艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file30:夕張ノ情報

4月9日明け方 ソロル本島

 

「いやっふぇーい!見つけたあ!」

丑三つ時も過ぎた明け方に、夕張は喜びの声を上げた。

とはいえ、それまで目を皿のようにしてデータを調べていた為、喜びの声はいささか不思議な音として発された。

簡単に言えば疲れすぎて呂律が回ってないのである。

両腕を弱々しくあげたが、そのままバタンと突っ伏して寝てしまった。

いいや、起きてから行こ。

 

 

4月9日昼前 ソロル本島

「おひゃようごじゃいまひゅー」

「ぎゃああああああ!」

「?」

ここは提督の家、訪ねてきた夕張を見て叫び声をあげたのは勿論提督である。

響が口をパカパカ開けて声にならない叫びをあげながら、手鏡を渡す。

 

「なんですかーもー・・・」

鏡を見て自分の顔にきっちりとキーボードの跡がついてるのに気付いた夕張は、

「あー、まぁいいやー」

と、大して気にしてない様子だった。

「提督、それより見つけたんですよ、鎮守府を」

「へ?ヲ級の言ってた鎮守府か?」

「そうです。割と近所です。ギリギリ日帰りの距離かなー」

「本当か!」

「記憶当時からは艦娘も増減してるでしょうけど、建物は間違いないと思います」

「こんな短時間で見つけるとは素晴らしい!さすが夕張さん!」

「いやぁ、データのおかげですよ、データの!」

「これはボーナスの上乗せをせねばならん。響!」

「なに?」

「間宮羊羹を2本買ってきなさい」

「皆で食べるの?」

「じゃあ3本買ってきなさい。2本は夕張用だ。ほら、お金あげるから」

「え?2本!やった!やったああああ!」

「私が湯を沸かしておく。行っておいで」

「はーい」

響はとてとてと間宮の店に向かった。

 

「美味しいわー生き返るわー」

「まったく、朝ごはんも食べてなかったのか?」

「だって、さっきまで寝てましたもの~」

「(もぐもぐもぐ)」

「美味しいか?響」

「(もぐもぐもぐ)」

「一心不乱に食べている・・・そんなに気に入ったか。」

「(もぐもぐもぐ)」

「しかし、これで明日ヲ級に良い知らせを持って行けるな」

「提督」

「なんだい夕張」

「ヲ級ちゃん、鎮守府見たら成仏しちゃうかな?」

「んー、望んでない形でこの世に居るのは辛かろうが」

「ちょっと寂しいよね」

「せっかく仲良くなったし、まあ、否定はしない」

「提督、ヲ級ちゃんが良いって言ったら一緒に行って良い?」

「・・・・データ取りたいんだな」

「ぎくっ!」

「・・まぁ、ヲ級が良いと言ったらな」

「やった!」

「(もぐもぐもぐ)」

「あれ?私の羊羹・・・が・・・」

「(もぐもぐもぐ)」

「響!おまっ!私の羊羹食ったな!」

「(もぐもぐもぐ)」

「ひーびーきー!お仕置きじゃあ!」

提督の羊羹を口に押し込みながら逃げ回る響。

両手をワキワキさせながら追いかける提督。

二人の様子を夕張は茶を飲みながらぽへーっと見ていた。

眠い。やる事やったし、羊羹貰ったし、今日もオフだからまた寝よう。

そのまま夕張は、その場ですとんと横になると、安らかな寝息を立て始めた。

 

 

4月10日昼 ソロル岩礁

 

「ヲ級ちゃんまだかなー」

「んー?そのうち来るだろう」

小屋の傍に夕張、響、そして提督がいる。

出発前は昼ご飯の時間には早かったので、カップラーメンにお湯を注いで待っていた。

浜辺に座る3人。岩に乗せられた3つのラーメン。

あと3分。

響は既に箸と、最後に乗せる海苔を両手に持っていた。

醤油ラーメンは私が頂く。

 

チリリン。

タイマーが鳴る。

「頂きまーす!」

3人で手を合わせると、蓋をベリベリと開いた。

ほわっ。

醤油、塩、そしてカレーの暴力的かつ美味しそうな匂いが風に乗る。

ずっ!ズズッ!ズゾゾゾゾー!

「うまっ!海を見ながら食べるラーメンは旨い!旨いぞ!」

「この、濃い味と匂いが堪らないですね!」

「うむ!うむ!」

一心不乱に食す3人の先の海原に、一塊の影が現れた。

3人はまるで気づいていない。

すすすすっと寄ってくる影。

 

スープを飲み始めた夕張のまん前に。

ザバアアアアア!

「きゃーーーーーーー!」

 

「ご、ごめん。ホントごめんなさい」

「ヒック、ウッ、ヒドイヨ」

「い、いきなり真正面に出てきたからビックリしちゃって」

「驚カセテ、スマナイ」

「しかし、御一行様とは思わなかったな」

 

皆様御想像の通り一団はヲ級であったが、ヲ級と親しくしているイ級が2体ほど付いて来たのである。

そして最初に浮上したイ級に、夕張が驚いて手放したカップが落下し、イ級全体がカレーだらけになってしまったのだ。

そう。先程泣いてたのはこの可哀想なイ級である。

「デモ、オイシソウナ匂ヒダナ」

「響」

「なに?」

「カレーラーメン、まだあったっけ?」

「各種沢山あるよ」

「じゃあ、食べてけ」

「ハ?」

 

チリリン。

再びタイマーが鳴る。

正座して待つヲ級達3人(?)の目に期待の色が満ちる。

「さぁ召し上がれ」

「イタダキマス」

箸は持ちにくかろうということでフォークを渡すあたりが響の優しさである。

「ヲ!コレハ、ウマイ!」

「!」

「!!」

しかし、ヲ級はともかく、イ級は器用に食べるなあと夕張は思った。

兵装に遠隔動画カメラ付けてて良かった。

提督といると貴重なデータが得られるわね。

価値があるかどうか知らないけど。

データどこに取っておこう。沢山確保しとこうっと。

 

 




提督です。

夕張と話してたら、羊羹を響に食われました。

提督です。

お仕置きの為に響を追い回してたら、加賀に「変態!」とぶたれました。

提督です。

加賀にぶたれた頬をさすりながら歩いていたら、青葉に
「ついに提督、ハレンチな事をしでかしたんですね、一言お願いします」
と冤罪をかけられました。

提督です。
提督です。
提督です。

・・・・・・。

ふんだ。間宮羊羹買ってくるもん。

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