艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(24)

提督と長門の背後からいきなり声がかぶさってきた。

「かぁーーーーっ!初々しいわねー!うぶねー!」

「見てるこっちが痒くなるな!」

提督と長門がガバッと振り返ると、それぞれ一眼レフを構えた中将と五十鈴が居た。

そうしている間もバッシャバッシャとシャッターを切っている。

「ちょ!な!何してるんですか!」

「撮るな!フラッシュを焚くな!」

ふんと息を吐いた中将、ニヤリと笑う五十鈴。

「これでどれだけ恥ずかしかったか解っただろ?」

「あたし達を冷やかしたお返しよ」

提督は溜息を吐くと、ぽつりと呟いた。

「私と一緒に戻ってきてくれ・・二度と離さん」

長門が首を傾げながら尋ねた。

「なんだ?さっきの映画にそんなくさい台詞があったか?」

提督は必死に笑いを噛み殺し、中将と五十鈴が真っ赤になった。

「うっ!うううううるさいぞ提督!まだ覚えてたか!」

「だっ、ダダダダーリンのプロポーズの言葉を馬鹿にするのは許さないわよ!?」

五十鈴の言葉に事態を理解した長門は

「お、おおお・・中将殿・・そんなセリフを・・・よくぞ・・・」

「ええいうるさい!五十鈴は私のハニーだ!文句は認めん!」

提督と長門は穏やかな笑顔で、

「いいえ、羨ましいです」

と言ったが、提督がぽつりと

「・・ハニー」

そう繰り返したのが、長門のツボにはまった。

「プッ・・ふふっ・・て、提督・・・笑わせるな」

「やかましいやかましいやかましい!ダーリンとハニーで何か間違っておるか!」

「い、いえ、何も間違ってないですよ」

だが、五十鈴はふっと真面目な顔になると、

「貴方達、変な覚悟決めてないでしょうね?」

と言った。

首を傾げる3人に、五十鈴は続けた。

「これから、1万体の深海棲艦を相手に、100人で戦うんでしょう?」

「・・・」

「どう考えても無茶としか言いようが無い中で、直前にデートなんて・・」

ハッとした顔で中将が続けた。

「確かに本土防衛は厳しいが、それでも何とかする。自殺行為はするんじゃないぞ?」

「姫の島事案でも止めたけど、貴方達を失うのは本当に痛いのよ?」

提督と長門は顔を見合わせた。

一部、龍田達の苦労を無駄にするかもしれないが・・・

「長門、言っておこうよ」

「そうだな。この二人にだけは」

「お、おい。まさか本当に自決作戦を・・」

「違うのです中将殿。ちょうど人影も無いですし、ご内密に願いたい事が」

「う、うむ」

 

「・・・提督」

「はい」

「まず、結論としては、龍田君達の論法で押し通そうと思う」

「と、仰いますと?」

「確かに実情と異なる点はある。あるのだが、相違点を正しく言う方が大問題だ」

「でしょうね」

「ね、ねえ長門」

「なんだ?」

「その、本当にル級は自発的に規則を定めたの?」

「我々は何も言ってないからな」

中将が深い溜息を吐いた。

「カレーが食べたい、だから迷惑をかけないように自分達で秩序を守る、か」

「ええ」

中将は空を見ながら言った。

「・・・深海棲艦は、案外、我々人間と同じような知能を持っているかもしれないな」

長門はそっと提督を見たが、地上組の事を話すつもりはなさそうだったので黙っていた。

「私と五十鈴はその件を承知した。その上で、龍田のストーリーで行く」

「はい」

「群衆はちょっとしたことが引き金になって暴徒化する。くれぐれも気を付けるように」

「はい」

五十鈴がくすっと笑った。

「じゃあホントに、普通のデートだったのね」

「いっ!?」

「そっ、そこに戻るのか五十鈴!?」

「冷やかさないから安心なさい。でもそれならそれで、もっとイチャイチャしたら?」

どういう事だろうとぽかんとする提督と長門を見て、

「五十鈴・・まだこの二人には早いようだよ」

「そうね。見るからに奥手そうだものね」

と言いながら中将達は席を立った。

「では提督、そのうちまた、ソロルを視察に行くよ」

「その時は艦娘達のカレーを御馳走しますよ」

「楽しみにしておる。定期船が出るまでには戻れよ?」

「ええ、解りました。ありがとうございます」

 

二人が立ち去った後、提督は長門に言った。

「始める前に、言えて良かったよ」

「ああ。あの二人には真実を伝えておきたいからな」

「そうだね。後は大和さんか」

「まぁ、大和にはあの二人が伝えてくれるだろう」

「だろうな。じゃあそろそろ冷えて来たし、私達も戻ろうか」

「解った」

そう言って立ち上がった長門を、提督はそっと抱きしめた。

「!?」

「その前に、ちょっとだけイチャイチャしてみます」

「どっ・・どど、どうすれば良いのだ私は」

「そのままで良いよ」

突然の事に驚いた長門だったが、その一言でふっと我に返った。

そして、コツンと提督の肩に頭を預けると、囁いた。

「大丈夫。私は貴方と共にある」

提督が頷き返した時、二人の傍の街灯が点いた。

 

「なぁ、長門」

「なんだ?」

「まだ出航まで1時間はあるよね?」

「あるぞ」

「ちょっとここ、寄っていこう」

「うん?」

提督が指差す先にあったのは「写真館」だった。

 

「奥様との記念撮影ですか。お任せください」

「出来た写真は郵送してもらえるかな?なかなか来られないんだ」

「もちろんです。それでは何枚か撮らせて頂いて、最も良い物を御送りします」

「すまないね」

「では、こちらへ」

 

奥の小部屋には、1人がけの椅子が1つ。

赤いカーペットと白い壁だけなのだが、なかなかに趣のある雰囲気になっている。

「さぁ、長門、座りなさい」

「いっ!?いい、いや、提督を立たせて座る訳にはいかぬ」

「良いから、ここは私の顔を立ててくれ。な?」

しばらく長門は迷っていたが、やがてそっと椅子に腰かけた。

「はーい奥様!御帽子がございますのでもう少しお顔をあげてください」

「う、うむ」

「旦那様、もっと目一杯奥様の隣まで寄ってください!入らないので!」

「こ、こうかな?」

「もっと!もっとピッタリまで!」

「こ、こうかい?」

「お手の位置が宜しくありません。右手を奥様の肩に!」

「ええっ・・こうか?」

「よろしゅうございます。奥様!」

「な、ななななんだ?」

「・・お二人とも、凄く御幸せそうですね」

長門はカチンコチンに緊張していたが、くすっと笑うと答えた。

「ああ。今とても、幸せだ」

 

 パシャッ!パシャッ!パシャッ!

 

「それでは最もよろしい物をお送りいたします」

「これで足りるかな?」

「充分でございます。御釣りを・・」

「良い。その分、しっかりと頼みます」

「・・畏まりました」

写真館を出た後も、長門はずっとによによと笑っていた。

「どうした、長門」

「いや、その」

「?」

「お、奥様と呼ばれるのも、悪くない、な」

「奥さんて呼ぼうか?」

「提督からそう呼ばれるのは微妙だ」

「・・・ハニー?」

「ぶっ!あはははははっ!それは無い!それは無い!」

「そうだよね」

上機嫌で定期船に向かう長門を見て、提督はそっと神に祈った。

願わくば、長門に少しでも多くの幸せをお与えください、と。

 




長門シリーズ開始から、物語の中ではまだ6日しか経ってないのに既に24話な訳で・・・

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