艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

355 / 526
【番外編】響達の遠征(6)

 

固まる加賀に提督は気付く筈も無く、のんびりと答えた。

「そんなんで良いの?」

「それで良い。それが良い」

「まぁ・・そんなんで良いなら良いけど。いつ?」

「こっ・・ここここ今夜」

「夜?」

「ダー」

「・・・じゃあ寝間着で来て良いよ。どうせ朝まで寝ちゃうだろ?」

響が一瞬で真っ赤になった。

「ねっ!ねまっ!朝!」

だが、硬直が解けた加賀が慌てて

「なりません!ずえったいになりません!」

「ど、どうした加賀?」

加賀は両腕をぶんぶん振り回した。

「そこは譲れません!幾ら何でもいけません!」

戸惑いながらも頷く提督。

小さい子に膝枕したらあっという間に寝ると思うんだけど、なんか変だったか?

「えっと、じゃあどうするかなぁ」

「夕食前の10分!制服で!私同席で!」

提督が首を傾げた。

「同席?なんで?」

「なんでもですっ!」

響が不服そうに加賀を見返す。

「えー」

「えーじゃありません!最大限の妥協です!」

「夕食後30分」

「しっ・・しかし・・」

響は涙目で加賀を見た。

「折角のご褒美なのに・・だめなのかい?」

「ぐっ」

提督は苦笑しながら手を振った。

「まぁまぁ加賀、私は30分位構わないよ」

加賀は提督をそっと睨んだ。こぉのニブチン!

対称的に、響は満面の笑みを浮かべていた。

「ハラショー。決まりだね」

「じゃあ夕食食べたら提督室においで。一緒に行こう」

「解ったよ」

ブツブツと「私だってやってもらった事無いのに・・」と呟く加賀を尻目に響は頷いた。

ずっと前、蒼龍から言われた。チャンスは逃すなと。

 

「・・・で、どうしてこうなった?」

首を傾げる提督とジト目の響が見ている先には、長門、加賀、そして扶桑が居た。

「膝枕会場はここだと聞いたのだが?」

「私達もして欲しいです」

「30分とは申しません。20分、10分、いえ、5分でも!」

提督は溜息を吐いた。

「何だか良く解らないけど、響はご褒美だから30分ね」

「ダー」

「で・・皆は10分ずつね?」

「うむ、それで良い」

「致し方ありません」

「ありがとうございます!」

提督は布団の上に正座しながら言った。

「男の膝枕なんて何が良いのやら・・・んじゃ誰から?」

「もちろん私から」

「早いね響。既に寝ていたか」

「ハーラショー」

「なんでゴロゴロしてるのさ」

「頃合いの場所を探してるのさ!」

「で、何で深呼吸してるの?」

「そう言う年頃なんだよ」

「膝枕にうつ伏せなんて苦しくない?」

「全然!」

「あ、そう。ところで御三方」

「なんだ?」

「何でしょう?」

「はい」

「なんでそんなに響を睨んでるんだい?」

「気のせいだ」

「目を凝らしてるだけです」

「特に深い意味はありませんわ」

「扶桑さん・・持ってるの藁人形?」

「いやですわ、そんなもの持っていませんわ」

「今明らかに後ろ手に隠したよね?」

「艤装を直しただけです」

「そーかなー」

「提督!」

「な、なんだい響」

「頭ナデナデしてほしいな」

「こう?」

「・・んふー」

ギリッ!

