艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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あの日、大本営で(2)

雷を見上げながら、大和は高速で思考した。

だが、ドアを当てた非礼を詫びる事、不老長寿化の話、自分は大丈夫だという事が混ざった。

ゆえに口をパクパクさせ、しきりにドアと通信機と自分の額を指差すという結果になった。

「もう!何なんだかさっぱり解らないわよ。落ち着きなさいな!」

「え、や、ええと、まず、ぶつけちゃってすみません」

「別に気にしてないわよ?」

「あ、あと、あの」

雷が首を傾げた。

「なに?通信機壊れたの?」

「あ、あの、ふ、不老長寿化が、出来たって」

雷はパチパチと瞬きした後、そっと大和の額に手を当て、

「ドアの打ち所が悪かったのかしら・・じっとしてなさい。医務班呼んであげるわ」

「い、いえ!信じて頂けないと思うんですが、あの、今!通信が!本当に!」

雷は大和が必死で通信機を指差しながら言うので、困った顔をしながら

「今、その人と通信が繋がってるの?」

「は、はい!直接お確かめを!」

雷は溜息を吐きながら通信室に入った。

宇宙人とでも会話したというのだろうか?

大和ったら可哀想に。記憶の錯乱だとすれば、長期入院が必要になるかもしれないわね。

とりあえず、医療班に引き渡す前に言う事を聞いてあげましょうか。説明しないといけないし。

ヘッドホンを被った雷は全く期待せず、

「雷よ!そっちはどなた?」

と聞いた。

医療班の電話番号を思い出していた雷の耳に飛び込んできたのは

「ソロル鎮守府の長門だ」

という返事だった。

「・・へ?」

雷は自分でも間抜けだと思う返事をした。

本当に応答が返ってきた。

それも、「あの」ソロル鎮守府である。

深海棲艦と仲良くしながら、連日深海棲艦を200体以上消滅させている、あのソロルである。

・・・今日はエイプリルフールじゃないわよね。

雷はずり下がってくるヘッドホンをぐいと直しながら、慎重に訊ねた。

「えっと、司令官の不老長寿化に成功したって大和が言ってるんだけど・・」

「その通りだ」

雷はマイクを持ったまま凍りついた。

 

15分後。

狭い通信室の中には、大将、雷、中将、五十鈴、そして大和がギュウギュウ詰めに入っていた。

勿論ヘッドホンではなく、スピーカーでオープンにして全員で聞いている。

ゆえに、戸口の前には警備兵が2人立つ程の物々しい警戒が敷かれている。

ソロル鎮守府の方も急遽提督が呼び出されていた。

中将は半信半疑でマイクを握った。

 

「て、提督」

「はい」

「その、不老長寿化を、受けたと聞いたが・・」

「ええ。昨晩、うちの子達が装置を作ってくれまして」

「すると、本当に不老長寿になったのかね?」

「作業した者曰く、完璧だそうです」

「そ、その・・作業者は信じられるのかね?」

「信用せざるを得ない事として、作業前に比べて15kg痩せました」

「へ?」

「作業者いわく、処置の時に体脂肪の数値をサービスで減らしておいた、と」

「・・・」

「普通、30分で15kgも体重が落ちませんし、今朝もそのままです」

「あ、ええと、提督」

「はい」

「わざと・・転んでみてくれんかね?」

「はい?」

「そ、それで小破して、ドックで直ったら間違いないではないか」

「そうですけど無茶苦茶なオーダーですね」

「別に小破するなら箪笥に小指をぶつけるのでも何でもいいんだが」

「んー・・・ちょっとお待ちくださいね」

「う、うむ」

それからややあって、スピーカーから小さな声で、

「い、良いのか?」

「軽く!軽くね!」

という声がした後。

 

 ドズン!

