艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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艦これのツボは、穴だらけで矛盾に満ちた設定にあると私は思っています。
艦娘の航行の仕方も滑る、走る、艦船の形に戻る等、様々な論が展開されておりますが、そもそも艦娘の存在自体矛盾に満ちています。
でも、艦これやその周辺は、今とても面白い。エンタメとしては正しいわけです。
私は現状で良いと思いますので、このSSでも面白さを最優先としています。
だから矛盾があるという指摘はその通りですし、その解消は難しい。
いわゆる書き間違いは訂正しますが、膨大な矛盾との対峙は避けます。
理由は簡単。私が下手なので、そこに拘ると話がシラけちゃうのです。
矛盾無く面白い話が書ければ良いのですが、私の能力では無理なので、もうそこはゴメンとしか言いようがありません。



雷の場合(5)

宴の後、真夜中の宿泊部屋

 

霧島は皆を連れ、売店やゲームコーナーで十二分な時間を過ごしてから部屋に戻った。

夕食の膳は下がっていたが、

「・・酒臭っ」

鼻をつまみながら霧島達は窓を開けた。

爽やかな空気が部屋に満ちていく。

「あー、気持ち良いわねー」

そして部屋の床を見た。

金剛は酔い潰されたのだろう、大の字にひっくり返っている。

比叡はその姉に寄り添うように眠っている。いつもの光景だ。

龍田は徳利を握り締めたまま大和にもたれかかって寝ている。凄いなこの人。

榛名はいつもと変わらない寝相で寝ている。またマイペースに飲みましたね?

霧島は溜息をつくと、

「そっちの布団が空いてるから、皆で詰めて寝ましょう」

といい、酔った面々に触れる事無く眠りについたのである。

 

「お粥がこんなに美味しいとは・・最高デース」

金剛はガンガンする頭痛と戦いながら、朝食の粥に感謝していた。

「金剛様、頭痛薬をお持ちしました。食後に服用なさってください」

「ありがとゴザイマース」

仲居から薬を受け取ると、金剛は3膳目の粥をよそった。

ゴマや人参、ひじき、野沢菜とかが細かく切られて沢山入っている。

「お粥食べるだけで栄養満点ネー・・あいたたたた」

ふと榛名を見ると全てのおかずをもりもり食べている。

龍田もいつも通りだ。

大和は・・あ、私と同類だ。頭痛薬貰ってるし。

その時、視線を感じた大和は金剛を見た。

金剛は粥の椀と頭痛薬を持って苦笑した。

大和も苦笑を返した。

二人の間に強い絆が生まれた気がした。

一方、雷達は霧島の差配に心から感謝していた。

「命の恩人よね」

「ありがとうなのね!」

「九死に一生を得ました」

そんな事無いですと手を振りながら、チクチクと良心の呵責に苛まれる霧島であった。

 

