

天龍が提督室を出ていった後、白雪は提督に話しかけた。

「参加者の案を申し上げます。ご意見を頂きたく」

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。