艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

406 / 526
長門の場合(51)

ビスマルクは慎重に言葉を選びながら提督に言った。

「えっと・・本当に怖い話だから化かし合い無しで行きたいのだけど」

「そうか」

「どうして会社って言ったの?そして捌けると思う理由は?」

提督はにこっと笑った。

「理由は2つ。まずは君がリ級の頃、取れた魚を市場で捌いたって言ったでしょ?」

「え、ええ」

「市場は開放的な場所じゃない。新入りは誰かの紹介が必要だ」

「・・」

「紹介者は市場に信用されてる。つまり長い事働いて信用を得てるって事だ」

「・・」

「信用を得た者が信用を失うような賭けをする筈ないから、君達を知ってるって事だ」

「ぐ」

「もう1つはこの前店を開けた時、花輪が飾られたでしょ。お金が無いと出来ないよね」

「・・」

「真夜中にこんな海の真ん中で金を稼ぐとしたら海底資源を売るか傭兵しかない」

「・・」

「短時間で傭兵は無理、数は沢山居る。なら知り合いに海底資源を売ったとしか考えられない」

ビスマルクはがくりと肩を下げ、額に手を当てた。

うっかり一言言っただけでこのざまだ。

オロオロするル級に、組長が

「ダカラ、コノ鎮守府ヲ甘ク見ルナト言ッタノダガ、本丸マデ攻メ込マレタナ」

そう言って、ル級にコツンと軽く拳骨を落とした。

そして、頭をさするル級をジト目で見ているビスマルクに

「モウ無理ダ。正直ニ話ス方ガ互イニ無駄ガ無イ」

と言った。

ビスマルクは苦り切った顔をしていたが、やがて上目遣いに話し始めた。

「しょうがないわね。提督のお察しの通り売れる。海底資源は引く手あまたよ」

「現状を考えれば当然だね」

「地上組は幾つかに分かれているわ」

「どの派閥なら声を掛けやすい?」

「なんで派閥の事まで知って・・・あ」

ビスマルクが目を見開いて口を押えたが、組長は溜息を吐いて言った。

「私ハオーストラリアノ派閥シカ知ラナイ。彼ラハボーキサイト専門ダ」

ビスマルクが弱々しく言った。

「私は・・ツテがあるとしたら日本ね。比較的大きいわ」

「得意分野は?」

「燃料と鉄鉱石。窓口は提督もご存じの子よ」

「どういう事かな?」

ビスマルクは肩をすくめた。

「駆逐隊のボスのロ級と親友のヌ級、覚えてる?」

「ええと、ロ級さんは曙さんだったがヌ級さんは・・・誰になってたんだっけ」

「うちの経理にいた瑞鳳よ」

「その二人が窓口なの?」

「ええ。人間まで戻ってるから都合が良いらしいわ」

提督が眉をひそめた。

「一応聞くけど、その地上組は後ろ暗い事はしてないよね?」

「犯罪には加担してないわ。その辺は調べたから」

「まとめると、燃料、鉄鉱石、ボーキサイトは日本かオーストラリアに販売先がある」

ビスマルクが頷きながら答えた。

「ええ、そうよ」

「その売却益を使って原材料を購入し、ル級さん達でシュークリームを作る」

ル級が頷いた。

「ソウデスネ。浮砲台組ノ方達ハ大キイカラ、我々ガ作ル方ガ良イヨー」

「そして押し寄せてくる子達の交通整理をしつつ、配る」

組長が頷いた。

「食ベル前ニ、食ベテ艦娘化カ、即時退去カ選バセル。我々ガ引キ受ケル」

「戦力的に間に合いそうですか?」

「ウチハ出払ッテル者ガ多イカラ少シ足リナイナ。レ級組ニモ声ヲカケヨウ」

「レ級組?」

「文字通リ、レ級ダケデ構成サレテイル軍閥デ、元傭兵集団ダ」

「話せる相手?」

組長がニヤリと笑った。

「オ好ミ焼キガ大好物ラシクテナ、コノ前ノハ本場ノ関西モンダト大絶賛シテイタヨ」

提督は頷いた。

「なるほど。上手く行ったらご馳走すると伝えてください」

「充分ナ手土産ダ。助カル」

「ふむ。じゃあ工場は私達で用意しようか。龍田、そろそろ頼めるかな?」

龍田はゆっくり目を開けると、組長に微笑んだ。

「私達にも燃料分けてもらいたいなあ。工場の運用に使いたいのよねぇ」

組長が一瞬固まったが、

「ワ・・解ッタ。必要量ヲ言ッテクレレバ用意スル」

続いて龍田は間宮を向き、

「間宮さん、深海棲艦向けのレイアウトはさすがに経験が無いでしょう?」

