艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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最上の場合(7)

 

 

送付から1週間後の午前、鎮守府通信棟。

 

提督は中将と通信を行っていた。

「提督、例の船、大本営の開発課から回答が来たんだが傑作だよ」

「ええと、どういう事でしょう?」

「新型の補給巡回船として採用するそうだ」

「あのバカデカイ船をですか?」

「大将が回避性能をいたく気に入ったらしくてな。なんかに使えと命令したらしい」

「まぁ、あの船なら乾舷が低いから荷役は楽ですが」

「あ、いや、積載量を増やす為に乾舷は上げ、狭い航路用に細身にするそうだ」

「まぁそうでしょうねえ」

「というわけで、開発課から君の所の最上、三隈、瑞鳳に報奨金が出るそうだ」

「おっ、初採用ですね」

「まぁ本当に少額らしいんだが、年に1件も無い採用例だ。大いに褒めてやりなさい」

「ありがとうございます」

「ところで・・この船で深海棲艦は応じて来たのかね?」

「それが段々と増えてまして、1ヶ月弱の累計で300体を超えました」

「なんだって!?」

「私も驚いたのですが、最近はほぼ毎日20体は来ます」

「そういえば最近、君の所から毎日のように訓練済艦娘が来るようになってきたね」

「ええ。ほとんどが今回のケースです」

「・・戦わずに済むなら、それに越した事はないな」

「はい」

「ま、賞状とかが届くから、最上達に渡してやってくれ」

「解りました」

 

数日後。

 

「えっ?採用されたのかい?」

「補給船のベースとしてね。それで採用の賞状と盾、それと副賞が届いたんだよ」

提督室に最上、三隈、瑞鳳を呼んだ提督は、経緯を説明した。

だが最上は表情を曇らせると

「元々の発案は夕張なんだ。一緒に表彰して欲しいなあ」

「図面に記載が無かったからなあ・・・」

「副賞って何だい?」

「商品券だね」

「・・三隈、僕は夕張にせめて副賞をあげたいと思うんだけど」

「夕張さん、年中オケラですものね。良いですわよ。三隈のも差し上げます」

「私も良いよ、表彰されたのが嬉しいし」

「ありがと。じゃあ提督、夕張も呼んでくれないかな?」

「良いとも」

 

「へっ?私は思いついた事をぱぱっと喋っただけだよ?」

「でもそれが起点になってるからね。表彰状が無くて申し訳ないんだけど」

「良いよ良いよ」

「まぁ、私は読み上げるからさ。じゃあ最上!」

「はい!」

「表彰!最上殿!貴殿は三隈、瑞鳳、夕張と共に装備開発に多大な貢献をしました!」

「・・・」

「よってここに表彰すると共に、記念の盾と副賞を差し上げます!」

提督から賞状等を手渡され、その場の面々から拍手を受けると、最上はぽわっと頬を染め、

「あ、いや、褒められるって嬉しいね。あ、じゃあ副賞は夕張に」

「へっ?」

「商品券らしいよ。賞状の代わりに受け取ってくれないかな」

「え、良いの?良いの?ありがとう!」

「じゃあ次、三隈さん!」

「はーい」

「表彰!三隈殿!以下同文です!」

「ありがとうございます。では、私も」

「えっ!三隈さんもくれるの?」

「ええ」

「じゃあ最後!瑞鳳!」

「はい!」

「表彰っ!瑞鳳殿!以下同文ね」

「ありがとうございます!うわぁ、表彰状って嬉しいですねぇ」

「まぁそうだね。嬉しいものだよね」

「じゃ、喜びのおすそ分け!」

「えええっ!?3人ともくれるの!」

「うん」

「ねぇねぇ、幾らの商品券なの?」

「おぉ、そう言えば私も見た事無いから見せてくれ」

「え、えへへ。じゃあ開けますね・・・」

と、言って夕張が封を切って取り出すと・・・

「・・・500コイン、だって」

「・・・は?」

「うそ!?」

「な、何枚か入ってるんじゃないの?」

「・・・1枚だけ・・・だよ」

「のっ!残りは?他も?」

「え、ええと、待って・・・待ってね・・・」

「こ、こっちも500コインだ」

「こっちも・・・」

「・・・・・」

提督や秘書艦まで皆、数秒間沈黙したのち、

 

