艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

304 / 526
パティシエは男性の菓子職人を指すというご意見がありますが、パティシエは男女共に使える事、女性専用のパティシエールという単語はまだあまり馴染みがないと考え、この小説ではパティシエを使う事にしようと私は決めております。気になっても那珂ちゃんのファンは辞めないであげてください。


赤城の場合(8)

現在、午前、食堂

 

赤城は潮と間宮の表情を見て、大丈夫かなと判断したのだが、1つ聞きたくなった。

「間宮さん」

「はい」

「うちの艦娘って、受講生含めても110人位ですよね」

「はい」

「どうして250食なんでしょうか?」

間宮はちらっと視線を外した。

「え、ええと、赤城さんは16人前召し上がりますし・・」

ぎくうっ!

「戦艦の皆様も7~9人前は軽いですからね・・」

赤城はぺこりと頭を下げた。

「毎日毎日すみません。御面倒をかけます」

だが、間宮は笑って答えた。

「大和さんと武蔵さんが居たら倍位になりますけどね」

赤城は思い出しながら頷いた。

「あー・・・」

潮がおずおずと尋ねた。

「私はお会いした事が無いのですけど、赤城さんは心当たりがあるのですか?」

赤城はカリカリとうなじを掻きながら言った。

「私、大本営の武蔵さんと仲が良いんです」

「・・どういう繋がりなんですか?」

「喰い放題仲間です」

「あ、なるほど」

「納得しないでください!まぁそれで、ある時街に行きまして」

「お二人でですか?」

「ええ。料理屋さんを幾つか回った後」

「何で回ったんですか?」

「まだ食べたいなと思っても食材が尽きたから閉店ですって言われまして」

間宮と潮は絶句した。

「最後にハンバーガー屋に辿り着いたら素敵なキャンペーンをやってまして」

「ど、どんな・・」

「メガセット完食で何回でも御代わりOKって」

潮は展開が読めて震えあがり、間宮はそっと黙祷を始めた。

「どうしたんですお二人とも?」

「い、いえ」

「その時、武蔵さんは78セット食べてまだ入ると仰ったんです」

「ひえぇえぇぇええぇえええ」

「結局そこでハンバーガー屋さんも品切れになったので、満腹まで見てないんですが」

間宮は手で口を抑えながら言った。

「お話聞いただけで胸やけが・・」

潮がぽつりと言った。

「ハンバーガー屋さんのメガセットって頼んだ事ありますけど・・」

「?」

「1セット食べきる前にお腹一杯でした・・よ・・」

赤城はきょとんとして返した。

「え、15セット目くらいからが美味しいじゃないですか?」

「うえっふ・・」

「ま、まぁ、それくらい武蔵さんは凄いんだぞ~って事で」

「良く解りましたし、いらっしゃらなくて本当に良かったです」

「豪快でさっぱりしてるし、面白い人なんですけどね」

「それでも、です」

「わ、話題が逸れましたけど、これからよろしくお願いしますね、潮さん」

「はい!間宮さん、よろしくお願いいたします。」

赤城はにこにこ笑いながら二人を見ていた。

なんというか、お母さんに料理を習う小学生って感じですね。

 

変化は早速その日の昼食から現れた。

 

食堂の入り口で、いつもの光景が変わった。

いつもであれば、追加料金を払うメニューの為、レジと厨房を往復する間宮の姿があった。

しかしレジには潮がちょこんと立っており、タカタカと操作する姿は手慣れた感じがした。

そして

「間宮さぁん、B定ワン、天定ワン、入りました!」

と元気良く声を掛けながら、オーダーの半券を台に置いていく。

そしてレジの方が空くとささっと洗い場の方に回り、食器を洗っていく。

その手際の良さに、食事に来た艦娘達は

「あの子着任した子かなあ?凄く慣れてる感じ」

「間宮さんがちょっとでも楽になったら良いよね」

「強力な助っ人だねえ」

と、微笑ましく見ていた。

 

