艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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最上の場合(2)

 

 

現在。重巡寮最上の部屋。

 

「も~がみ!入るよ~?」

「ん?瑞鳳かい?おはよう」

「おはようございます、瑞鳳さん」

「三隈さんもおはよ!」

自ら引き戸を開けて入ってきたのは瑞鳳である。

瑞鳳は旧鎮守府から異動する際、府内全兵装を丸ごと複製した猛者である。

ここソロルの鎮守府では、装備開発に熱心な子達は2手に分かれる。

1つは新しい装備を考案するのが好きな子達。

もう1つは公認された装備を製造するのが好きな子達である。

前者の代表が夕張であり、最上、瑞鳳、霧島、たまに千歳と続く。

ちなみに後者の代表が睦月であり、隼鷹、高雄、足柄、たまに榛名と続く。

新兵器は検証まで済ませて大本営に送ると、追証され、必要性が認められれば公認となる。

公認化の際は報奨金が貰えるが、滅多に採用されず、額が少ない。

開発そのものが楽しくて仕方ない夕張達は、採用は気にせず100%趣味でやっている。

ちなみに隼鷹、高雄、足柄が上手い訳は飲み代を稼ぐ為、というのは公然の秘密である。

話を戻そう。

 

「あ、三隈さん、これお土産ね」

「それなら・・紅茶を淹れてきますね」

「わーい」

瑞鳳は嬉しそうに笑いながら三隈にクッキーの袋を手渡した。

これは言うまでも無く最上達の部屋に入る為の入場料である。

長時間話し込むため、何かつまみたいというのも勿論ある。

よって、よほど緊急の場合を除けば何か食べ物を持って来るのが習わしとなっていた。

 

