艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file24:夜ノ色

4月1日夜 大本営

 

「大和、気をつけてな」

「ありがとうございます中将。護衛部隊まで付けて頂いて恐縮です」

大本営所属の重巡洋艦は要人脱出用に分厚い特殊装甲に換装されており、要塞と呼ばれていた。

その重巡洋艦に強化武装や艦載機まで持たせ、左右2隻ずつ4隻配備したのである。

大和は恐縮していたが、夕方の一報で大騒ぎである状況を考えると妥当とも言えた。

それでもなお大和を止めなかったのは、提督やその艦娘の安否も心配だったからだ。

いかに中将でも相当強引に出させた事を理解していた大和は、ピシリと敬礼して言った。

「戦艦大和、提督と長門達の安否を確認し、攻撃の一件も伝えてまいります」

「頼む。そして」

中将がいつになく真剣な目で大和を見た。

「必ず帰ってこい。命令だ」

大和がにっこりと笑ってうなづいた。

大和達が遠くに去っても中将は岸壁を離れられなかった。提督はこういう気持ちだったのだろうか。

 

 

4月1日夜 ソロル本島

 

「よくやったぞ古鷹、青葉、衣笠、伊19、そして伊58」

長門が提督の小屋から帰ってくると、加賀が待ち構えていた。

その表情から緊急事態である事を察した長門は、そのまま報告を聞いたのだが、軽く眩暈がした。

歯車が1つでもズレていれば全員壊滅させられていたかもしれない。

一体、どんな奴がそんな大艦隊を率いたというのだ。

そして、目の前に居る長年の仲間、そして新しい仲間達を見た。

「よく、生きて帰ってきてくれた。」

長門は言葉を続けた。

「本当に、機転を利かせ、水に潜る勇気を出し、一糸乱れずに動いたおかげでここに皆が居る」

「もしこの件で1隻でも沈んでいたら提督は自決しただろう」

「そしてこの長門も、深海棲艦を超える鬼人に化けたやもしれぬ」

「まずは皆、ゆっくり休んでくれ」

LV1艦娘の一人が、おずおずと声を上げた。

「あの、長門さん」

「なんだ?」

「す、すみません。怖くて一人ではとても眠れそうにありません」

長門は後輩達を見た。皆顔色が悪い。当然か。生まれたばかりなのだからな。

「加賀」

「はい?」

「大部屋はあるのかな」

「仮設の集会場なら出来ています。布団は各部屋にありますから運ぶ必要がありますが」

ふむ、これで良いか解らないが。

「後輩諸君に問いたい」

「はい」

「先輩の部屋で2人で寝るのと、後輩全員で大部屋で寝るのはどちらを希望するか?」

「!」

わいわいと相談し始めるが、やがて納まった。

後輩達が長門に振り向く。

「皆で一緒に寝ます!」

「解った。加賀、案内を頼めるか」

「解りました。それでは皆さんの部屋割りはこちらにありますので、そこから布団を持ってこの大部屋に・・」

これで良かったのかな。あっているか?提督よ。

・・・ん?

そうだ、提督。

提督が危ない!

長門はもと来た道を駆け出した。

青葉が呼びかける声がするが、長門の耳には入っていなかった。

 

 

4月1日深夜 岩礁

 

「提督、おやすみ」

「ほいよ、おやすみ」

小屋にはちゃんと布団が2組あったので、それぞれ布団に入った。

「提督」

「ん?」

「星が、綺麗だね」

ふと見ると、窓の外には満天の星空が見えた。

「うむ。海図ではなく、眺めるという意味では久しぶりだ」

「ロ、ロマンチックだよね」

「ああ、そういう物か」

「そうだよ」

 

なんだかこそばゆいなと思ったその時。

 

ドンドンドン!ドンドンドン!と強いノックの音がした。

「提督!長門だ!緊急事態だ!」

がばりと起き上がってドアを開けに行く。

響は布団を額まで引き上げた。ちぇっ。

 

ガチャリとドアを開けると、息を切らした長門が立っていた。

「入れ。早く」

「すまぬ」

ドアから少し横に長門が立つ。砲撃を恐れている?

