艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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加賀の場合(20)

 

大鳳の戦術理論を証明することになった後、午後。

 

 

提督室に呼ばれた面々は、一体何が始まるのかと興味津々だった。

そして仮想紅白戦、それも一切妥協せず仕掛けて良いという提督の言葉に歓喜した。

仮想演習ならどのマップも飽きるほどこなしている。裏も表も知り尽くしている。そう思った瞬間。

「今回の紅白戦は新マップで行う」

一斉に提督を見る艦娘達。

「では、紅白メンバーを伝える。白雪、頼む」

「はい。では紅組から。」

「旗艦、大鳳さん」

「2番、加賀さん」

「3番、祥鳳さん」

「4番、山城さん」

「5番、加古さん」

「6番、最上さん」

「次に白組です」

「旗艦、金剛さん」

「2番、比叡さん」

「3番、霧島さん」

「4番、榛名さん」

「5番、赤城さん」

「6番、伊19さん」

「次にルールを説明します」

「これから紅組、白組に別れ、陣形や戦術を相談してください。時間は30分間です」

「マップは開戦直前まで公開しません。説明後、即開戦です」

「兵装は提督が仮想演習用に許可しているものは使用可能で、使い方は性能限界まで自由です」

「ダメコンの着用は今回に限り任意とします。装着しても、しなくても構いません」

「戦術は全て双方の艦隊に一任します」

「開戦後、どちらかの艦隊が全員大破するか、15分経過時点で終了します」

「紅白戦は3回勝負です。開戦時にダメージは全回復し、消費弾薬は補充されます」

「兵装は1隻につき1種類1回だけ交換OKです。してもしなくても可です」

「より多く相手にダメージを与えたほうが勝ちです。ダメージ計算は演習と同じ方法で行います」

「以上です。ご質問は?」

金剛が肩をすくめた。

「戦艦4隻に赤城さんと伊19さんじゃ・・ちょっと強すぎませんカー?」

比叡も頷いた。

「赤城さんもLV98ですし、伊19さんは最強のスナイパーです。再配分した方が・・」

だが、霧島のこの声で一気に雰囲気が変わった。

「そういう私達が束になっても勝つのが危ういと、そう言いたい訳ですね?」

問われた白雪は肯定も否定もしなかった。

赤城は榛名と小声で相談を始め、伊19は冷たい瞳で対戦相手を見ていた。既に戦闘態勢だ。

俯いてぎゅっと拳を握っていた大鳳は顔を上げると

「確かに不利。でも、理論を証明するにはやるしかない。皆、力を貸して!お願い!」

祥鳳はくいと眼鏡を上げると、

「うふふ。こういう状況こそ腕が鳴ります!」

山城がニヤリと笑った。

「扶桑型を馬鹿にしてると痛い目見るわよ?」

加古は肩をすくめた。

「勝つときは勝つし、負けるときは負けるんだよ。でも、ちょっと寝てられない状況かな。ははっ」

最上は目をキラキラさせていた。

「大鳳、使えたら使って欲しいものがあるんだ。後で説明するね!」

加賀は大鳳と目を合わせ、軽く頷いただけだった。

提督が口を開いた。

「この紅白戦は、別に誰かを卑下するとか持ち上げるとかじゃない。そこは間違えないでくれ」

「目的は大鳳の理論の検証だ。だから両陣営とも本気で取り組んで欲しい」

「検証の為、いつもの演習より自由度が高いことに留意してくれ」

「あと、演習終了時点で遺恨を残すな。だから汚い真似は一切するな」

「・・つまりだな」

提督はニヤリと笑った。

「汚い真似さえしなきゃ、何でもアリだ。頭を使え。手を抜いたら終わりだぞ」

白雪はくすっと笑った。上手い焚き付け方だ。

この戦いはセオリーを徹底的に身につけた上級者と、破天荒な戦いを飲み下せる者の戦いだ。

そこをわざと説明から外している。

大鳳の戦術理論は多くの艦娘にとって理解すら難しいものだろう。

だから採用するなら、新しいセオリーとして広めるくらいでなくてはならない。

ならば、今までのセオリーが太刀打ち出来ないという証拠が是が非でも必要なのだ。

「始めようか。じゃ、旗艦同士、握手してくれ」

金剛がにこりと笑って右手を差し出した。

「本気出しますヨー?」

大鳳はこくりと頷き、手を握った。

「胸を貸してください!よろしくお願いします!」

 

