艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

403 / 526
長門の場合(48)

月曜日。

 

長門が朝の巡回で小浜に差し掛かった所、

「ア、アノ、アノッ」

と、呼び止める声がする。

声の方を見ると、深海棲艦のイ級が居た。

「うん?どうした?」

イ級は少し躊躇った後、

「コ、コノ看板ニ書イテアル艦娘化ヲ受ケタイノデスガ、ドコニ並ベバ良インデショウ?」

と聞いて来たのである。

長門は頷くと

「こっちだ」

というと、工廠脇の艦娘化受付窓口に連れて行った。

「ここで問診票を書き、この窓口に入る。艦娘化が終わったらこっちで待つ」

「何時カラ開クンデスカ?」

「ええと、あぁ、0900時からだな。ここに並ぶと良いそうだ」

「アノ、1日何人マデ良インデショウカ?」

長門がイ級を見た。

「沢山居るのか?」

イ級がこくりと頷いた。

「深海棲艦ダト、駆逐艦ハトッテモ弱イ立場ダカラ、皆デ戻ロウッテ決メタンデス」

「どれくらいなんだ?」

イ級は思い出すように数秒沈黙した後、

「1500体ハ、居マス」

長門はごくりと唾を飲んだ。

それはこっちより、日向の基地で対応してもらった方が良い数だ。

「・・よし、それだけまとまっているのなら、相応しい場所がある」

「遠イノ?」

「うむ。迎えを寄越すよう頼んでみよう。今日の夕方、もう1度話を聞きに来てくれ」

「何日カ先ナラ、皆モ集マレルト思ウ」

「解った。一度に全員が行けるかは解らないが、数日先から開始としよう」

「夕方、ドコニ来レバ良イ?」

「先程の浜辺で良いぞ」

「解ッタ!アリガトウ!」

「うむ、気を付けてな」

パシャパシャと海に帰って行くイ級を見送ると、長門は提督室に向かった。

 

