艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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すいません。
いきなり2話目から1話読みきりじゃなくなりました。
どうもこう、1話で1万文字とかあると自分で読んでて読みづらい。
長っ!って思うんですよね。
という訳で従来型のスタイルに戻します。



船魂の矜持(1)

「本当なのかい?その話。見間違いじゃないの?」

隼鷹は自分のおちょこをつまんだまま、疑わしそうな目を向けた。

問い返した先は目の前に居る龍驤だが、龍驤は鼻息荒く返した。

「キミィ、うちの目を疑うんか?まぁ乗らないならええで」

「ま、待てよ。乗らないとは言ってないぜ」

「じゃあどうするん?メンツ決めなあかんし、乗るなら乗ると言ってや」

「う・・事務方には何て言うんだよ」

「そこは考えてあるで。うちに任しとき」

考え込む隼鷹に足柄が言った。

「行ってダメでしたでも良いんじゃないの~?」

「お前完全に酔っぱらってるな」

「ここをどこだと思ってるの!鳳翔さんの飲み屋なんだから良いじゃない!」

「はぁー、こういう時酔っぱらいに何言ってもダメだよなぁ」

「酒場に来て真面目に考える隼鷹が悪いんじゃないの~あはははっ」

足柄の言う事も尤もだと隼鷹は思った。

何で楽しい酒席で怪しげな話を真面目に判断せにゃならんのだ。

隼鷹はにっと笑うと龍驤に言った。

「今すぐ決めろってんならNO。明日の昼頃、まだ空き枠があるなら言って。飛鷹と相談して決める」

龍驤は肩をすくめた。

「はいはーい。ほな、うちは帰るな!」

隼鷹はとててと走っていく龍驤の背中を目で追った後、

「さぁ飲み直そうぜ~」

と、足柄に声をかけた。

 

隼鷹は実は酒そのものが好きなわけではない。

酒席独特の、高揚した楽しい雰囲気の中で話すのが好きなのである。

だから飲んでいるように見えて、その実注文をやり取りしたり、皿を片付けたり、他の子に注ぐ方が多かったりする。

皆が楽しく飲んでる中に居る、それは隼鷹にとって大事な意味のある時間だった。

だが、今夜は千客万来だった。

足柄に酒を注いだ途端、インカムが鳴ったのである。

 

「はーい、隼鷹だよぅ」

「事務方の敷波だよぅ。今どこに居るの?」

「へ?鳳翔さんの店だけど?」

「えっと、もうアルバイト始まってるけど、今日はキャンセルするの?」

隼鷹はごくりと唾を飲んだ。

「えっ!?あれっ?明日じゃなかったっけ?」

「元々はね。でも日程変更で今日になったよって、朝から掲示しといたんだけどなー」

「うえっ!?」

「もぅ、ちゃーんと見とけよー」

 

艦娘向けに事務方が募集している唯一のアルバイト。

それが月に数回ある兵装開発である。

給料以外に唯一小遣いを稼げる貴重な手段であり、隼鷹は毎回欠かさず出席している。

なぜならその収入こそが飲み代の原資なのである。

隼鷹はハッとして店内を見回した。

いつもこの時間には居る筈の高雄が居ない!

