艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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本編に関するコメントが恐ろしいくらい無いのは、思い切り外したのか、はよ続き持って来いって事なのか・・・
ガクブルしつつ後者だと信じて。
加賀さん登場させといて良かった…


木曾の場合(4)

勧誘船轟沈から2時間後。

 

球磨達は予定通りの上陸地点に辿り着いた。

「上空索敵。航空機無し。海上も北上大井以外の艦娘も見えず。多摩、どうクマ?」

「同じにゃ。木曾は見つけたかにゃ?」

「・・いや、居ない」

「じゃあ上陸するクマ」

「木曾、油断しちゃだめにゃ」

「解ってるさ」

「・・やっぱり代わってあげようかにゃ?」

「いーから。ここを頼むぜ姉貴」

「気を付けるにゃ」

「姉貴もな」

「にゃー」

ザクザクと草をかき分け、あっという間に沢を登って行く多摩。

木曾は球磨の作った道を懸命に辿りながら思った。

よくあんな鋼鉄の甲冑つけたまま山登れるよな・・・

とてもじゃないが、俺には無理だ。

 

 

「標的アルファの全体轟沈を確認。繰り返す、標的アルファの轟沈を確認」

 

司令官室で無線を聞いていた男は、ふっと笑った。

「破片を回収したか?」

「船首の一部が近くまで飛んで来たので採取しました」

「よろしい。画像を送れ」

「はい」

ヴヴヴヴとFAXが動き出し、印刷された写真を見た。船名が読み取れる。

「良くやった。急ぎ海域を離れ、第5艦隊は全員帰投せよ。隠密行動を継続せよ」

「はっ!」

 

 

「アノ爆発ハ何ダッタンダ?」

「ソモソモ、アノ船ハ何ダ?」

「乗員ヲ救助シナクテイイノカ?」

深海棲艦達は勧誘船の爆発を見た後ざわついていた。

その場を動くなという命令が出ていたので様子を見に行く事はしなかった。

だが、延々と黒い煙を上げ、やがて真っ二つになって沈む姿をずっと見続ける事になった。

しばらくして、一体の後期型イ級が本陣に駆け込んで来た。

「姫様ニ報告アリ!」

ざざっと深海棲艦達が道を開け、後期型イ級はそのまま浜を走った。

そして程なく北方棲姫と、その侍従長であるflagshipル級の前に出た。

「報告シマス!爆発シタノハ勧誘船ダッタヨウデス」

「何故解ル?」

「コレガ漂着シマシタ」

差し出されたのは巨大な看板だった。真ん中に砲弾らしき大穴が開き、ひしゃげている。

侍従長は受け取ると頷いた。

「・・確カニ。爆発マデノ様子ハ?」

「最モ近カッタ物ノ話デハ、爆発ノ前ニ何度モ着弾シタト思シキ上下動ガアッタト」

侍従長は傍らの北方棲姫を見た。

「姫様・・」

呼ばれた北方棲姫は悲しげな表情で俯いた。

以前から北方棲姫は、部下が自分を護って討たれていく事が嫌で仕方が無かった。

少なくとも、我々は何もしていない。

我々はこの身になった後も静かに海の底に住んでいるだけだ。

もう戦いは嫌だとぬいぐるみを抱えて鎮守府から逃げ、軍規違反で沈められた。

契約を破ったのは解っているし、沈められた事に恨みは無い。

だが、もう轟沈したのだから罪は償った筈だ。

ただ静かに住んでいたいのに、なぜ更に戦いを仕掛けられなければならないのか。

「戦イハ・・モウ嫌」

侍従長はぐっと唇を噛むと、目を伏せた。

今回、ここに陣を張ったのは勧誘船を招く為だった。

勧誘船の噂を聞いて、北方棲姫は皆で人間に戻ろうと提案した。

部下達も穏健派であり、反対する者も居なかったので、どうすれば巡り会えるか考えた。

情報を集めたが、艦娘化をどこの鎮守府でやってるのかはついに知る事が出来なかった。

色々な海域の海底に移動して船を待ったものの、巡り合う事が出来なかった。

なので、わざと地上で陣を張れば、勧誘船を回してくれるかもと考えたのだ。

果たして船は来てくれたが、目の前で轟沈してしまった。

部下の話を考えれば、誰かに砲撃されたというのが妥当な結論だ。

船が砲撃され、近くに居たのは我々だから、我々が真っ先に疑われる。

深海棲艦だというたったそれだけの理由で釈明も聞いてもらえないまま攻撃される。

集まっている数が多い程、いきなり情け容赦なく総攻撃されてしまう。

もう他に、勧誘船は居ないのだろうか?