「か、加賀、額に青筋立ってるぞ?」

「良く・・見ておきませんと」

「見てるというより睨んでるよね?それも物凄く殺気立ってるよね!?」

「気のせいですっ!」

「気のせいじゃないような気がするなあ」

「提督、手が止まってるよ?」

「ほいほい」

「ふにー」

「・・・」

「・・・」

「な、なんか沈黙が重いんだけど」

「気のせいだろう」

「そ、そうかな。なんか落ち着かないな」

こうして数時間にも思えた30分が過ぎ。

提督は響の頭をぽんぽんと叩いた。

「ひーびーきー」

「・・ふえ?」

「やっぱり寝てた。30分だぞー」

「しまった!横になってからほとんど覚えてない!」

「やっぱり寝ちゃうよなぁ。ま、時間だから起きとくれ」

「も、もう1回!」

3人が腕時計をぺしぺし叩きながら応ずる。

「なりません!」

提督は苦笑していた。

「見事にハモッたね。ま、約束は約束だからまた今度ね」

響は帽子を握り締めた。

「くうううっ、明日にすれば良かった」

提督は立ち上がりながら言った。

「えっと、長門達は順番決めてて。ちょっとトイレ行ってくるよ」

パタン。

伏してぺしぺしと布団を叩く響をよそに、長門、加賀、扶桑の3人は互いに見合った。

「・・恨みっこ、無しだぞ」

「先に勝った順番で良いですね」

「最初はグー、ですね?インチキしたら呪いますよ?」

一瞬の静寂。否が応にも高まる緊張を破ったのは長門の掛け声だった。

「ぃよし!勝ちぬき勝負!最初はグー!じゃんけんポン!」

加賀と扶桑は目を見開いた。

「なっ・・長門さんが・・チョキ・・そんな、馬鹿な」

「こういう時、長門さんは絶対グーだと思ってましたのに・・・」

「ふっ。意外性訓練の成果は伊達ではないわ。1番は私だっ!」

加賀と扶桑の間で火花が散る。

「次は負けません」

「2番目は私が!」

「最初はグー!じゃんけんポン!」

「きゃあああああ」

「・・やりました」

ガチャ。

「なんか叫び声が聞こえたけど・・って、何これどんな状況?」

「提督、順番は最初が私、次が加賀、最後が扶桑だ」

「はいはい。ひーびーき、布団にのの字を描いてないで部屋に戻りなさい」

「うぅぅううぅうう」

「また今度やってあげるから」

「・・本当?」

「約束しよう」

「・・指切り」

「はいよ。ほら、ゆーびきりげんまん」

「嘘ついたら徹甲弾飲ーます」

「随分太い針だなおい」

「指切った!約束だよ提督!」

タタタッと走って部屋を出て行く響。

「はぁ。ま、良いか。んじゃ始めようか長門さん」

「う、うむ」

 

こうして、長門、続いて加賀がぽへんとした表情で提督の部屋から出て行ったのである。

が。

 

「おぉい、扶桑さーん、10分経ったよー」

「zZzzzZZZzzz」

「爆睡してる所悪いんだけど、時間だよぅ」

「zZzzzZ・・むにゅー」

「もう、ほれー、鼻つまんじゃうぞー」

「zZzzzzZZ」

「あ、うつ伏せになった。・・ほんとは起きてるんじゃないか?」

「zZzZZzz」

提督は耳元で囁いた。

「・・そーっと脇腹とかなぞってみようかな?」

ピクッ!

扶桑が脇腹をなぞられるのが大の苦手である事は鎮守府中の誰もが知っている。

提督はジト目になると、

「なぞっちゃおっかなー、くすぐっちゃおっかなー」

ピクピクッ!

「ほれ扶桑さん、バレてるから起きてください」

ちらりと扶桑が片目を開けた。

「・・・むー」

「はい、今日はおしまい。また今度ね」

「むー」

「むーむー言ってもダメです」

「あっ、頭・・ナデナデしてください」

「良いけど・・皆なんでそんなにナデナデ好きなんだ?」

「安心・・す・・ZzzzzZz」

「こらー寝るなー!ほんとにくすぐるぞー!脇くすぐるぞおぉ!」

ガラッ!

「扶桑姉様っ・・・てっ!提督何してるんですか!!」

「起きないから起こそうとしてるんだ!山城!手伝ってくれ!」

「だったらワキワキする手の動きを止めてください!どこ触ろうとしてるんですか!」

「ちがっ!これは起こそうとしただけだ!」

「普通に揺さぶって起こせば良いじゃないですか!変態!スケベッ!」

「変態ではありません!」

「・・」

「・・」

「え、スケベは否定しないんですか?」

「取り繕ってもしょうがないし、な」

「スッケベースッケベー、提督のスッケベー♪」

「・・一人で南極海洋調査船の護衛したいんだね?5年くらいどうだ?」

「すみませんごめんなさい申し訳ありません調子に乗りました」

「良いから扶桑さんを部屋まで運んでください」

「提督がお姫様抱っこで運べば良いじゃないですか。姉様も喜びますよ」

「青葉に見られたら1面トップどころじゃないけど、良いの?」

「連れて帰ります」

「よろしく」

 

そして数日後。

「それでは、長距離練習航海、行って参ります!」

「竹セット持ったかい?」

「持ちました!」

「よし。じゃあ気を付けて行っておいで」

「はい!」

響達が見つけたやり方は複数の班で有効性が確認され、マニュアル化された。

時折、液の濃度が極端に薄い、あるいは濃い場合は失敗する事もある。

だが、持ってない場合に比べれば、平均5割は全体の成功率が上がったのである。

以来、長距離練習航海の遠征時には竹のコップと耳かきが必須アイテムとなった。

だからこの2つをまとめて「竹セット」と名付けた。

提督は舞風からこの名前を聞いた時、

「なんだか定食のコースみたいだなぁ」

そう反応したが、舞風はにっと笑って答えた。

「覚えやすいのが一番だよー」

「まぁ、良いか。あれで皆の成功率ががぜん上がったしね」

「あ、そうだ。ジャージありがとね、提督!」

「良いのあった?」

「あった!というかこれなんだけど?」

「ほう、普通の服みたいだね。生地はジャージっぽいけどデザインとかオシャレだね」

「今はジャージも色々あるんだよ。欲しかったけど手が出なくてさ!」

「幾らだったの?」

「上下で9万9180コインだよ」

提督が硬直した。

「・・・・へ?」

「いやー、欲しかったんだけど高過ぎて手が出なかったんだよねー」

「あ、ああ、そう、ね、ジャージって言うより高級服だね」

「限定ジャージだからね!可愛いし踊り易くて嬉しい!大事にするね提督っ!」

「あ、ああ、大事にしておくれ・・あはは」

 

トコトコと走って行く舞風を見送りながら、提督は力なく手を振った。

今度からは鳳翔さんの店で「好きな」デザートを奢ってあげよう。

うん、そうしよう。

 




さて。

これは第3章というより第2章的な書き方ですね。
少人数で繰り広げられる日常のひとコマ的。

それにしても、資料の為にジャージの値段をア○ゾンで調べたわけですが、9万とかあるんですね。本気で驚きました。

書き方が少し変わっておりますが、これは変えたというより、変わってしまったという事です。
いつも通り書いたんですが、北海道が広かったからですかねえ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。