「響、隣においで」

提督の声が低い。何かある。

響は察すると、すぐに提督の隣に座った。

「何があった。」

「元の鎮守府が、壊滅した」

「後輩達は?」

「伊19、伊58、青葉、古鷹、衣笠の機転で全員救助した」

「ふむ。敵の規模は」

「数十隻か100隻を超える。鎮守府海域が敵で埋まったらしい」

提督は息を呑んだ。そんな例は遥か過去の伝承レベルでしか聞いた事がない。

「提督。ここは危険だ。仮設だが本島に今すぐ来て欲しい。言うことを聞いてくれ」

「5分待て」

「解った」

「響は支度を済ませなさい。12.7cmは実弾を装填しておきなさい」

「わ、解った」

提督は何か書き始めた。何をしているのだろう。

「あのなあ提督」

「こういうことは大事だぞ、長門」

「もう良い、行くぞ」

長門が何故うなだれてるか。

提督が小屋のドア脇にある窓の内側に貼った紙のせいである。

 

「少し留守にします。また来てね」

 

「深海棲艦に鎮守府を砲撃されてもまだあのヲ級を信じるのか提督は」

「長門。攻撃時間を考えればあのヲ級はシロだ。私達と居たのだからな」

「もういい。とにかく行くぞ」

「うむ。響、おいで」

「はい」

 

こうして、小屋は無人になった。

潮の砕ける音だけが、岩礁に残された。

 

「おーおー、こんなに青ざめて。可哀想に可哀想に。さぞ怖かったのだな。よしよし。よしよし」

本島に着いた提督は即座に集会場へ足を運ぶと、青ざめた様子の艦娘を1人ずつ頭を撫でては言葉をかけていた。

「どんな様子だった?うん、そうか。危なかったな。何か気づいたことはあったかい?」

一人一人に様子を聞き続ける様を見て、長門は不思議に思った。そんなに何度も聞かなくても、と。

具合の悪そうな子達と話終えて一息ついている提督に、加賀がお茶を差し出す。

「お疲れ様でした」

「あぁありがとう。頂くよ」

長門は質問した。

「なぜ、同じ事を聞いていた?」

「様子のことかね?」

「そうだ」

「簡単だ。早く吐き出さないと心の傷になるからだ」

「傷?」

「そうだ。火事にあった子が異常に火を恐れるようになるのは、怖かったという思いを押さえ込んだからだ」

「・・・。」

「その時、話を聞いてくれて、怖いのが当然だと認めてくれる人がいて、しっかり泣ければ癒えるのは早い」

「・・・。」

「だから今しかチャンスがないのだよ」

「提督」

「ん?」

「この長門、気づきもしなかった」

「気にするな。私は一番具合の悪そうな子には話したが、まだ顔色の悪い者は居る。長門、やってみなさい」

「う、うむ」

ぎこちないが優しさのある態度で後輩達に接していく長門を見て微笑む提督。

提督の傍で、響はじいっと提督を見ていた。

ほんと、お父さんだ。

そっと、上着の裾を持つと、響に気づいた提督が頭を撫でる。

「響、12.7cm砲の実弾装填を解除しなさい。私達もここで寝よう」

「うん」

「あ」

長門が振り返った。

「すまん」

「なんだ?」

「布団が、ない」

一瞬の沈黙の後。

「なあ響さんや」

「なんだい父さんや」

「長門はちょっと抜けてる所が可愛いのう」

「私は遠慮したいでござる」

「天然というのは良い物だぞ」

「少なくとも今宵は勘弁して欲しいでござる」

「ほほほほほ」

「ほほほほほ」

長門は顔を真っ赤にして俯いた。なんだこの公開処刑プレイ!

二人の息がぴったり過ぎる!夫婦漫才か!

「あのー」

後ろから艦娘の一人が声をかけた。

「ん?なんだい?」

「あの、私達布団くっつけて寝ますから、2組お貸しします」

「響さんや」

「なんだい父さんや」

「今時珍しく親切な若者がおるのう。感心だのう」

「私はここで1組といってくれたらモアベターだったのう」

「なんでやねん」

「一緒に寝れるから」

「寝たいのか?」

「うん」

長門は素早く響を見た。なんて大胆な子!

「まあ、布団は別でいいだろう。隣で寝るから怖くないだろ。な」

響は提督の顔を見上げた。このニブチン。

 




「なぁ長門さんや」
「なんだ作者さんや」
「提督はロリコンかのう」
「作者がロリコンだろう」
「何を言う。私は長門教信者だぞ!お姉様大好きだ!」
「寄って来るな。それに、文月教信者でもあると言ってたではないか」
「うっ、いや、それは」
「ほれ、認めればすっきりするぞ」
「認めて良いんですか!」
「いや、やっぱりやめろ」
「私はっ!」
「言うなというに!」

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