「おはようございます!」
「おはよう・・って、意外と元気だね」
提督は朝食の膳と共に現れた赤城を見てそう答えたが、赤城は首を傾げた。
「意外って、どういう事ですか?」
「いや、朝から搬入作業やったのに元気だなと」
「起きる時間としてはちょっと早くなりましたけど・・」
赤城はてへへと頭に手をやった。
「おやつ買いこむ為に毎日台車作業やってた事もあるんで、割と慣れてます」
「あー、ボーキサイトおやつ毎晩買い占めてた事があったね」
「いっ、一応皆さんが買った後に残りを買ってたんですよ?」
「間宮さんが作った傍から売り切れるから毎日大変だったってこぼしてたけどね」
「うっ」
「ま、良いよ。じゃあ朝食にしようか」
「はい!美味しく頂けそうです!」
「それは何よりだ」
「・・そう言えば、提督」
あっという間に朝食を平らげた赤城が、淹れた茶を提督に渡しながら言った。
「うん?」
「研究班を支援してた子達はどうするんです?」
「ああ、山城達ね」
「そうです」
提督はさらさらと茶漬けを啜り、ちょっと考えた後に言った。
「・・結論から言うと、現状を事後承認してしまおうかと思ってる」
「といいますと?」
「名簿上は今も残ってても、他のとこで専従をしてる子が居るでしょ」
「経理方の響ちゃんとかですね?」
「そう。大鳳組で番頭役をやってる山城とかもそうだよね」
「はい」
「一方で、今は白星食品や工房では見学希望者を随時受けてくれているらしい」
「必要の無くなった業務もあるという事ですね」
「そういう事。現時点で滞ってるとも聞いてないし、名簿だけが取り残されてる気がする」
「なるほど。他にもありそうですね。では私の方で現状確認してきましょうか?」
「出来そうかな?」
「それは大丈夫かと思いますが・・ええと」
「ん?何?」
「確認には1日必要かと思います。御一人で書類作業になりますが大丈夫ですか?」
「今日はそれほど書類も無いけど、昼食時点で互いに進捗確認して午後を決めようか」
「なるほど、解りました。では膳を下げるついでに行ってきます!」
食器を片付ける赤城に、提督が話しかけた。
「・・なぁ、赤城さん」
「なんでしょうか?」
「今まで、大変かと思って回す仕事を意図的に少なくしていたんだけどさ」
「提督・・」
「そのせいで力を持て余していたのなら、すまなかったね」
「いえ、あの、私の方も黙っていてすみませんでした」
「とはいえ、確認は大変な作業だから無理しないでね。一番良いペースを探そうよ」
「・・はい!」
提督と赤城はにこっと笑いあった。
その頃。
長門は大本営の大和から通信が入ってるという事で、通信棟に来ていた。
「久しぶりだな大和。暗号通信とは、どうした?」
「幾つか、ね。まずはそちらの作戦。中将殿から伺ったけど・・驚く他ないわね」
「まぁその、通信だと説明しにくい事もあったのでな」
「同じ言い回しでも通信だと伝わらない事もあるから、それは解るけど」
「そう理解してくれれば助かる。幾つか、という事は他にもあるのか?」
「ええと、白星食品の事なのだけど」
「うん?どこかでトラブルでも起こしたのか?」
「逆よ。炎上している白星食品の漁船を見かけたって今朝報告が入ったの」
長門が眉をひそめた。
「ビスマルクに確認を取る。海域とかの情報はあるか?」
「あるわよ。メモは用意出来る?」
「ああ、始めてくれ」
「・・そうなのよ」
大和との通信を終えた長門が白星食品を訊ねたところ、会社内は騒然とした雰囲気だった。
それでもビスマルクは対策本部を抜け出し、長門を応接室に案内した。
「被害状況は?」
「漁船が2隻やられたけど、乗組員は無事脱出して他の漁船がピックアップしたわ」
「さすがに手回しが良いな」
驚く長門に対し、ビスマルクは声を落とした。
「実を言うとね、今回の事は少し前から懸念してた事なのよ」
「どういう事だ?」
「以前は私達乗組員が深海棲艦だったからDMZを張ってても違和感は無かったの」
「うむ」
「でも今、漁に出てる子は全員艦娘でしょ。DMZ張ってても疑われた事があるのよ」
「DMZを、ってことか」
「ええ。今回は深海棲艦に戻って見せろって言われて、出来なかったら攻撃された」
「戻ってみせろと言われたのか?」
「ええ。船に張ったDMZが本物かどうか確かめたかったんだと思う」
「ふーむ」
「今回の損失は大きくは無いけど、これが続けば生産出来なくなる」
「そうだな」
「どうした物かって今も会議してるんだけど、良い方法が無いのよ」
「DMZが本物と深海棲艦から認められるように、か」
ビスマルクは肩をすくめた。
「深海棲艦として漁をやってた頃には全然気にしなくて良かったんだけどね」
長門は腕を組んで唸り、ビスマルクは続けた。
「いずれにせよ、乗組員は無事だから心配ないわ」
「解った。提督には一応報告しておくぞ?」
「ええ。正式なリポートは後で書面で出すって伝えておいて」
「鎮守府側で何か手助け出来る事は無いか?」
「DMZを信用してもらえる方法があったら教えて欲しいわね」
「うーむ」
「あ、ごめんなさい。そろそろ戻らないと」
「解った。邪魔したな」
「いいえ、心配してくれてありがとう」
「ふむ。艦娘しか居ないからDMZを信用してくれなかったんだな」
提督の言葉に長門も頷いた。
「そうらしい。深海棲艦に戻って見せろと言われたようだ」
提督は次の書類を見ながら言った。
「・・ということは、その子達は化けられるんだね」
「あるいは、化けられる事を知っているか、だな」
「あとは、化けて漁をしている地上組が居るのを知っている可能性がある」
「・・・なるほどな」
「ま、そっちは置いておくとして、ビスマルク達の安全を考えないとね」
「うむ。どうしたら良いだろうか?」
提督は見ていた書類を却下のカゴに移し、次の書類を手にすると呟いた。
「・・あ」
「どうした?」
「ル級さんに連絡取れる?」
長門は少し眉をひそめたが、ハッと気づいたような顔になり、
「蛇の道は蛇か」
「そういう事だ」
「昼食の時に探し、居なければ誰かに呼んでもらおう」
「解った。どこまでしてもらうかは、白星食品側と相談で決めるけどね」
「ならばル級に連絡が付いたら、ビスマルクにも声を掛けておく」
「時間調整大変かもしれないけど、頼むよ」
「任せておけ。ではな!」
長門が出ようとした時、入れ替わりに赤城が昼食を携えて戻ってきた。
それを見た提督は長門の背中に声を掛けた。
「長門、ちゃんと昼ご飯は食べるんだぞ」
長門は軽く頷いて出て行った。