そんな昼食が終わり、夕食の仕込みまでの短い時間。

「小麦粉のふるい方、良く見ていてくださいね」

「はい!」

ノートを手に真剣な眼差しで見る潮を従え、間宮が菓子作りの基礎を教えていた。

そっと様子を見ていた青葉曰く、

「間宮さんがそれは嬉しそうで微笑ましかったので、インタビューし損ねました!」

との事である。

 

数日後。

 

朝食と昼食の合間の時間を見て、提督と秘書艦の赤城が食堂を訪ねてきた。

赤城が様子を見に行きませんかと誘ったのである。

「やぁ間宮さん、潮、お邪魔して良いかな?」

「あら提督、こんにちは。どうぞ」

「おはようございます!」

「ん、潮、着任時より元気になったかな?」

すると潮はえへへと笑い、

「前の鎮守府でやってた事が役に立ったんです」

「どんな事だい?」

「駅の近くにあるお蕎麦屋さんでアルバイトしてたんです!」

「へぇ」

「お客さんが急いでるので、オーダーとかお会計とか、手早くしないと怒られるんです」

「そっか、まぁそうだろうなあ」

「あと、食器の余裕も少ないんで、洗い物は溜めないとか」

「ははは。まさにここの食堂の状況とぴったりだね」

「はい。それに、間宮さんがすっごく優しいので」

意外そうに見る提督の目線に気付いた間宮は照れ笑いをしながら、

「衛生に対する心構えとかはちゃんと理解してるので、あまり叱る理由が無いのです」

潮が笑った。

「それは蕎麦屋のおやっさんに拳骨とどやされながら教え込まれたんで」

「間宮さんより強力な先生がいたって事か」

「お客さんを具合悪くさせるような物は出せませんから、大事な事です」

「ふむ。それで、お菓子の方はどうだい?」

「あ、それなんですけど、当分外に行かなくて良さそうなんです」

「どうして?」

「間宮さん・・洋菓子にも物凄く詳しいんです」

これまた意外そうに見る提督と赤城の視線に間宮は頬を掻きながら、

「今までは食事の片付けに時間が必要で、洋菓子はたまにしか作る時間が無かったんです」

「まあそうだろうね」

「ですから、より多く作れる和菓子を中心にしてたんです」

「なるほどね」

「でも潮ちゃんが本当に手早く片付けてくれるので、今はちゃんとお教えする時間も出来ました」

「じゃあ潮は間宮さんから色々学べそうなんだね?」

「はい!ケーキも焼き菓子も、ゼリーとかプリンとかも!」

「良かったじゃないか」

「そして間宮さんにお許しを頂けたら、売店で売りたいなって思います」

「ほう!そりゃ私も皆も喜ぶよ。なぁ赤城?」

珍しく赤城がもじもじしている。

「あ、あのですね・・」

「なんでしょう?」

「もしご存じなら・・エクレーだかフレレアとかいうお菓子を作って欲しいです」

間宮がこめかみに指を当てて考えた後、

「・・エクレアですか?こんな形で、上にチョコがかかってて」

「そうですそうです!中にクリームが入っていて、皮がちょっとカリカリしてて!」

「あー、大丈夫ですよ。潮ちゃんもそろそろ作れます」

がっしりと潮の手を握った赤城は

「予約します!モカとチョコとダブルクリームを30本ずつ毎日!」

「ま、毎日ですか?!」

「毎日です」

だが、提督と間宮はふるふると手と首を振ると、

「そんな事したら速攻で病気になるからダメです」

「1人1日1本限定です」

赤城は涙目で振り返った。

「そんな!ずっと食べたい食べたいと憧れていたのに!」

「だから食べられるでしょ、1日1本。ほらそろそろ帰るよ」

「うー・・・」

「じゃあ潮、間宮さんと仲良くしっかりな。間宮さん、よろしく頼みます」

「ありがとうございます!」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。