艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file27:ヲ級ノ依頼(前編)

4月8日朝 ソロル本島

 

「んー?」

双眼鏡を構えたまま、響は身を乗り出した。

とはいえ、部屋の中なので窓ガラスにコツンとぶつかるまでだったが。

ここは提督と響の仮住まいである。

緊急事態とはいえ、仮住まいの敷地は使い切った後の追加であり、工廠長が

「まったく・・焼き肉じゃないんだから1つ追加なんて気安く言うな」

とブツブツ言っていた。

提督は荷物を解いておらず、別に響と1部屋で寝るので良かったのだが、艦娘達が工廠長に

「提督と響は別の部屋で寝られる部屋構成にしてください!ねっ!」

と、物凄い圧力をかけたのである。

従って、この家だけは狭いながら2DKの構成になっていた。

「どした、響?」

「提督、岩礁の右端を見て」

響から双眼鏡を受け取ると、小さな影が見える。

「ヲ級かなあ」

「小さすぎて良く解らないね」

「ヲ級だとして、あの子かなあ」

「それはもはや全く分からないね」

「長門に相談してみるか」

「すっかり提督と長門の立場が逆だよね」

「そうだな。さて、長門の所に行ってみるか」

「ついていくよ」

 

長門の家の前には行列が出来ていた。

「うわっ!この列全部長門に用がある人なのか?」

「提督より人気だね!」

「・・・いいよ、どうせ私なんて」

「あーよしよし、泣かない泣かない」

列に並んでる艦娘達は思った。響、尻に敷いたな。

 

「おぉ提督!提督じゃないか!待ってたぞ!」

小1時間の後、やっと長門と面会する事になった響と提督を見て、長門が声をかけた。

「提督、こちらに居るのだからそろそろ指揮権を返したいのだが」

「私は別にこのままでも良いよ。リゾート気分で楽だし」

「ちょ、そんな!勘弁してくれ!」

「それより長門さん、岩礁に行ってみたいんです」

途端に長門の顔が曇る。

「まだ大規模攻撃から1週間と経ってないんだぞ。何故行きたいんだ?」

「あのヲ級っぽい物が見えたんだ」

「ぽい?」

「双眼鏡であんな離れた所に居るヲ級がはっきり見える訳がない」

「岩礁に居たのか?」

「うん、たぶん体育座りしてた」

「もし別のflagshipヲ級だったら危険極まりないぞ」

「確かにそうだ。だからいざという時に備えて艦娘と一緒に行きたいんだが」

「flagshipヲ級だと、響一人では荷が重いだろうしな」

「まぁ響はあのヲ級の相方だから連れて行くが」

響が提督を見た。いつから私はあのヲ級の相方になったの?!

「長門の言う事もその通りなんだ」

意見が通った事で長門は少し落ち着いた。というか油断した。

「うむ、そうだ、だから提督はそろそろ私と交代して」

「そうだ!長門行ってくるか?」

「は?」

「長門ガ、私ノ、代ワリニ、岩礁ヘ、響ト行キ、ヲ級ニ、話ヲ、聞イテクル、カンタン」

「何故片言で話す。それに簡単じゃないんだが。ここは代わってくれるのだな?」

「全部「適当にして良いよ。任せる」と言えば良いのだろう?5分で終わる」

「・・・・提督・・・・」

「私はいつだってそうしてきたぞ?」

「そんな雑な・・・ん?そういや私が秘書艦の時、そうだった・・気が・・」

「だろう?抱えてどうなるものでもない。運用できてたし」

「お、おかしいな。明らかにおかしい気がするんだが反論できない」

「それを丸め込まれるというのだよ」

「丸め込むな!胸を張るな!」

「どうする?私に全部仕事を任せて岩礁に行くか?それとも私に誰か付けてくれるか?」

「・・・響」

「なんだい?」

「これは、脅迫だよな」

「うん。かなり極悪だと思う」

はぁ、と長門は溜息を吐いた。

「今日は加賀が非番だ。相談してみると良い」

「ありがと長門。あと、事務方を頼れ。書類や調整は彼女らが長けている」

「そうだな。そうしよう。実は手に余って困っていたのだ」

 

「何か相談?良いけれど」

加賀を訪ねると、部屋で静かに本を読んでいた。

霧島が艦隊の頭脳という鎮守府は多いが、ここに限っては圧倒的に加賀がその立場にあった。

「なんだか久しぶりだな加賀。少し痩せたか?」

「先日の作戦で少し疲れたのかもしれないわ」

「大活躍だったからな。加賀のおかげだと皆も言ってる」

「それだけおだてるという事は厄介な相談事ね?」

「本当の事を言っただけなんだが」

「まぁ良いわ、上がってください」

「ありがとう」

 

「ふうん。もし岩礁に居るのが先日のヲ級だったら話をしたい。そういう事ね?」

「そういう事だ」

「仮にflagshipヲ級だとして、どうやって先日の彼女と判断するつもり?」

「うーん」

すると、響が言った。

「それは大丈夫。特定出来ると思う」

「さすが相方」

「違う」

「じゃ、その部分は響さんに任せるとして、違った場合と他に敵が居た場合に備えて随伴艦は居るべきね」

「そうだな」

「遠い訳ではないし、こういう事に興味を持ちそうな子なら行ってくれるんじゃないかしら」

「・・・・・・。」

三人が思考すると、1人の顔が思い浮かんだ。

「あの子くらいしか居ないわね」

「しかし、実験対象とかにしないかな?」

「攻撃能力的にも申し分はなかろう、夕張なら」

三人が顔を見合わせる。

「やっぱり、夕張しかいないよな」

「うん、私もそれしか思いつかなかった」

「そうね」

提督が立ち上がった。

「じゃあ夕張に相談してみるよ」

「夕張がOKしたら伝えてください。私はチャネル3で聞いてますと」

「ありがとう。君の彗星に助けてもらう事態にならない事を願うよ」

「そうですね」

「あぁ、そうだ加賀」

「なに?」

「ありがとう」

提督は、加賀の柔らかい髪を撫でる。

「大した事はしてません」

そう言いながら、目を瞑って大人しく撫でられる加賀だった。

 

「行きたい!超行きたいです!」

夕張がやる気になってくれたのを見て、提督と響はほっとした。

「では早速なんだが、いつ出発できる?」

「へ?今でも良いですよ?」

「え?何か仕事してたんじゃないのか?」

「何でです?今日はオフですよ?」

「じゃ、じゃあ、その部屋の中で蠢いてる機器類は・・・」

「趣味よ?」

「そうか・・・深くは聞かないよ」

「えー、面白いのにー」

「そうだ、ヲ級を解剖しようとしたり、実験したらダメだぞ」

「私をマッドサイエンティストか何かと勘違いしてません?」

「なんとなく」

「もう!さっさと行きましょ!私、足遅いから日が暮れちゃう」

 





初の前編です。新企画です!
響「筆が横滑りして1話に収まりきらなかったって素直に言えば良いじゃない」
作者「新企画です!」
響「往生際が悪いね」

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