艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(49)

 

「それでしたら、私達が持ち回りで出張しましょうか?」

提督から状況を聞いた妙高はそう答えた。

「イメージをもう少し教えてくれる?」

「私達4姉妹のうち1人が、1週間ないし2週間単位で交代で出張します」

「ふむ、ああ、そうか。移動時間を考えれば日替わりよりその方が楽だね」

「はい。あ、どこか教室として使える場所はあるでしょうか?」

日向が答えた。

「食堂の未使用エリアがまだ1フロアある。50~60人位は入れるぞ」

妙高が頷いた。

「それならそこで50人程度を上限に、毎日おさらい教育をします」

「なるほど」

「日に2セット行えば、100人ずつ対応出来ます」

「それは可能かい?こっちでは講師1人あたり、1日1セットだよね?」

「こちらでは鎮守府内のオリエンテーリングなどを行ってますから」

「そうか。それは基地では出来ないからなあ」

「ええ。まぁそういう所まで希望する子は従来通りこちらにお越し頂く方が良いかと」

日向が言った。

「そこまで忘れている子は比較的少ない。日に5人10人程度で充分だろう」

「なるほど」

「あと、こちらにも教師希望者が数名いるから、しばらく妙高達の講義を見て覚えさせる」

「なるほど、じゃあその子達が覚えるまでの間の対応だね」

「そうなるな」

「という訳で妙高さん、しばらくの間だけど出張対応頼みます」

「はい」

「最初に戻って日向、イ級達は何日おきに何体受け入れ可能かな?」

しばらくあってから、日向が答えた。

「勧誘船の上限、50体を毎日でお願いしたい。来週には枠を押さえておく」

「とすると、開始は来週月曜、毎日50体ずつおいでって事だね」

長門が訊ねた。

「何時に来させればいい?」

最上が答えた。

「往復船とかち合わない為には朝こちらを出て、午後戻ってくる方が良いよ」

日向が東雲組と相談して答えた。

「1000時位の到着が助かる」

「だとすると、0700時発かな」

「解った。それでは0630時集合、0700時発と連絡しておく」

「それと並行して、基地側で教育出来るように妙高姉妹に協力してもらう」

「はい」

「毎週1人ずつ4人持ち回り、で良いかな?」

「解りやすいのでそれで良いです」

「場所は基地の食堂予備スペース、受け入れ人数は日に100人、で良いかな?」

「はい。教材は私達で用意しますので、配布物を人数分印刷する所をお願いします」

「あぁ。それはこちらの事務方で対応出来るな」

「基地の子達で回せる目処が付いたら妙高達の出張は終わりね」

「はい」

「あと、勧誘船のチャーターもイ級達の対応が終わったら終わり」

「うん。でも・・」

「何だい、最上?」

「これが順調に行ったら、後に続く子も出るんじゃないかなあ?」

最上の言葉に皆がピタリと止まった。

「・・た、確かに」

「終わらない・・という事か」

一番早く対応したのは日向だった。

「それなら鎮守府からの対応枠を50体分常に確保しておくとしよう」

「大丈夫?」

「予備枠として考えれば、必要無い日は妖精達の休息にもなる。それで良い」

「決断早いね日向さん」

「基地の運用で嫌でも鍛えられた」

「それなら専用船を用意するかい?最上」

「んー、今使ってる往復船をもう1隻作れば良いよね?」

「充分だね」

「解った。月曜までに用意しておくよ」

「じゃあ勧誘船のチャーターは無し、往復船2号で最初から対応、だね」

日向が言った。

「その方が、うちの妖精達も迷わないから助かるな」

「じゃあ往復船2隻体制で、こちらは・・0700時発と1400時発か」

「そうだね」

「基地発は、今は0700発だよね?」

「そうなるな。ならば2号は1400時発にすれば解りやすいのではないか?」

「なるほどね。最上、それで良いかな?」

「オッケー、出発地が違うだけでどちらも0700時と1400時発なんだね」

「そうだね。じゃ皆、それぞれ準備と対応を頼む!」

「はい!」

 

