艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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加賀の場合(28)

 

第1艦隊と大鳳組の演習は終盤を迎えていた。

 

「策敵範囲を広げましょうか?」

赤城の問いに、長門は迷った。

幾ら熟練搭乗員でも、1人で見落とさず探せる範囲は限りがある。

だが数機編隊で固まらせていると、策敵そのものが出来ない部分が生じる。

じゅうたん爆撃式にくまなく探させているが、エリアが広いので一苦労なのだ。

そして今のところ、残りの敵方はどこに居るか解らない。

加賀がその時呟いた。

「燃料を考えますと、最後の指示になります」

長門は敵方のメンバーを思い返し、1つの推論に達した。

「策敵範囲を変更、我々から半径30km付近のエリアを集中探査せよ」

陸奥がこくりと頷いた。

「20.3cm砲の射程は約30kmだったわね」

「そうだ。最上、鈴谷、加古が異なる方向から一斉射するとすれば、30kmラインに並ぶ筈だ」

「見つけてから勝負が決まるまで一瞬ね」

「そうだな。装填を確認しておけよ」

その時、加賀が叫んだ。

「艦載機より連絡!39km付近に艦影を発見!」

長門は瞬時に反応した。

「方位と正確な位置を!」

「方位・・・2・・8・・1!距離・・38550m!」

「全主砲斉射!てぇぇぇっ!!」

加賀が方位と位置を伝えてから長門が撃つまで30秒もかからなかったと陸奥は証言する。

「神業的な再調整よね。それでドンピシャ当てるんだもん」

そう。この一撃で、山城は沈んだのである。

 

「間に合わなかったあああああぁ!」

ヘッドセットを外した山城は地団駄を踏んだ。

山城が持つ41cm連装砲は最大射程距離が38.4kmである。

安全な射程距離は25km程度だが、山城は徹底的に最大距離での練習を積んでいた。ゆえに

 

 38.4kmジャストの位置

 

まで移動しようとしていたのである。

微速であと100mまで迫った時、龍田の声がした。

「山城さぁん、残念でした~轟沈です」

ああっと思った直後、再び龍田の声がした。

「はぁい、演習時間終了ですよ~」

 

表示されたリザルトを見て、艦娘達は息を呑んだ。

長門達第1艦隊、轟沈2隻、それ以外無傷。

大鳳組艦隊、轟沈3隻、中破1、無傷2。

つまり。

「長門組の勝ちで~す」

十秒近い間艦娘達は呆然としていたが、次第に

「かっ・・・勝った」

「長門さん達が、勝った」

という、ポツリポツリとした声が広がり、次第に大きな歓声に包まれた。

だが、誰かが言った。

「第1艦隊ですらB勝利じゃ、私達じゃ太刀打ち出来ないよね」

「物凄い人達と演習してたんだねぇ」

「大鳳組、本当に強いねぇ」

そこに、ヘッドセットを外した大鳳達と長門達が出てきた。

大鳳がガリガリとうなじを掻きながらいった。

「負けちゃったわねぇ。さすが長門さんだわ」

「交えてみて良く解った。大鳳達の戦い方は至極真っ当だ」

長門の言葉に、意外と言う目で山城が見返した。

「卑怯だの奇想天外だのってのが大方の評価だけど?」

「だが、出来ない事は何一つしていないではないか」

「そうよ?出来ない事を仮想演習したって意味無いもの」

「なら何一つ後ろ指を差される事などない。この長門が保障するぞ!」

「・・・長門に認めてもらうってのも、悪い気はしないわね」

そこに、伊勢が歩み出た。

「山城、強くなったねっ!見直したよ!」

「伊勢・・・」

「・・正直言うとさ、扶桑もアンタも、一時期提督が付きっきりで修理したじゃん」

「欠陥を徹底的に治した時の事?」

「そう。あれがうらやましくってさ、ちょっと嫉妬してたんだよね~」

「・・・」

「でも、これだけ強いなら水に流して手打ちしたいんだけど、許してくれるかな?」

「・・・しょ、しょうがないわね」

と言って、伊勢と山城が握手したのを、日向はうんうんと頷きながら見ていた。

この二人がギクシャクしているのは長年何とかしたかったのだ。

加賀は赤城に言った。

「要塞戦法、面白かったです。さすがですね」

「ふふん。セオリーを踏まえて更に応用するのもまた、強くなる為の方法でしょ?」

「そうですね」

「そうそう簡単に、一航戦の誇りは失いませんよ!」

「でも、勝利に慢心してはダメですよ?」

「索敵や先制は大事にしたじゃないですか」

「策敵は充分だったでしょうか?時間一杯飛ばして見つけられなかった子達が居ますよ?」

「うぐふうっ!」

「これからも、鍛錬を続けましょう。ね?」

加賀がにこりと笑うと、赤城は苦笑しながら

「慢心ダメ!絶対!・・ですね」

と返したのである。

この1戦の詳細は青葉が全精力を注いだ力作として特大号で報じられた。

記事では実際の時系列の他、間近で見ていた龍田、白雪による解説も盛り込まれていた。

それぞれが行動した必要性、背景、状況、下された決断と結果。

読み込んだ艦娘達は

「訓練してるからこそ長門さんはこんな短い時間で山城さんを撃てたのね」

「鈴谷ちゃんのレーダー狙撃も凄いねえ。前から神業って評価があったけどさぁ」

「赤城・加賀隊の零戦が示した距離の正確さが恐ろしいと思うんだけどなあ」

などと、数日間はこの話題で持ちきりになった。

そして、大鳳達に対して、チートだの卑怯だのと言った陰口も消えたのである。

ちゃんと強くなり、ちゃんと戦えば勝つ事が出来る、正々堂々とした戦法なのだと。

ゆえに、演習が終わった後、大鳳達に戦法の解説や相談をする艦娘もちらほら現れ始めた。

大鳳は後日、改めて長門に礼を言いに行ったが、長門は

「私は事実を事実と言っただけで、実際に勝ち続けたのは大鳳達だ。もっと堂々とすれば良い」

と、にかっと笑ったのである。

 

「そっか。長門達が勝った事で、いかさまじゃないと解ってもらえたんだね」

「はい。また、かなりの辛勝でしたので、第1艦隊内でも訓練への集中度が増しました」

「まぁ第1艦隊がB勝利なんて珍しいよねえ」

「はい」

「んで、今も演習が大行列なのはどうしてなんだい?」

「皆、大鳳組にせめて一矢報いようとしてるのですが・・」

「結果は?」

「大鳳組は第1艦隊と戦ってからますます強くなったとの評判です」

「他に勝ったものなし、か。言っては何だが、負けばかりだとイライラするだろうに」

「いえ、それが」

「どうした?」

「大鳳組のメンバーが連日演習をしたおかげでかなりのLVになっているんです」

「ふむ」

「なので、負けてもLV上げに都合が良いと」

「・・・ケッコンカッコカリ?」

「YES」

「・・まぁ皆が頭を使って強くなるなら良いか・・良いのか?」

「そこは知りません」

「ケッコンカッコカリなら他人事じゃないでしょうに」

「あら、他人事ですよ」

「どうして?」

「だって・・」

加賀はそっと提督の手を取ると

「何人とケッコンカッコカリしようと、私は提督を信じていますから」

と、にこりと笑ったのである。

 


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