 

という音と、

「しまった!大淀!提督を運ぶから手伝ってくれ!」

「はい!」

という声、そしてバタバタという足音がした。

中将は大将を振り返った。

大将は肩をすくめると、

「恐らく、長門に足技でもさせたんだろう。待つしかあるまい」

と言った。

 

その後10分間、中将達は固唾を飲んで通信機のスピーカーを睨んでいた。

やがて、足音やガタガタという物音がして、

 

「いやお待たせしました!生まれて初めてドックで入渠してきました!」

という提督の声がしたのである。

 

「な、なにをしたんだね?」

「長門に軽く背負い投げをしてもらいまして」

「ふむ!」

「気を失って、かつ、ちょっと手を捻ったんですが」

「おお!理想的な怪我だな!」

「理想的・・まぁ良いです。それで工廠に運び込まれまして、修理時間が25分と出まして」

通信室にどよめきが響いた。

「おお!修理時間が出たか!」

「お待たせする訳にもいかないので、高速修復剤を使ってもらいまして」

「バケツも使えるのか!」

「はい。それで怪我が治ったのを確認して、急いで戻って参りました!」

「その、気力も回復するのかね?」

「ええ。良く寝たのと同じ位元気いっぱいです!」

中将はむにゅっと自分の頬をつねった。痛い。

そして傍らの五十鈴と頷きあった。

五十鈴がマイクを握った。

「えっと、その装置はまだ使えるのかしら?」

「はい。ただ、設置場所がソロルから離れた無人島にありまして」

「何か理由が?」

「いえ、そこでその装置を作れるかどうかやってみようという話になっただけです」

「とにかく、そこに行けば装置がある。そしてその装置はまだ使えるのかしら?」

通信機の向こうでもにょもにょと会話があった後、

「大丈夫だそうですが、何せ無人島の砂浜にあるので、あまり長期間放置してると・・」

「台風や塩害で壊れそうね」

「そういう事です」

五十鈴はキッと雷を見た。

雷はうむと頷き、

「良いわ!大将と私は15分で脱出する支度をするわ!五十鈴達もあわせて頂戴!」

「解ったわ!ダーリン、良いわね!」

「んお!?い、今から行くのか!?」

「当たり前じゃない!洋上で集合で良いわね雷!」

「もちろん!」

そして五十鈴はマイクを掴むと

「中将と大将もその装置に入ります。悪いけど準備をお願いするわ!」

「は?」

「だって、上手く行ったんでしょ?」

「はい」

「変な所ないんでしょ?」

「ええ。いつもと同じ体調です」

「じゃあうちのダーリンも受けさせてよ!881研究班の怪しい装置より遙かに良いじゃない!」

「えええっ!?か、かまいませんけど」

「離れた島にあるって言ったわね、位置はどこ?直行するわ!」

「え、ええと、長門、説明を頼む」

「解った。では現地で落ち合おう。五十鈴、メモの用意は良いか?」

「良いわよ!」

目が輝きだす雷と五十鈴を横目に、大和は他の事を考えていた。

大将も中将も毎日分刻みのスケジュールである。

いきなり長く開けて大丈夫なのかしら。

 

当然、部屋に戻った大将と雷を待ち構えていたのは長蛇の列だった。

だが大将はエッヘンと胸を張りながら

「大将は本日休業!ではまた明日!」

といって、雷の手を引っ張ってずんずん歩いていき、奥の自室に入ってしまった。

面々は一瞬呆気にとられたが、すぐにドンドンとドアを叩きながら、

 

「ちょ!急ぎの決裁なんですけど!大将殿!大将殿!?」

「あと2時間で国賓がいらっしゃるんですよ!?他に応対出来る人居ないですよ!?」

「明朝の会議資料はどうするんですか!とにかく開けてください!」

 

等と口々に叫んでいたが、その時既に大将は雷と共に旅支度を済ませ、窓から脱出していた。

勿論脱出用のシューターを用意していたのは雷である。

 

こうして。

 

大本営に次第に混乱が広がった頃、大将達4人はすでに海の上だった。

残された大和は予感が的中した格好になったのである。

すいませんすいませんと大和は頭を下げつつ、とんだとばっちりだと小さく溜息を吐いた。

一方。

大和が困るだろうと察した長門は東雲達を連れて島に急行。一行が来る前に準備を済ませた。

出発時、提督も行くと言ったが、

 

 「話が長くなるからダメだ。私に任せておけ」

 

と、長門が押し留めた。

そして大本営の一行が到着した直後、挨拶もそこそこに工廠へ案内すると処置を開始。

文字通り装置に「放り込んだ」のである。

そして一行到着の1時間半後には大本営に向けて送り返すと、自分達も引き上げたのである。

 

 


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