「え、えとさ敷波、もしかして高雄は・・」

「とっくの昔に始めてるよ。さっきロケットランチャー出してたよ」

「ゲ!」

「んでどうするの?キャンセルする?」

「い、行く!すぐ行くからキャンセルしないで!」

「はいよー。あ、もしかして足柄も居る?」

「・・居る・・けど」

「出来上がってるんだねー?」

「・・あぁ」

「隼鷹は?」

「きょ、今日はまだ酔ってない!酔ってないよ!?」

「まぁ受け答え出来れば良いよ。でも泥酔者はお断りだからね!」

「・・解った。足柄は置いていく」

「後がつかえてるから早くしてねー」

インカムを切った隼鷹はきょろきょろと周囲を見回す。

一人の影を見つけると慌てて近寄った。

「・・那智!なっちゃん!」

那智はテーブル席で一人座り、肴の皿を前に静かに酒を飲んでいたが、声に気付いて振り向いた。

「ん、隼鷹か。どうした?」

「ごめん。今日バイトの日だってすっかり忘れててさ」

那智は怪訝な顔になった。

「何を言っている。バイトは明日だろう。酔っているのか?」

「違うって。日程変更で今日になったって今敷波から連絡があったんだよ」

那智はがたりと立ち上がった。

「なんだと!?今回は私も予約してるのだ!」

「うげ、そうなの?足柄の事頼もうと思ったのに!」

「ん、足柄も・・あれはダメだな、完全に出来上がっているな」

「足柄のキャンセルはしといたよ」

「それは助かる。では部屋に連れ帰る役は羽黒に頼もう。鳳翔!」

騒ぎを聞きつけて出てきた鳳翔は苦笑しながら

「はいはい、残りの品はキャンセルですね?」

「すまぬ。これは頂いてから支払いをする」

鳳翔は時計を見た。

「アルバイト終了まではまだ余裕があると思いますよ」

「・・うむ。旨い肴を雑に食べるのは申し訳ないからな。隼鷹、先に行ってくれ!」

隼鷹は財布を取り出した。

「ええっと、足柄はまだ飲み中なんだけど、お愛想出来るかな?」

鳳翔は伝票をもう1枚取り出し、足柄のテーブルにあった伝票からすいすいと書き分けると

「枝豆天ぷらは割り勘ですか?」

「あ、ええと、肴はアタシ持ちで良いや。酒は割りで」

「・・では3000コインで良いですよ」

「安くね?4500位じゃない?出せるよ?」

「アルバイト行きそびれては可哀想ですからね。御釣り無しで良いように」

隼鷹はパンと両手を合わせ、1000コイン札を3枚出した。

「悪ぃ!じゃあ那智、羽黒の手配頼む!キャンセルにならないように言っとくよ!」

「承知した。向こうは頼むぞ!」

タタタと走っていく隼鷹を見ながら鳳翔は苦笑した。

あの足取りは完全に素面ですから、隼鷹さん、今日はほとんど召し上がれなかったようですね。

それなのに酒代は割り勘、肴は自腹なんて人が良過ぎます。

 

アルバイト会場である会議室の前は順番待ちの列でごった返していた。

「やっべぇ、今日は人数が多いや」

懐から予約券を取り出すと、

「ほんとごめん!ごめんよう!」

と言いながら会議室に入っていった。

 

「隼鷹さん、ご協力ありがと~うございます!」

 

ドアを開けると不知火の声が飛んで来た。

隼鷹は近くに居た敷波に声をかけた。

敷波は予約券すら確認することなく、空いた機械の前に隼鷹を案内した。

「あ、ごめん、那智も予約してるでしょ。もうちょっとで来るからさ」

「えーと・・うん、入ってるね。了解」

 

隼鷹はチラリと部屋の中を見回した。

高雄の顔色が良い。さっき陸軍装備引き当てたって言ってたな。今日は引きが良いのか。

夕張は殺気立ってる。余り当たってないな。

あ、マズい。今日は睦月が居る。あーあ、三式ソナー山積み・・あれ地味に金になるからな・・

自分に割り当てられた機械に視線を戻し、深呼吸を2回。

両手で自分の頬をパンパンと叩き、機械に向かって2回柏手を打つ。

いつも始める前にやる儀式。

「今日も陸軍装備が出てきますように!」

27、211、33、28。

いつも最初に回す組み合わせ。

「お願いします!陸軍装備!」

目を瞑ってバチンとスタートスイッチを押し込む。

機械が光を放ち、消え失せると。

 

「ハイ10式!10式戦車出ぇ~ました!隼鷹さんそのまま行ってくだ~さい!」

 

隼鷹はニヤリと笑った。よっしゃ、久々の大物ゲット。このまま行くぜ!

その時、遅れて入口から入ってきた那智はげっそりした顔になった。

10式戦車だと!?幸先の悪い物を見てしまったな。

これから機械を動かして何か残ってるだろうか?

 

「毎度ありがと~うございました!」

不知火の声に送られながら、隼鷹は会場を後にした。

会場はまだ宴たけなわで、行列は減っているがまだまだ並んでいる子が居る。

懐に仕舞った厚みのある封筒をポンポンと叩くと、隼鷹はにっと笑い、寮に向かって歩き出した。

 

 





ちなみに。
バイト中の不知火さんは一生懸命です。
ラメジャケットに鼻めがねをかけて、特有の言い回しで。
詳しくは3章夕張の場合(20)辺りにありますので、気になる方はどうぞ。
前に書いてるネタと重複する所の書き方って、難しいですね。
何度も同じ事を説明するのも読んでてウザいでしょうし。
うーん。

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