「失礼致します。清掃係でございます」

「お待ちしてました!お忙しいのにごめんなさい!」

「いえいえ、こちらこそお待たせしてすみませんでした」

これまた素敵な朝食の後、雷達の部屋に清掃係が訪ねてきた。

温和な表情の、初老の男性だった。

だが、雷はその手を見てすぐに職人だと見抜いた。

親指と人差し指が少し湾曲しているし、つやつやしている。

「・・・・」

雷は黙って清掃係の手を取り、じっと見た。

その手には指紋が無かった。

つやつやしていると思ったのは指紋が擦り切れていたのだ。

「あ、私にご用件と伺ったのですが・・・」

戸惑いながら尋ねる清掃係に、雷は真っ直ぐ目を見ると、

「無茶は承知の上でお願いします。掃除の仕方を教えてほしいの!」

龍田と大和は同時に溜息を吐いた。やっぱり。

文月はおずおずと雷に言った。

「あの、ここには掃除の研修に来た訳ではなくてですね、骨休めを・・」

雷は文月に向き直ると、にこっと笑った。

「昼間しっかり動いた方が夜はたっぷり眠れるし!」

「あ、あの、観光名所とかを回るのも良いかなって」

「こんな素敵な職人さんが居るのよ!技を見せて頂きたいわ!」

「わ、技というような物ではございませんよ、愚直に拭いているだけでございます」

雷は清掃係に向き直ると、じっと目を見ながら言った。

「絨毯に嘔吐物」

ピクリと清掃係が反応する。雷はそのまま続ける。

「・・・どうされます?」

清掃係はそっと答える。

「次亜塩素酸ナトリウムを混ぜた大量の塩をかけます」

「感染症予防の為ね。続けてください」

「はい。固まったら箒とちりとりで掬って取ります」

「固形物にしてしまうのね」

「はい。次に絨毯用洗剤を入れたぬるま湯をかけながら、亀の子たわしで」

「たわし?」

「ええ、たわしで軽く叩きつつ、手首を捻るように掻き出すと奥の汚れも浮きます」

「それで?」

「浮いて来た汚れは湯ごとちりとりで掬って捨てます」

「それで?」

「汚れが目立たなくなった後、水気を取り、重曹を少し入れた水で絞った雑巾で叩きます」

「何故重曹を?」

「嘔吐物は強酸性で絨毯の芯に残ります。だから重曹で中和して酸化を防ぐのです」

雷はにやりんと笑いながら、文月に振り返った。

「どう?これだけのノウハウを持ってる職人さんなのよ!」

文月はがくりと頭を垂れた。雷の目はキラッキラだ。もう説得は無理だ。

確かにこの旅館をここまで綺麗に維持している清掃係は職人に違いないが。

龍田は文月の肩をポンと叩いた。

「好きにさせてあげましょう」

「そ、それで良いのでしょうか?」

「楽しい事をしていれば気分転換になるでしょう。あの、清掃係さん」

「は、はい」

「ご迷惑をおかけしますが、お仕事の邪魔にならない範囲でご対応頂けませんか?」

「よろしいんですか?」

「ええ」

清掃係はにこにこ笑う雷に向き直り、微笑んだ。

「それでは、何なりと聞いてください」

 

「良いわよ!皆は行ってらっしゃいな!」

主賓が出かけない以上、観光旅行は中止にしようと龍田は言ったが、雷は首を振った。

「私は遊園地のアトラクションに乗ってるような物よ!皆も遊んできて!」

そう言うとすぐに清掃係に向き直り、

「で、こういう細い所はどうやって磨くのかしら?綿棒?」

「そういう所はですね、竹串にTシャツの・・」

と、二人の世界に入って行ってしまった。

まさか全員でぞろぞろ清掃係の後をついて行くわけにもいかず、龍田は苦笑すると、

「まぁ、この旅館の中なら安全かしら、ね」

大和が頷きながら

「念の為大本営の警護艦娘を2名、こちらに向かわせました」

そう言ってくれたので、

「じゃ、私達は予定通り観光旅行に出かける準備をしましょうか。手配もしてるし」

と言い、金剛達は強くガッツポーズを取ったのである。

 

「それでは雷さんの事、お願いします」

到着した警護艦娘が高LVの熟練者である事を確認した龍田は、二人に頭を下げて頼んだ。

「お任せください」

「深海棲艦から暴漢まで、あらゆる者からしっかりお守りします」

二人はピシリと敬礼して応じた。

 

そしてその日の夜。

比叡は

「ほんと、高層ビルから見る景色って素晴らしいですね!」

雷は

「デニム生地で擦ると鏡のウロコ汚れが簡単に落ちるなんて知らなかったわ!」

と言った後、

「来て良かったわー」

とハモっていた。

観光から帰った龍田が女将に確認したところ、

「お昼ご飯もそこそこに、本当に丸1日、掃除のあれこれを尋ねてらっしゃいましたよ」

と、笑っていた。

聞けば雷に相手をしているのが最も長く居り、清掃係を束ねる室長を務めているらしい。

「ほ、本当にお仕事に邪魔をしてしまって申し訳ありません」

龍田は謝ったのだが、女将はにこにことしたまま手を振り、

「あの者の名前は室峰というのですが、大層喜んでおりましたよ」

「喜んで・・いた?」

「雷様はとても勉強熱心な方だ、そんな人に私の技術を認めて貰えて嬉しい、と」

「そうでしたか・・」

「なので、雷様をお叱りにならないでくださいね」

龍田は苦笑しながらも

「解りました、そのように提督には伝えておきます」

と返したのである。

 

 




嘔吐物の処理方法も含め、書いてある事はフィクションです。実際に試して効果が無くても作者は責任を持てません。
折角なので科学的に中和出来る物に置き換えてみました。お酢じゃ無理でしたね。
またまた誤字訂正しました。ご指摘ありがとうございます。

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