艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(50)

ポーッ!

「ジャーネー!」

「長門サーン!バイバーイ!」

「アリガトー!」

汽笛と共に蛍光イエローの往復船NO2が港を離れていくのを、提督達は見送った。

まとめ役のイ級が長門達に向き直った。

「アノ、コレカラシバラクノ間、オ世話ニナリマス。宜シクオ願イシマス」

長門が頷いた。

「案ずるな。お前も毎日大変だろうが、最後までよろしく頼む」

「ハイ!ジャア私ハ仲間ニ無事終ワッタト言ッテキマス!」

「気を付けてね」

「アリガトウゴザイマス!デハ!」

そして港には、長門と提督、加賀の3人が残った。

提督は言った。

「成り行きで長門にやってもらったが、明日からは日替わりにしようか?」

「いや、心配は無用だ。巡回のついでに見送るだけだからな」

「そうかい?まぁ何かあれば私なり誰かに言いなさい」

「あぁ。そうだ提督、まとめ役のイ級からこれを貰ったのだ」

「おや、珍しいというか、古そうなリングだね」

「海底で拾ったそうだが、貰って良かったのだろうか?」

「もちろんだよ。摩耶も以前貰ったよ。大事にすると良い」

「・・そうか」

「じゃあ長門、すまないけどしばらくの間、引率を頼むよ」

「あぁ。任せておけ」

「よし、加賀、戻ろうか」

「解りました。では、歩きながらですが本日の予定を・・」

長門は立ち去る提督と加賀を見た。

加賀は有能な秘書として手際良く提督を支えている。

実際、加賀が秘書艦の日はこなす仕事量が突出して高い。

そのおかげで提督の机周りは書類が溢れずに済んでいると言われている。

自分は正妻とか色々言われているが、加賀のように提督を上手に支えているだろうか?

 

 

水曜日。

 

「うむ、今日は頑張るか!」

巡回を前に、長門はパンパンと頬を叩いて気合いを入れた。

今日は提督の秘書艦当番である。

自分に出来る事を手際良く、ミスなくこなしていく事。

まずはそこからだと思ったわけである。

小浜の辺りに行くと、少しざわついていた。

「どうした、何があった?」

「ア!長門サーン!」

「ヨロシクオ願イシマース!」

基地に向かう子達は明るい声で応じたが、

「長門ォー、大変ダヨー」

と、長門にすがりついて来たのは他でもないル級であった。

「ちょ、ちょっと待て。今は船に案内せねばならぬ」

 

ポーッ!

往復船NO2が港から見えなくなった後、長門はル級に訊ねた。

「それで、一体どうしたと言うのだ」

ル級は手を合わせて詫びる格好をすると

「本当ニゴメンダヨー、話ガ漏レテルミタイナンダヨー」

と言った。

長門が首を傾げていると、カ級が補足した。

「ココデ美味シイシュークリームガ食ベラレル事ヲ、他ノ海域ノ子ガ知ッテタンデス」

長門は息を飲んだ。

「お、大勢押しかけて来たの、か?」

「マダ数十体程度ダケド、噂ガドコマデ広ガッテルカ解ラナインダヨー」

「今来てるのは近い海域の子だったのか?」

「ウウン、結構遠カッタノ。ダカラ問題ナンダヨー」

「その海域に、誰か行ってないのか?」

ル級はカ級に訊ねた。

「エート、アンナ遠クマデ誰カ行クカナア?」

カ級はしばらく考え込んでいたが、

「ア!」

 

