艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file31:工廠長ノ夕日

 

4月9日夕刻 ソロル本島

 

「んー、工廠長はどこかいな、と」

鳳翔の店を出た提督は、サクサクと砂を踏みながら港に向かって歩いていた。

丁度太陽が沈む時間だ。話をするなら絶好の時間だろう。

「おっ、居た居た」

工廠長は港近くの洞窟で基礎工事を進めていた。

周囲には妖精の姿も見える。

作業の邪魔をしてはいけない。

提督は近くの岩場に腰をかけて、作業が終わるまで待っていた。

「ふぅ。お前達、ありがとう。今日はこれで終りにしようかの」

工廠長は妖精達を労った。

工廠長は一人で鎮守府の建設作業を始めたのだが、程なく妖精達が手伝い始めた。

早く済ませて皆で遊ぼうという妖精達の提案に、工廠長は涙した。

うちの子達は優しい。極悪オーダーを承認したどこぞの提督とは大違いだ。

作業が終わったのを見計らうと、提督は工廠長に声をかけた

「工廠長!」

工廠長はびくっとした。悪口を言った途端に現れおったわい。

「艦娘や装備開発、そして鎮守府建設の件、本当にありがとう。感謝してもしきれないよ」

「提督。上に立つ者、そう簡単に礼を言うものではないぞい」

「簡単な事ではないよ。ほら、ささやかだが手土産だ」

「ん?」

「中トロの炙り握りと日本酒。好きだろ?」

「や、や、覚えてたのか。鳳翔の店のだな?」

「勿論」

「ふむ。夕飯代わりにつまむか。相手をせい」

「それじゃ、一献」

 

「くぁーっ!旨い!仕事の後は淡麗辛口に限るのう!」

「さすが鳳翔さん、良く冷えてる」

「炙りトロも旨いなあ。久しぶりじゃよ」

「ま、もう一杯」

「おっとっとっとっと・・ありがとう。それじゃご返杯」

「どうもどうも」

 

「・・・・で?」

「で、とは?」

「これだけ飲ませて食わせたのだ、何かあるんじゃろ?」

「さすが、お見通しか」

「ふ。言うてみい」

「夕張の事なんだがな」

「ん、データ好きの子じゃったな」

「そのデータの事なんだが、かなりの量を持ってるんだよ」

「ほう」

「そのデータが、今回頼まれた事で凄く役に立った」

「何を頼まれたんじゃ」

「簡単に言うと、深海棲艦の成仏だ」

「成仏?」

「あぁ。戦いたくないが思いだけが残ってるという深海棲艦が居る」

「ほう?」

「どれくらい居るかは見えてないが、1人2人ではない」

「うむ」

「その一人がな、生まれ故郷の鎮守府を一目見たいと泣いたのだ」

「ふむ。ま、飲め」

「おっと、ありがとう。でな、深海棲艦は記憶がかなり欠けている」

「ほう」

「だから途切れ途切れのヒントしかなく、特定は無理と思ったのだが」

「夕張の嬢ちゃんが見つけたって訳かの」

「そうだ。ん、注ごう」

「ありがとう。ふーむ、データも役に立つもんじゃの」

「そうなんだが、今、夕張は膨大なデータを個人で管理している」

「そうか」

「だが、個人では限界がある。そこで、だ」

「鎮守府の設計図にそういう部屋を追加したい、そういう事かの?」

「そうだ。出来れば敵の攻撃にも耐えられるように」

「なるほど」

「どうだろうか?」

「今、資材備蓄庫と入渠ドックをこの洞穴に作ろうとしているんじゃが」

「ああ」

「両方の特性的に重量物を扱うから、造りは堅牢じゃ」

「だろうね」

「あと、洞窟には外に続く細い横穴があってな、文月の嬢ちゃんが欲しがってる陸軍との交渉部屋もそこに置く予定じゃよ」

「海から直接行き来出来るほうが何かと便利だろうからな」

「そういうことだ。ただ、部屋を確保しても、横穴と洞穴の間には空きがあるんじゃよ」

「洞穴側から入る事になるが、頑丈さは保障済って事か」

「察しが良いな。その通りじゃ」

「良いんじゃないかな」

「形は細長いが、広さ的には教室位あるぞい」

「それならそこそこデータを持っておけるね。じゃあ電源と、通信機を置いてあげてくれ」

「データ保管庫というより研究所という感じじゃな」

「そうだ。多分夕張は」

「そこで寝泊りする、じゃな」

「ご名答」

「解った。お手洗いや簡易給湯施設も用意しておこうかの」

「そりゃ喜ぶな。レイアウトは任せる。ただ」

「大荷物が入るように、じゃな」

「その通りだ」

「解った。やっておこう」

「ありがとう」

「だから、簡単に礼を言うなというに」

「心しておくよ。あ、酒の残りは飲んでおいてくれ」

「半分以上残ってるぞい?」

提督は片目を瞑ると手を振りながら去っていった。

全く、ちゃんとフォローするからあの提督は憎めない。

さて、設計図に書き足しておくかの。

 

 




お寿司食べたいです。
相当口にしてないです。

炙りトロー
うー

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