「・・危なかったなあ」

「本当に良かったです」

イ級達への対応が決まった後、提督は長門と共に工廠へ向かった。

そこで聞かされたのが、比叡の艤装で整備ミスが見つかったというのである。

「今のままだと半分の缶からしか蒸気を供給出来ない所じゃったよ」

工廠長が汗を拭いながら答えると、比叡に向き直り、

「うちの子のミスじゃ。本当にすまなかったのう」

と、頭を下げた。

「い、いえ、本当にいつもお世話になってますし、しょうがないですよ」

恐縮する比叡を見つつ、提督は

「工廠長、すまないけど再発防止策と緊急点検を頼むよ」

「うむ、もちろんじゃ。これから妖精達と対策会議に入る。すまんが失礼するぞい」

工廠長が工廠に戻っていくのを見ながら、提督は比叡にたずねた。

「で、比叡さんは自覚症状は治ったの?」

比叡はきょとんとした後、

「・・あ、そう言えば痛くないです!今なら足の裏も痛くないかも!」

そう言って靴を脱ぐと、自ら足の裏の1点をぐいっと押した。

 

 もちろん、比叡は工廠長達が飛んで来る程の大声で叫んだのである。

 

比叡が転がりまわる様子を長門と提督はそっと見ていたが、

「・・今回の比叡の件、指圧の痛みとは無関係なんだね」

「指圧はチェックマーカーとしては使えないようだな」

と呟くと、共に溜息を吐いた。

 

その日の夕方。

 

「エ!?本当ニ来週カラ50人ズツ対応シテモラエルンデスカ?」

説明を聞いたイ級は目を見開いて喜んだ。

「そうだ。毎朝0630時にここで待っていてくれ。0700時に出発だ」

「迎エノ船マデ出シテ頂ケルナンテ・・アリガトウゴザイマス」

「一度に受け入れてやれれば良かったんだが、色々あってな。すまない」

「トンデモナイデス。コレデヤット、皆デ仲良ク戻レマス」

「艦娘に戻るのか?人間に戻るのか?」

「ソコハ月曜マデニ決メマスケド、多分、人間デスネ」

「・・そうか」

「ア、オ手伝イシテカラ人間ニ戻リマショウカ?」

長門はくすっと笑った。

「そんな気遣いはしなくていい。案ずるな。決めた道を行くが良い」

「ジャ、ジャア皆ニ伝エマス!」

「頼むぞ。気を付けてな」

「ア、ソウダ」

「うん?」

「アノ、今回ノ、オ礼デス」

そう言うと、イ級は長門に小さな指輪を渡した。

指輪は小さな宝石が数多くちりばめられており、大きさの割に重さがある。

「これはどうしたのだ?」

「海底デ拾ッタノ!綺麗ダッタカラ持ッテタ!アゲル!」

長門は躊躇ったが、イ級の好意を無にする事も無いかと思い、

「解った。ではありがたく頂いておくぞ」

と言って受け取ったのである。

 

週が明け、月曜の朝。

「・・うん、解った。じゃあ予定通り出航させるからね」

日向との通信を終えた提督は、秘書艦当番の加賀と頷きあった。

昨日までに最上達は船を仕立てていたし、妙高は一足先に昨日の午後便で基地へと向かっていた。

そして日向から、受け入れ準備に問題は無いという最終確認を取ったのである。

「よし、長門に伝えよう。小浜に行くか」

「私がインカムで伝えましょうか?」

「いや、一応最初だから、様子を見に行くよ」

加賀はくすっと笑った。

「解りました。そろそろ集合時間ですね」

 

「第1班50名、全員揃イマシタ!」

「うむ!時間前に揃うのは偉いぞ!」

「アリガトウゴザイマス!」

相談に来たイ級とは別に50体が、2列縦隊で整然と並んでいた。

そこに提督と加賀がやって来た。

「やぁやぁ、皆緊張してるね。心配しなくて良いよ、大丈夫だから」

すると、整然と並んでいたイ級達がわっと提督の元に駆け寄った。

「アー!カレーテートクデスネー!」

「カレー美味シカッタヨー!」

「今マデアリガトウ!アリガトウ!」

「そうかそうか、礼を言ってくれるのか。ありがとう。皆はこの後、どうするんだい?」

「人間ニ戻ルノ!」

「働クノ!」

提督は目を細めると

「そうか、じゃあこれでお別れだね。人間に戻っても元気でね」

「最後ニ会エテ良カッタ!」

「ジャーネ!カレーテートク!」

「陸デ会ッタラ挨拶スルネ!」

「あはは、見つけたらそうしてくれ。じゃあ長門の言う事を聞いてな」

「ハイ!」

提督は長門に頷いた。

「よし、では迎えの船に案内する!皆付いてこい!」

「ハイ!」

颯爽と歩いていく長門に並んでついて行くイ級達。

「・・加賀」

「はい」

「長門にイ級が着いて行く絵って、珍しいよなあ」

加賀はくすっと笑うと

「ここにいると、むしろ普通の光景の方が貴重ですよ」

「・・あれ、そういや普通ってどんな光景だ?」

「そう言う事です」

 

 


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