艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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赤城の場合(4)

現在、朝、空母寮赤城の部屋

 

「日向が無事代わってくれましたよ」

「そ、そうですか・・良かった、です」

赤城は加賀が答える様を見て溜息を吐いた。ホッとしながらガッカリしている。

「明日会えるじゃないですか。そんなガッカリしなくても」

「あ、いや、え、ええ、大丈夫。大丈夫です」

しょぼんとする加賀を見て赤城はどうしようかと思った。

もうすぐ自分は出撃しなくてはならない。

しかし、またのの字を書いて夕方まで過ごされては休ませた意味が無い。

ふうむと考えた後、ピンと思いついたので、赤城は小声でぽつりと言った。

「しょぼくれてると、明日も危うくなりますよ?」

俯いていた加賀はがばりと顔を上げた。

「どういう事でしょう?」

「日向さんは加賀の具合が悪いなら、明日も元通り当番をこなすと」

シャキン!

加賀が真っ直ぐ立ち上がったのを見て、赤城はすすっと加賀の隣に移動した。

解りきってるが、一応呼びかけてみる。

「加賀?」

だが、加賀は応じない。

そりゃそうだ。

徹夜して貧血気味で、更に起き抜けにいきなり立ったら・・・

とすん。

はいキャッチ。立ち眩みするに決まってるじゃないですか。

これで大人しく寝かしつけられました。我ながら良いアイデアでした。

さて、今日は哨戒任務。そろそろ班員を呼びに行きますか。

 

「皆様おはようございます」

「赤城さん、おはよ!」

「今日もよろしくお願いするよ」

「さっさと行っちゃいましょう?」

「あぁん、北上さん今日も素敵!」

赤城は頷いた。

今月のメンバーは瑞鳳、響、北上に大井。そして・・

「あ、あの、あのあのあのあの、よ、よろしくお願いします」

響の陰に隠れて囁くように言ったのは潮である。

深海棲艦から戻って来た子で、教育方から1ヶ月預かっている。

預かる際、教育方の妙高が相談に来た内容はこうだった。

「知識や基礎訓練は充分なんだけど、余りにも気が弱いから心配なの」

そういう時は天龍じゃないのと思って聞いたところ、

「天龍がね、今居るメンバーが濃過ぎるから却って萎縮しちゃうっていうの」

赤城は頷いた。確かに天龍組は現在ほぼ常設状態で、メンバーも常に複数名居る。

メンバーに共通しているのは強い自己主張であり、潮のように物怖じする子は居辛いだろう。

気の弱い子というのは滅多にないケースなので、専用クラスを作る訳にもいかない。

事実、この潮が2人目で、1人目は虐待を受けていた睦月である。

そんな訳で赤城の班は今月1人少ない5人体制だった事もあり、預かる事にしたのである。

実戦に出すのは今日が初めてだが、訓練で確認した限りでは対応も悪くない。

だが赤城はどの海域にどうやって初陣を出すか、しばらく考えていた。

悩んだ結果、

 

「今日はバシー島周辺を哨戒します」

北上はすすっと赤城に寄って行くと、耳元で囁いた。

「珍しいとこ行くじゃん。どしたの?」

赤城は返した。

「少し遠いけど戦闘海域は少ない。このメンバーなら主力部隊と噛む可能性は少ない」

「・・潮っちはLV高いけど実戦行動が読めないよ?」

「最悪、5隻で行けるでしょ」

大井が不安そうに言った。

「5隻なら行けます。足を取られなければ」

北上が継いだ。

「正面海域のちょっと遠いとこで良いんじゃない?今日は長門班も哨戒出てるしさ」

赤城は肩をすくめた。

「潮がLV1ならそれで解るんだけどね・・」

北上が溜息を吐いた。

「それはまぁ・・うーん・・まぁ・・そうね」

 

潮はびくびくしているがLVは48と高く、改造も近代化改修もフルに受けている。

そしてLVに相応しく、鎮守府独自の兵装選定テストも一発で合格したのである。

LVで言えば響の方が低い。

だが、その響に対してさえも

「あ、あの、しゅ、出発・・されないの・・でしょうか・・すみません!」

これでは羽黒の初期より気が小さい。

なんとなく加賀と日向の照れ顔が思い浮かぶ。

そこまでビビらなくても良いでしょうに・・まったく何が足りないのか。

赤城は目を瞑りながら言った。

「実戦でどこまで対応出来るのか、見たいのですよ」

北上がふと気づいたように言った。

「実戦した事・・あるのかな?」

大井が眉をひそめた。

「い、いくら何でもLV48まで実戦無しはありえないんじゃない?」

だが赤城はハッとした顔で、そのまま潮に尋ねた。

「ねぇ潮ちゃん、あなた、実戦経験はある?」

北上の予感の通り、潮が答えた。

「あ、ありません。座学と演習しかした事が無いんです」

赤城は北上に間宮羊羹を手渡しながら言った。

「北上さんのおかげで出撃前に大事な事が解りました。大井さんとどうぞ」

「ごっちー。大井っちぃ、これ預かっておいてー」

「船内冷蔵庫で冷やしておきますね」

赤城はうむと頷きながら言った。

「では、バシー島へ行きましょう!」

ぎょっとしたように北上が赤城を見た。

「ちょ!待ちなよ!LV48でも実戦未経験なんだからさ!」

赤城はニヤリと笑った。

「今日はあの子達が居る筈ですから。居なければ帰ります」

北上と大井は顔を見合わせたあと、ははぁんと頷いた。

赤城は潮を見た。

「実弾装填したわね?模擬弾や演習弾ではないわね?」

「はい!実弾です!」

「じゃ、皆出発!」

 

「お、おおおおお・・・」

海域に到着すると、潮が声を上げた。

「どうしたの、潮ちゃん」

「しゅ、周囲全部、水平線の先まで海なんて初めてです!」

「見た感想は?」

しばらくぐるぐると見ていた潮は赤城に振り向くと、

「とっても綺麗で、素敵です!」

その時、偵察機を飛ばしていた瑞鳳が静かに言った。

「深海棲艦隊を発見したと、連絡が入りました」

赤城が返した。

「相手はどんな感じ?」

「重巡2隻、輸送船4隻です。緑の旗を確認」

赤城は澄ました顔で

「方位と距離を教えてください」

「はい。こちらから見て、方位0-2-2、距離6800」

赤城は潮に言った。

「じゃあ潮さんは重巡2隻をお願い」

潮がぎょっとした顔で見返した。

駆逐艦1隻で重巡2隻を相手にするのははさすがに荷が重すぎる。

「あ、ああああああの、み、皆さんは?」

「任務上、私達は最低3隻の補給船を仕留める必要があります。さぁ時間が無いですよ!」

「あ、あああああの・・」

「第1次攻撃隊、全機発艦!北上と大井は準備が済み次第先制雷撃!」

「はーい」

「北上さぁん、待ってくださいなー」

赤城は潮を振り返って言った。

「我々の背後を突かれないようにしてくださいね!貴方に背中を預けます!」

潮は泣きそうになりながらもコクコクと頷いた。

 

 




ここで300話だから後はご想像にお任せしますとか言って投げっぱなしジャーマンしたら暴動起きますよね・・・
ええ、解っております。
解っておりますよ。
さてこの先はっと…

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