 「大本営のドケチっ!」

 

と、ハモったのである。

提督が眉をひそめた後、

「よし、じゃあ私が昼御飯奢ってやろう!好きなの頼みなさい!」

「えっ、良いのかい?」

「やったー!」

「折角だ。私達も一緒の席で食べようよ比叡」

「そうですね!お祝い昼食会です!」

その時、三隈が

「提督、特上天御膳は、アリですか?」

4人+比叡のキラキラした視線に、ほんの少し前にケチと叫んだ手前、

「一人辺り1800コインも追加だからダメ」

とは言いづらかった提督は、

「ひ・・・い、良いよ。お、奢・・るよ。なんとか・・するよ」

と、涙目で言ったが、三隈はくすっと笑うと

「冗談です。天ぷら定食で良いですよ」

と訂正し、ブーイングの表情になる最上達にウィンクした後、

「でも、間宮アイスをデザートにつけてくださいね?」

「おぉ、天ぷら定食に間宮アイス6人分だな!良いとも良いとも!」

と笑顔で返した。

夕張は頷いた。

最初から天定+アイスだとアイスが拒否されるだろうが、特上天御膳の代わりなら安く感じる。

提督が喜んで払ってくれるなら次回以降もねだりやすいという事か。

夕張はそっと三隈に耳打ちした。

「今後の道を残したわね?」

三隈はにこりと笑った。

「最上さんの才能なら、この後幾らでもこういう機会がありますから」

 

3カ月後。

 

「ようこそ、艦娘化希望の皆様。問診票がお済でない方は1番の窓口にお並びください」

「問診票を書き終えた方は2番の入り口をお入りください」

「艦娘に戻った方は順番に説明しますので、3番の入口が開きましたらお入りください」

 

桟橋の脇の岩盤をくり抜いた形で3つの窓口が新設され、1日中音声案内が鳴っている。

艦娘化した子達にアンケートを実施した結果、教育課程の希望者は全体の2割程度だった。

そしてその2割の中も基本的な事をおさらいしたいという子達が多くを占めていた。

そこで短期間の総復習コースを新設した所、大変好評を博した。

つまり受付窓口の効率化、希望者の選別、教育時間の短縮化を図ったのである。

この結果、1日100体まで受け入れられるようになった。

看板船は最近では数日帰って来ない事もあるが、50体程乗せて帰ってくる事もあった。

現在の看板船は第2世代で、定員は50名に減っていた。

初代看板船は解体処分されてしまったが、壮絶な最後だったのである。

その話は1ヶ月ほど遡る。

 

「んー、どうしようかなあ」

「どうしたんですの最上さん」

「本来なら間もなく出航時間なんだけどね」

「ええ」

「出航5時間後位から、鎮守府がハリケーンに見舞われるんだよ」

「あらら」

「ハリケーンのコースは南東の海から鎮守府近海を通過して、そのまま北西に進んでいく」

「予想中心気圧は・・930hpa、かなり強烈ですわね」

「そうなんだ。もし出航を取りやめても」

「そんな高波の時に係留してられるか、微妙ですわね」

「うん。かえって出航してる方が高波でも姿勢制御システムが働くから安全かもしれない」

「でも海の上で遭遇するのも危険ですし悩ましいですわね。瑞鳳さんは何と言うかしら?」

 

「じゃあ北東に出航させたら?」

瑞鳳の提案に最上はポンと手を打った。

「お!そうか、台風の進路から外せばいいね!すっかり忘れてたよ!」

「でしょ。ハリケーンが鎮守府に居る時間帯は帰って来ないように足止めさせるから」

「完璧だね。さすが瑞鳳!」

「えっへっへー」

 

 


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