「ええ、そうですね」

そしてゆっくりとル級の方を向くと、

「誰が作るのか決まったら来てくれるかしら?寸法図るから」

ル級はガタガタ震えながら答えた。

「カ、カカカカカ棺桶ノサイズデスカ!?」

龍田はくすっと笑うと

「通路の幅とか決める為だけど・・ドラム缶に入れて魚のエサにしてあげましょうか?」

「スイマセン!ゴメンナサイ!コンクリ詰メハ勘弁シテクダサイ!」

「あら~残念ねぇ」

長門は思った。龍田の眼力は深海棲艦にまで通じるんだな、と。

「後は大体良いかな、龍田」

「ええと、工場はどこに建てますか~?」

「岩礁かなあ。その方が都合は良いよね」

「売り物のストックヤードもとなると、結構な広さが居るわね」

「・・長門、工廠長を呼んできてくれ」

 

「まったく、人が断りにくいタイミングで無茶を被せてきおって」

「狙ってるわけじゃないんですけどね」

「しょうがないのう。岩礁の地形を少し盛り上げて、地面を広げるかの」

「どれくらいで出来ますかね?」

「地盤整備に3日、上を作るのに2日くらいかの・・」

「じゃあ1週間くらいですね」

「図面があればの」

全員の視線がル級に集まった。

「イ、急イデメンバーヲ選定シマスヨー」

「日没までに・・お願いしたいなぁー」

「今スグ行ッテキマス!」

ダッシュで駆けていくル級を見て提督は思った。

龍田は地味に人の使い方を心得てるな、と。

「じゃあ図面は龍田さんと間宮さんに頼んで良いかな?」

「良いわよ~」

「レイアウト考えておきます」

「出来たら工廠長に直接持っていって良いからね」

「うむ、解った」

「資源売却の件は、どっちの方が良いのかな?」

ビスマルクと組長はひそひそと話した後、

「じゃあ私のルートで対応するわ。その方がお金になりそうだし」

提督は頬杖をついて少し考えると、

「なら、挨拶に行こうかな。ロ級さんとも久しく話してないし」

ビスマルクが目を剥いた。

「はぁ!?だ、ダメ!絶対ダメ!」

「なんで?」

「知られちゃいけないの!地上組の事は!深海棲艦と無関係の人間には!」

「そんなに厳しいの?知らない仲じゃないから良いかなって思ったんだけど・・」

「今のあの子が困った立場になるから、それは勘弁してあげて」

「じゃあその件とは別に訊ねていくのはアリ?」

「何で今の職場を知ってるのよって絶対聞くわよ、あの子」

「奇遇だねえとか言えば良い?」

「提督のお芝居は解りやすいからダメ」

「ダメか」

「ダメよ。お願い、困らせないで」

長門が肩をすくめながら言った。

「諦めが肝心だぞ、提督」

「そう?」

「そうだ」

提督は肩をすくめた。

「長門が言うんじゃ、しょうがないね」

ほっと溜息をつくビスマルクの横で組長は思った。

この鎮守府は龍田と長門が表面上仕切っているが、真の指揮者は間違いなく提督だ。

だがヒュドラのように、提督が居なくても代行して思考するシステムが出来上がっている。

とても分厚く、こんなに柔軟な組織構造は間違いなく提督の作だろう。

硬い石より柔らかい溶岩の方が始末が悪い。

腑抜けの鎮守府なら乗っ取る事も考えていたが、とんだ食わせ物だ。

こんなのを敵に回せば良い事など一つも無い。

早く気付けたのは幸いだった。

ル級達にも今一度徹底させておこう。

共存政策の維持が妥当、決して仕掛けるなと。

なにより、白星食品のブイヤベースが人質に取られているからな。

あれが食べられなくなるのは本当に困るではないか。

そこまで思った後、組長は溜息をついて立ち上がった。

「ソロソロ引キ上ゲル。レ級達ノ説得モスル時間ガ要ルカラナ」

そして組長は数秒間、じっと提督を見た。

提督も組長を見返したが、にこっと笑った。

「よろしくお願いします」

「・・・解ッタ」

海に帰りながら組長は思った。

自分もしっかり罠に嵌っている。

これでは同じ地上組元老院のメンバーであるレ級の事を笑えないではないか。

 




一ヶ所訂正しました。
思い込みって色々ありますね。
私だけかな…(汗)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。