諦めて迎撃体制を整えねばならないのだろうか。

いや、準備はとうの昔に整っているが、迎撃許可を出して良いのだろうか。

許可と言った途端、北方棲姫がとても嫌がる大海戦が始まってしまう。

しかし向こうが撃って来るなら、北方棲姫を守らねばならない。

戦わずにこの場を引き払う猶予は、もう僅かな予感がした。

侍従長は静かに目を開け、北方棲姫に退却を進言しようとしたその時。

 

ガシャンガシャンガシャン!

 

姫の座る切り株の背後にある草むらがざわざわと動き、音が段々近づいてくる。

誰か居る!?無人である事は確認した筈だ。動物か?でも金属のような音がしないか?

戸惑いながらも砲門を構えた侍従長の前に

 

「話を聞いてほしいクマー!」

 

と、球磨が飛び出てきたのである。

侍従長も北方棲姫も、その場に居た深海棲艦達はぽかんとして呆気に取られた。

あらゆる予想を240度位ずれていたからだ。

聞こえてきた声は艦娘、それも球磨のそれに聞こえた。

海から来なかったのはまだ理解出来ても余りにも外見が違う。違い過ぎる。

斜め上どころか斜め下に突き抜けてる。

微かな記憶を辿れば、これは中世の鎧兜というか、甲冑だ。

なんだろうこれ?

ホントに艦娘?

 

「エ、エト、何ノ話デショウカ?」

 

数秒後、ようやく北方棲姫が言葉を発した。

球磨はギギギと軋み音をたてながら北方棲姫の方を向いて言った。

「私達はさっき、まっすぐ向こうで爆発した勧誘船に乗ってたクマ!見えたかクマ?」

北方棲姫達は恐る恐る頷いた。

「私達は深海棲艦の艦娘化をやってるソロル鎮守府から来たクマ!」

その時、木曾がようやくたどり着いた。

「あ、姉貴、早過ぎる。ちょっと待てって・・おうわっ!」

だが、球磨はお構いなしに続けた。

「私達の用件は1つだけだクマ!艦娘に戻る気はないかクマ?」

侍従長がそっと片手をあげた。

「ア、アノ、落チ着イテクダサイ。モウ少シユックリ話シテクダサイ」

しかし、事態を理解した木曾はそのまま侍従長に向いて言った。

「今が最後のチャンスなんだ。攻撃命令が下りたら俺達じゃ止められない!」

球磨は北方棲姫の方を向いて言った。

「あの砲撃は開戦したい誰かの差し金だクマ!時間が無いんだクマ!信じて欲しいクマ!」

 

北方棲姫はじっと球磨達の言葉に耳を傾けていたが、球磨にぴょこぴょこと近寄って行った。

侍従長が

「ア、姫様」

慌てて止めようとしたが、北方棲姫は球磨の足元まで行くと、

「兜ヲ取ッテクダサイ。御顔ガ見エマセン」

と言った。

球磨はきょとんとした後、ガシャンと音をさせながら手を打ち、

「そうだそうだクマ。すっかり忘れていたクマ。ごめんクマ」

といって兜を脱ぎ、しゃがみこんで北方棲姫と目線を合わせた。

「球磨型1番艦の球磨だクマ。貴方達と無闇に戦いたくないんだクマ」

といって、にっこりと笑った。

木曾は侍従長に右手を差し出すと

「木曾だ。よろしくな」

と言った。

侍従長はそっと握手をすると、再び北方棲姫を見た。

北方棲姫はじっと球磨の目を見ていたが、やがて

「1ツ教エテクダサイ。確実ニ艦娘ニナレマスカ?」

と、聞いた。

球磨はきょとんとした後、ニッと笑いながら答えた。

「大丈夫!東雲組がちゃんと戻してくれるクマ!」

その様子を北方棲姫は食い入るように見つめていたが、やがてこくりと頷き、

「侍従長、コノ人達ヲ信ジマショウ」

と言った。

 

 


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