艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file28:ヲ級ノ依頼(後編)

4月8日昼 ソロル本島

 

「あ、いた。あそこだ」

「おおぅ、ヲ級だ!攻撃して良いですか?」

「気が早すぎるよ夕張。まずは確認だ」

岩礁と距離を置いた海上で3人は話し合った。

夕張がゴツい双眼鏡を差し出す。

「電子ズーム付きの双眼鏡よ。レベル位は解ると思うわ」

「どう?提督」

「flagship級には違いないな。体育座りしてるし、合ってるんじゃないか?」

「兵装は?」

「んー、もっとズーム出来ないと確定は難しいなあ」

「そっか。今後の研究課題にしとくね」

「あと、加賀がチャネル3で聞いてるから、皆インカムをチャネル3で合わせよう」

「よしっと。加賀さーん、聞こえてますか~?」

「感度良好。大丈夫よ」

「とりあえず響と私で行く。結果をインカムで知らせるよ」

「了解っ!気をつけてねっ」

 

「おぉーい!ヲ級~!」

岩礁で体育座りをしていたヲ級は、はっとしたように声の方を向いた。

提督と響のコンビだ!

「提督~!」

「ヲ級が手を振ってるね」

「だな」

至近距離まで行くと、ヲ級に響が声をかけた。

「すまない。一応この前のヲ級さんか確認させて欲しい」

「ン?アァ、構ワナイガ、ドウスレバイイ?」

「問題!」

響が人差し指で1を示しながら言う。

何を始める気?

「痛い子とは何でしょうか?」

「ハイ!」

「ヲ級さん!」

「恥ズカシイ事ヤ、情ケナイコトヲ、シテシマウ可哀想ナ人」

「正解です!では第2問!」

提督は響を二度見した。え?何それ?え?続くの?

 

「うっひゃー、面白い!面白いデータが取れるわー」

「インカム切っても良いかしら」

 

「第2問は言葉から連想するイメージを言ってください。」

「ハイ」

「提督は?」

「緑ノオバケ!」

「ピンポンピンポーン!」

がっくりと肩を落とす提督。そのイメージで定着か?

「え?え?響ちゃん、今のどういうこと?」

「帰ってきたら説明を求めます」

「響、黙秘するように」

響が提督の方を振り返り、うなづいた。

「もう間違いなく先日のヲ級ちゃんだよ!」

「久しぶりだね」

ヲ級は立ち上がると、そのままその勢いで提督に抱きついた。

「!?」

響のこめかみに3本ほど青筋が立つが、ヲ級は構わず口を開いた。

「提督、頼ミガアル」

「とりあえず、小屋に入るか?」

「ウン」

響がインカムに話しかけた

「夕張、あのヲ級は大丈夫なヲ級だった。でも一緒に来てくれないか?」

「もっちろん!」

「一応、適当に艦載機で岩礁近辺を索敵しておきます」

「加賀、ありがとう」

「響さん」

「何?」

「あなたも提督ラブ勢の一員だったのね」

「う」

「後で年会費払いに来てください」

「へ?」

提督が小屋のドアと窓を開けると、爽やかな空気が部屋の中を通り過ぎていった。

「さぁどうぞどうぞ、あがって」

「オ邪魔シマス・・・ア」

「どうした?」

見ると、布団が2組出たままになっている。あの日は畳む暇もなかったからな。

「・・・。」

「ヲ級さん?なんで顔を赤らめてるんだ?」

「ソレヲ聞クノカ?」

「へ?」

「ワ、私ダッテ心ノ準備トイウモノガ」

「ま、まあ、とにかく入れ。布団は畳むから。」

「・・・・ニブチン」

スチャッと音がした方を提督が振り向くと、ヤンデレ顔の響が12.7cm砲を下ろす所だった。

まさか本気で発射用意したんじゃないだろうな?

夕張を含めた4人が小屋の中に揃ったのを見計らうと、提督が口を開いた。

「ようこそ。今日は頼みがあるといってたね」

「ウン」

「聞かせてくれるかい?」

「仲間ニ、会イタイノダ」

「かつての艦娘仲間、という事だよね?」

「ソウダ」

「断片的でも何か覚えてる?」

「幾ツカハ」

「夕張」

「何?」

「鎮守府や艦娘の特徴から特定できるか?」

「情報が多ければ、可能かも」

「よし。ヲ級、覚えてる限りの事を話してみろ」

「協力シテクレルノカ?」

「あぁ、やってみようじゃないか」

「アリガトウ、提督、ウレシイ」

また抱きつこうとするヲ級のマントをくいっと響が引っ張った。

「ウッ」

「じゃあ早速教えてくれるかな!」

「響ガイジワルヲスル」

「教えてくれるかな!」

「ワ、ワカッタ」

 

それから1時間ほど、一生懸命目を瞑って思い出した事を話すヲ級と、メモを取る夕張の姿があった。

提督と響はちゃぶ台で隣同士に座り、茶を啜っていた。

「響さんや」

「なんだいお父さんや」

「見つかるかねえ」

「解んないけど、見つかるといいな」

「だな」

「提督」

「ん?」

「さっきヲ級をぎゅーってしたでしょ?」

「ヲ級がぎゅーっとしてきただけだが?」

「私もぎゅーっとして」

「なんでやねん」

「さぁ早く」

「よく解らんが・・・」

子供をあやすように背中をぽんぽんと叩く提督。

「えへへへ」

と、デレ顔になる響。そこに夕張の不満げな声が飛んできた。

「あのねえ二人とも!私一人メモ取るの大変なんだけど!」

「だって夕張さん」

「何よ?」

「データ解析独り占めだよ?」

「・・・そっか!」

すぐにヲ級と話を再開する夕張を見て、響は思った。

弱点の研究は大事だな、と。

 

ヲ級は覚えてる限りのネタを話し終えた。

夕張は2日後にもう1度来る様にヲ級に伝えた。

「2日あれば候補を提示できると思うから!」

「解ッタ。ジャア10日ニマタ来ル」

「時間は今くらいで良いかしら?」

「デハ昼頃ト言ウ事デ」

「そうね!」

「アリガトウ」

「お礼はまだ早いわよ」

「イヤ、調ベテクレルダケデ嬉シイ」

「よっし!夕張さん頑張っちゃうぞ!」

ヲ級は提督達のほうを向いた。

あんな目尻の下がった響って、レアかもしれない。

でも、とヲ級は思った。

なんか、なんとなく面白くない。

てくてくと提督の背後に行くと、提督を後ろからぎゅっと抱きしめた。

「ん?ヲ級さんか?」

「ソウダ。話ガ終ワッタ」

「そうか。夕張は優秀だし、見つかると良いな」

「ウン。仲間ヲ一目見タラ成仏出来ソウナ気ガスル」

「そうか。寂しくなるな」

「寂シクナル?」

「ああ。折角仲良くなれたのだからな」

「・・・本当ニ、変ワッタ提督ダ」

「そうだな」

「・・・・。ジャア、今日ハ帰ル」

「次は10日の昼だったな」

「ソウダ」

「またな」

「ウン、マタネ」

「夕張」

「なーに?」

「どうだ、ヒントになりそうな話はあったか?」

「鎮守府の特徴で幾つかあったけど、写真解析が必要ね」

「解った。見つけたら間宮羊羹1本だ」

「超頑張ります!」

「じゃ、島に帰ろうか」

「おう!」

 

これが初仕事とは、まだ3人とも知る由も無かったのである。

 




作者「いやー、前編後編、如何だったでしょうか?」
響「だから筆が滑っただけでしょ?」

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