「でね、大本営からこの間の返事が来たの」

瑞鳳はそういうと、注がれた紅茶をこくりと飲んだ。

最上が上を向きながらそらんじた。

「ええと、瑞鳳が出したっていうのは多弾頭SLCMだったよね?」

「そうそう、潜水艦1隻で敵の潜水艦隊を殲滅出来るって奴」

「海域の水圧を急変させて内部から崩壊させるってのが良いアイデアだったよね。それで?」

「高過ぎるからダメだって」

「うちで作った時、そんなに高かったっけ?」

「1発2億くらいかな」

「酸素魚雷2発分だよね・・別に高くないと思うけどな」

「大本営の試算では何故か1発5億なんだって」

「どうしてそんなに差が出たんだろう」

「戻って来た資料にはね、特注のVLSIを使わずにICで基板組むって書いてあるの。」

「そりゃまたなんでだい?」

「資源不足だからって」

「資源が不足してるから1チップ化するんじゃないかな・・」

「だよね。なんかズレてるの。それに弾頭部分も1つ1つ熟練工に手作業で作らせるって」

「弾頭なんて鋳物で作れば安いと思うんだけどな」

「だよね。うちで動いた設計と散々変えた挙句に高過ぎてダメとか言われても困っちゃうわ」

「良いと思ったんだけどね」

「というわけ。まぁいつも通りよ。最上の方は何か作ったの?」

「乙標的ってのを作ったよ」

「乙標的?」

「簡単に言えば甲標的の無人版だよ」

「どうやって動かすの?」

「有線リモコンだよ」

「リモコン?」

「操作するのを外から出来れば乗り降りの時間分だけ早く出撃出来るじゃない」

「そりゃそうね」

「だから甲標的の操縦席部分を潰して、6本の魚雷と自爆装置を仕掛けたのさ」

「自爆装置?」

「全部撃ち終わったら漂わせて、敵が回収しようとしたら機雷代わりに自爆するわけさ」

「えぐっ!」

「でも大本営からは「甲標的と間違えて回収したら味方が犠牲になるからダメ」だって」

「甲標的だって1度も回収出来てないのにね」

「でもこれは突き詰めれば多弾頭中距離ミサイルで良いんだって後で気付いたんだ」

「姫の島で投入した有線誘導の奴?」

「ううん。あれの改良型」

「何を改良したの?」

「ミサイルはキャリアとして弾頭を目的地近くに運ぶだけって考え方にしたんだ」

「その方がシンプルだよね」

「で、目標近くで短距離だけ自律的に動ける弾頭を発射する」

「うんうん」

「後は弾頭が標的まで自分で飛んで行ってドーン」

「一丁上がりって訳ね」

「ただ、これも問題があってね」

「どんな?」

「制御機構が複雑だから1発10億の大台を切れないんだよね」

「うわーう」

三隈はのんびりとお茶を飲みながら二人の会話を聞いていた。

本当にマニアックな会話だが、最上が実に生き生きとしている。

重巡は世間で言われているように、

「戦艦には火力負けし、航空機は少数しか積めず、水雷戦隊には高コストである」

という中途半端な立場である。

「せめて潜水艦を撃てればもう少し役に立てるのになぁ」

最上がそんな話を提督にしたところ、

「んじゃ航巡になってみるかい?」

という事で航空巡洋艦への改造を受けた。

しかし、それでも航戦より防御が弱いという点が悩みの種になってしまった。

すっかりしょげかえる最上に提督は

「多くの兵器や艦載機を扱えるんだから、兵器に詳しくて、思う所もあるんじゃない?」

「ある!すっごいある!」

「だったら大本営に兵器を提案してみたら良いさ。兵装開発を兼務としても良いよ」

と提案されたので、最上は三隈と早速兵装開発班を立ち上げた。

ちなみに、まだ大本営に採用されたケースは1件も無いが、提督は

「非人道的じゃなきゃうちで使えば良い。他鎮守府との演習時や視察中には使うなよ」

と、許可しているので、自分で出撃の時に使ったり、欲しがる仲間に売ったりしている。

最近人気の品を一部紹介すると、

 

・日除機:艦娘の上空を飛行し、日除けの布を張る無人機。

・催涙砲:深海棲艦に催涙効果があり、一定時間足止めする小型墳進砲。

・蚊取弾:エリア一帯に虫除け効果のある薬剤をばらまける散弾。陸上用。

・水浮コンテナ:輸送用ドラム缶4つ分を1つで運べるお洒落な小型コンテナ。

・電子辞書双眼鏡:高倍率を誇り、見えた艦種を自動識別する辞書付双眼鏡。

・艦載機もどき:艦載機撤退用の囮。深海棲艦が好む香りを発しながら飛んでいく無人機。

 

こんな具合である。

 

コン、コン。

「はーい」

最上がノックに答えるとガラガラと引き戸が開き、夕張が顔をのぞかせた。

「おじゃまー、お、ずほにゃんも居た」

「あれれ、夕張どうしたの?」

「ええとね・・あ、先に。三隈さん、これを」

夕張から手渡された袋を見て、三隈は眉をひそめた。

「・・・この煎餅はどうやって手に入れたんですか?万引きはいけませんよ?」

「確かに年中オケラだけど万引きしてないよ!事務方のバイトしたんだってば!」

「これ、高い御煎餅じゃありませんか」

「いっつも免除してもらってるから、たまには美味しいの持ってこないとね!」

 

そう。

夕張が年中機材や趣味に有り金全部突っ込んでいるのは鎮守府の誰もが知っている。

無い物を持ってこいと言っても仕方ないので、夕張だけは「入場料」を免除されている。

代わりに兵装開発に必要な機材や工具等はほとんど夕張の私物を借りている。

私物と言ってもNC旋盤や半導体試作機等の大型設備まで持っているので侮れないのだ。

一方で、そうは言ってもと言い、たまにこうして手土産を持参するのである。

それは大概、ちょっとお願い事がある時である。

だから最上はにこりと笑い、

「良いよ、特に作ってる物はないし、何をすれば良いんだい?」

と返したのである。

 


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