「ウチノ者ガ、ツイ自慢シタラシイ。本当ニ申シ訳ナイ」

「あー・・・」

「ま、噂の出所は解った、な」

昼前の港に集まったのは、提督、長門、ル級、カ級、そして浮砲台組長であった。

白星食品の漁船を護衛していた浮砲台の1体が、休憩時にシュークリームを食べていた。

それをその海域の深海棲艦が見つけ、ゆさゆさと浮砲台を揺さぶりながら

「ド、ドドドドドウシタンデスカソレ!買ッタノ?貰ッタノ?拾ッタノ?!」

と、あまりにしつこく聞かれたので、つい、

「ソロル鎮守府デ貰ッタンダヨ。美味シイヨー」

すると目をキラキラさせた相手は

「海底資源トカアゲレバ良イノ?ソレトモナンカ契約スレバ良イノ?」

「ウウン、並ベバクレル。ア、艦娘ニナラナイカッテ誘ワレル」

さらに相手は目を見開くと

「エ!?艦娘ニ戻レルノ!?」

そして、いつの間にかざばざばと数体が浮上して来て

「艦娘ニ戻シテクレルンデスカ?」

「シュークリーム食ベサセテクレタ上ニ?」

「シュークリーム貰エルノ!?」

と聞かれながら囲まれたので、浮砲台はしまったと思いつつも

「・・ア、アァ。ソウダ」

と返事したそうな。

提督は腕を組みながら言った。

「・・やむを得ない、な」

「本当ニ軽率ダッタ。キツク叱ッタノデ許シテヤッテホシイ」

提督は肩をすくめると

「もうそこはしょうがないとして、対策を打たないといけないね」

長門が眉間に皺を寄せた。

「一体全体・・何人分を考えれば良いんだ?」

「その前に供給の問題がある。間宮さんと高雄を呼んでくれるかな」

 

「・・こ、これ以上は厳しいですよ」

更なる増産は可能かと問われた高雄は肩をすくめた。

「既に毎日7500個は製造していますし、体力的にも上限は1万です・・」

間宮が継いだ。

「生地やクリームの供給量的にも、あまり突出するとさすがに大本営がNOと言うかと」

提督は腕を組んだ。

「案の定だね。今の供給量が2500とかなら良かったんだけど」

「それはないです。初日から5000個を切った事はありませんし」

「かといって未知の来訪者に今のシュークリームを分けるって方法は無しでしょ?」

ル級は頷いた。

「・・今更無理デス。世界大戦ガ勃発シマス」

「そうなると、費用、作業場、原料、生産者、配布所、全て調達しないといかんね・・」

長門が肩をすくめた。

「これ以上班当番での対応は厳しいし、あまり専属者を増やすのも厳しいぞ?」

その時、ずっと相談していたル級と組長が顔を上げた。

「アノ、間宮サン」

「はい」

「ワ、私達デモ、シュークリーム、作レマスカネ?」

「はい?」

組長がル級を遮った。

「イヤ、言イ方ガ違ウ。シュークリームヲ作レルヨウ、教エテハクレナイカ?」

提督が訊ねた。

「そちらで対応するって事ですか?」

「ウム。コウナッタ責任ハ我々ニアルカラナ」

ル級が継いだ。

「海底資源ノ掘レル所ハ知ッテマスガ、ソコマデシカ案ハ無イノヨー・・」

提督は頷いた。

「長門、ビスマルクと龍田を呼んでくれ」

 

「海底資源の資金化ですって?」

「そうなんだよ。リ級時代になんかやってないかなと思ってね」

「うちは海産物の販売で間に合っちゃったから資源は売ってないわね」

何となく澄ました顔のビスマルクに、提督はさらりと言った。

「やってなくても手段を知らないかな?例えば、地上組に卸すとかさ」

途端にビスマルクがピクリと止まり、探るような目で提督を見た。

組長と龍田は静かに目を瞑っていた。

「・・・誰、ですって?」

「地上組、だよ」

ル級は目が泳ぎ出し、長門はそれに気づくと軽く首を振った。

ビスマルクはル級の狼狽ぶりに気付くと、溜息をついた。

「提督、あまりその単語を言わない方が良いわよ」

提督は目を細めた。

「特にどういう時に言わない方が良いかな?今後の為に聞いておきたいな」

「そうね。ここじゃない陸に上がった時は禁句ね」

「誰が化けて聞いてるか解らないから、だね」

「ええ。私達も認証の時以外は言わないようにしてるわ」

「で、ビスマルクさん」

「なに?」

「その人達の会社を通じて、捌けるのかな?」

ビスマルクはじっと提督を見返したが、明らかに動揺していた。

 

 


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