20分後。

仮想演習場のミーティングルームで大鳳は唇を噛んだ。

メンバーの能力、戦術は凄まじくハイレベルだ。それも実戦に裏打ちされている。

どれも捨てたくない。でも統一を欠けば勝てる相手ではない。

「うぅぅうぅ、皆の戦術、どれも良いよぅ」

山城がくすっと笑った。

「貴方って素直ね。ほんと昔と変わらない」

大鳳はぱたぱたと腕を振った。

「だってだってだって!」

祥鳳はルールのメモを眺めていたが、ふと呟いた。

「命令系統は、自由ですね」

大鳳が眉をひそめた。

「つまり、どういうこと?」

「先程から伺っていると、近い持論の方がいるんです」

「ええ」

「例えば大鳳さんと加賀さんで第1小隊、山城さんと最上さんで第2小隊、私と加古さんで第3小隊というのは?」

「しょ、小隊?」

「ええ。旗艦の大鳳さんは艦隊代表に過ぎず、実質の命令系統は小隊長が行う」

「・・・」

「そうすれば、3小隊は独自に動けます」

「・・・」

「ただし、各小隊の勝利目標を旗艦に決めてもらわないと力が分散します」

大鳳はじっと目を瞑っていたが、

「・・・皆さんはこの案で良い?」

皆がこくりと頷いたのを確認した大鳳は、

「第1小隊の目標は、赤城」

加賀がピクリと反応した。空母同士の戦闘は赤城と再三再四やってきた。

二度と慢心しない。それが赤城との合言葉だった。

だから相当な細部まで検証を重ねている。筈だ。

「大鳳さん。相当な策が必要ですよ?」

大鳳は加賀を真っ直ぐ見た。

「この後説明するわ。お願い。私を信じて」

加賀は大鳳の目を見た。完全に本気で、勝利を確信してる。

「解りました」

大鳳は頷くと、山城達を見た。

「第2小隊の目標は、比叡」

山城がニヤリと笑った。

「へぇ、気が合うわね。私もそう言おうと思ってたのよ」

最上が頷く。

「そうだね。山城の全兵装をあれに変えれば相当な事が出来るよ」

山城はジト目で最上を見た。

「アンタは前科があるから全部は積まないわよ」

「今度は大丈夫だと思うんだけどなあ」

「だと思うで戦わずに轟沈なんて真っ平よ」

「じゃあ僕もだめ?」

「そうね。通常兵装も1スロは持ちなさい。後は好きにしなさい」

「はぁい」

大鳳が頷いた。この二人は気が合ってる。大丈夫だ。

「第3小隊の目標は、伊19」

「おおう」

加古が目を剥いた。

「軽空母と重巡洋艦でAクラスの潜水艦を潰せっていうの?」

大鳳が大真面目に頷いた。

「なんか出来そうな気がするの。ダメなら第1小隊と交代するわ」

加古がニヤリと笑った。

「なぁんで知ってんのかなぁ。ナイショにしてる筈なのにぃ」

祥鳳が眼鏡をきらりと光らせた。

「艦載機無用論の奥義、使わせて頂きます。目標、承知しました」

大鳳は皆をぐるりと見回した。

能動的に、最善を。この子達はそれが出来る。絶対。

「じゃあ後5分、小隊で調整を」

そして加賀の方を向いた。

「お待たせ。正規空母対策を説明するわ」

 

 


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