だが。

「ぉはょぅございますぅ・・」

出迎えたのは妙に元気の無い比叡だった。

「どうしたんだ、比叡?」

首を傾げる長門に、提督は肩をすくめた。

「榛名に指圧で起こされたらしいんだけど、後を引く程痛いかなあ?」

比叡と長門はギリッと睨み付けると

「本っ当に痛いんですっっっっ!!!」

「見事にハモッたね。まあそれで飛び起きて調子が出ないらしいよ。で、どうしたの?」

「あ、ああ。実は今朝、巡回の時に駆逐イ級が相談に来てな」

「ほう」

「看板を見て、1500体の駆逐艦が艦娘に戻りたい、とな」

提督は頷いた。

「看板大成功じゃない」

「そうだな。ただ、東雲一人に任せるには多すぎる」

「日向に連絡取るか。あと、輸送は往復船か、最上の勧誘船を借りるかね」

「うむ。それが良いだろう」

「比叡、通信の準備と、最上と三隈を呼んでくれ」

「はぁい」

「・・元気無いなあ。そんなに痛かったの?」

「はい」

「後で工廠長と相談してごらん。艤装の不具合かもしれないよ」

比叡はふと思い出すかのように天井を見ると

「あ、そういえば、先日の出撃の時に派手に転んでから、足が痛いんですよね・・」

「入渠しても?」

「ええ。今は損傷無しの状態の筈なんですけど、微妙に痛いです」

「それは変だ。ここは良いから今すぐ工廠長の所に行ってきなさい」

「え、でも、秘書艦・・」

長門が頷いた。

「私が代わっても良いぞ?」

提督が頷いた。

「とりあえずこの場は長門に代わって貰う。どれくらい休みが要るかによって後の事は決めよう」

「す、すみません。じゃあ行ってきますね」

「うむ」

比叡が出て行き、長門は招集を済ませると提督にたずねた。

「わ、私も指圧は結構痛かったのだが・・」

「比叡のような連続した自覚症状はあるかい?」

長門は首を傾げてしばらく考えたが、

「いや、それは無い」

「ずっと昔、扶桑と山城も続けた痛みを抱えていたのだけど、艤装が原因だったんだよ」

「そうだったのか」

「私と工廠長で艤装の図面を調べて、ほぼ1週間位ドックを占有して直したなあ」

「何が問題だったんだ?」

「設計だね。幾つかの絡まった矛盾があってね」

提督室に数秒の沈黙が流れ、長門は眉をひそめて聞いた。

「え、ええと、艤装の設計が原因という事は・・構造上の欠陥という事か?」

「平たく言えばそうだね」

「それを、提督と工廠長で直したのか?」

「そうなるね」

「たった1週間で?」

「いやいや。欠陥自体を見つけて、改善策をまとめるのには4ヶ月くらいかかったな」

長門は小さく頷いた。

長門が着任した時、扶桑は既に航空戦艦として活躍していた。

記憶にある扶桑型戦艦の能力よりも明らかに高い機動力を備えていたので、

「Lvが上がるとこうも変わるのだな。私も負けていられぬ!」

と、頑張ったのである。

だがその後、他の鎮守府で高Lvの扶桑を見ても、そこまでの機動力は無かった。

この違和感はどことなく気になっていたのだが、そういう事だったのか。

「・・なーがと?どうした?」

提督の呼びかけで我に返った長門は目を細めると、

「なんでもない。提督らしいエピソードだなと思っただけだ」

艦娘の欠陥を調査して直してしまう司令官など、提督くらいのものだろう。

 

「そんなに希望してるんだ、へぇー」

「じゃあ一旦勧誘船を貸し切りにして、ピストン輸送しましょうか」

提督の話にそう答えた最上達に対し、日向は通信機から答えた。

「往復船で運ぶより勧誘船の方が乗れるから助かるな。ただ・・・」

「どうした日向」

「仲間の完了待ちをする者が居住棟に多く居てな、居住棟の空きが少ないのだ」

「どれくらい?」

「待ってくれ・・そうか。今朝時点で4人一部屋として144人分だな」

「一部屋は最大何人まで行けるの?」

「一応8人まで行けるが、かなり狭い。6人が良い所だろう」

「とすると、頑張って200か」

「ああ。だが推奨は150と言う所だ」

「完了待ちってどういう事だい?」

「グループの中に大型艦が居る場合が主だ。大型用は2つしかないから作業待ちが発生する」

「現時点で何日位?」

「3日程度だ。その時間で艦娘化後の教育を受けてもらっている」

「他の待ちは?」

「通常サイズなら日に200体は戻せるが、そちらに送れるのが日に25人しか居ない」

「そりゃ結構なボトルネックになってるね」

「いや、人間化希望者が割合としては多いのだが、たまに半数近くが教育を希望するのだ」

「100人希望で25人枠じゃ当然待ちが出るね」

「こちらでも初歩的な教育は始めているが、希望者は待っているケースが多いな」

「今、受付から完了までおよそ何日かかってるの?」

「単独で来た場合は2日程度だが、数十体以上のグループならおよそ10日はかかる」

「なるほど。ドックの増設や大型化はもう無理かな」

「3階建てや地下埋設はさすがに避けたいし、東雲組の配分も限界だ」

「居住棟の増設も無理だよね。あ、メンテナンス効率化は?」

「今でも相当熟練域だ。これ以上は可哀想だろう」

「ふむ。じゃあ戻せる人数に合わせて教育対象数を増やすのが課題かな」

「そうなるな」

「長門、妙高を呼んでくれないか」

 




400話超えてましたね。
お祝いの言葉をかけてくれた方、ありがとうございます。
まだ長門シリーズはしばらく続きます。
長編ゆえに長門と誰かというシーン以外も多く含みますが、天龍編と同じようなものだと捉えて頂ければ嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。