艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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エピソード15

龍田は天龍をしれっと受け流しつつ続けた。

「今回のMVPは電ちゃんね。1人で3人大破させたんですもの~」

電は腕組みしながら答えた。

「出来れば全員沈めたかったのです」

龍田は肩をすくめた。

「電ちゃんの魚雷術は恐ろしいレベルね~」

そこまで黙っていた神通だったが、がばりと電を向くと、

「あっ!あのっ!」

「なのです?」

「恥を忍んで伺います!今回の戦術は、どのようなものだったのでしょうか!教えてください!」

提督が頷いた。

「そうだね。有効な戦術なんだから皆で共有しても良いかもね」

天龍はにやっと笑った。

「仕方ねぇなぁ。よっく耳かっぽじって聞けよ?」

「は、はい」

「う・・そんな泣かなくても良いじゃねぇか・・冗談だって、良いか」

「・・」

「俺と、雷と、暁の役割は、4隻揃って行動してるって見せかけ続ける事だったんだ」

「え?」

「あー、海図借りるぜ提督」

「良いよ、応接スペースで広げてくれ」

提督は演習海域の海図を手に、応接スペースに移動。

天龍達、神通達も応接テーブルをぐるりと取り囲んだのである。

天龍は続けた。

「・・えっとな、演習が始まった直後、電は俺達と別れて、こう進んで、ここに留まった」

神通は呆気に取られた。

「い、岩場じゃ・・ないですか」

「そうだぜ。で、俺達は魚雷を撃つ時は暁と雷に2発ずつ撃たせ、必ず4本単位で撃った」

「あ、だから時差が」

「それは半分は時差狙いもあったけどな。で、俺は常に横っ腹を見せ続け、暁と雷を前後させた」

「は、はい。ですから私は、天龍さんの影にもう1隻居ると思ったんです」

「だな。で、俺達は日暮れ、夜戦判定ギリギリまで逃げ回ると同時に」

「はい。反撃せずに逃げ回られたので追うのが大変でした」

「その時に丁度、電に対して神通達がT字不利になるように位置を取ったんだ」

そういって天龍は、自分達と神通達の配置を描いた。

「あ、ああ」

神通はガクガクと震え出した。ようやく油断した天龍達を追い詰めたと思ったのは・・

「時間的にもギリギリ、神通達が俺達に対してT字有利なら、俺達しか見ずに撃つだろ」

「は、はい」

「そこに神通達に対して一人だけT字有利となった電が、至近距離から魚雷を狙い澄まして撃ったのさ」

神通は目を瞑って天を見上げた。全て天龍の手のひらの上だったのだ。

如月が溜息交じりに言った。

「本当に、戦術の教科書が全然通じないわね」

菊月が続いた。

「ああ。ここで言ってもなんだが、我々は他鎮守府との戦いではそれなりに勝っているんだがな」

提督が頷いた。

「この前は重巡メインの艦隊に勝って来たよね」

「うむ。それくらい神通の指揮は的確なのだ」

神通はびくりとして菊月を見た。

「で、でも、今日はこんなに惨敗を喫してしまいました。すみません」

「いや、旗艦1人で背負うべき責ではない」

三日月が言った。

「そうですよ!私達は4隻居るって全員信じて疑わなかったです。それは自分で見て判断した事です」

「み、皆さん・・」

提督が口を開いた。

「神通、確かに艦隊は旗艦の指示で動くけど、私は1度も旗艦が全責任を負えと言った事は無いよ」

「で、ですが」

「じゃあ勝った時の手柄は旗艦だけのものかい?」

「違います!皆のおかげです!」

「なら負けた時もそうだよね。いま私が神通に期待してるのは、自分を責める事じゃないよ」

「え、あの・・」

「こういう戦術を取られた時の対策を皆で決めて欲しいのが1つ」

「・・」

「そしていつか、天龍達をぎゃふんと言わせる策を皆で編み出してほしいと言うのが1つ、だ」

「・・」

「如月達とそれだけ強い絆を結べた神通なら、出来るんじゃないかな?」

「えっ?」

神通は提督を見返した後、恐る恐る如月達を見た。

「あ、あの、私をまだ信じてくださるんですか?」

如月が頷いた。

「負けっぱなしの趣味は無いし、神通さんを信じてるわ」

長月は真っ直ぐ神通を見返した。

「無論だ。神通の指導があってこそ我々はこの練度になれたのだからな」

皐月がニッと笑った。

「あったりまえじゃん!ボク達のボスなんだからね!」

三日月が拳を握った。

「やられたらやりかえす!ですよ!」

菊月が頷いた。

「結論は出たであろう、神通。3班で今晩から作戦会議だ」

神通はポロポロと涙をこぼしながら、

「はい・・はい。不肖ながら、神通、もう1度頑張ります!」

提督は頷いた。

「ん。よし。皆お疲れ様。まずは全員ドックでチェックを受けて。補給もしっかりね!」

「はい!」

「あ、電は残ってね。じゃ解散!」

「なのです?」

 

皆が出て行った後、取り残された電は叢雲と提督を交互に見た。

「あ、あの」

「さて、電さん」

「はいなのです」

「MVPの人には副賞を用意する事にしました」

「!」

「何がいいかな?あんまり高いのはカンベンしてね・・」

電はしばらく迷っていたが、やがて意を決したように顔を上げた。

「あっ、あのっ!」

 

そして夕食時。

天龍は傍らの電の目の前で手をひらひらと振った。

「おーい電、メシ冷めちまうぞ?」

だが電はぽやーんとした目のまま、

「えへへ、えへへへ」

と笑うのみであった。

天龍は叢雲を見た。

「なぁ叢雲、なんなんだこれ?」

叢雲は溜息をついて肩をすくめた。

「提督が、MVPの子には副賞を出すけど何が良いって聞いたのよ」

「あー、今日は電だったもんな。で?」

「電は提督に、頭を撫でて欲しいってリクエストしたのよ」

ピクリ。

文月の味噌汁を啜る手が止まった。

「あー、それで?」

「提督はその通りやってあげたわ。私が隣に居たし、いかがわしい事はしてないわ」

「頭撫でられたからぽへーっとしてんのか?」

「ま、そういう事ね」

「はー、ま、それなら良いけどよ、それにしても・・」

天龍は電をちらりと見た後、

「幸せそうな顔してやがんなぁ・・」

と言って食事を続けたのである。

 

そして、次の日。

 

「やりました!やってやりましたです!」

「今日の出撃で文月が大活躍したから、新海域を1発で突破出来たんだって?龍田が褒めてたよ」

「本領発揮したのですっ!」

フンフンと鼻息の荒い文月を見て、叢雲はやれやれと肩をすくめた。

提督はそんな叢雲に声をかけた。

「ん?どうしたの叢雲さん」

「なんで文月がそこまで頑張ったと思う?」

「いや、解んないけど」

「ま、本人から聞きなさい」

「OK。じゃあ他の皆はドックでチェック受けてね。で、文月」

「はい!」

「元気良いね・・えと、MVPの子への副賞なんだけど、何が良い?」

文月は満面の笑みを浮かべてこういった。

「膝の上に乗せてもらって、頭を撫でてほしいです!」

「え?あ、別に頭を撫でる事に限定しなくて良いんだよ。ほら、甘いものとかさ」

「頭を!撫でて!欲しいです!」

ずいずいと迫る文月。

提督はふと、叢雲もドックに行った事に気づいた。二人きり、か。

「・・ま、いいか。んじゃえーと、膝の上?」

「膝の上ですっ」

提督がギギッと椅子を引いて机との隙間を開けると、文月は嬉しそうにちょこんと乗った。

「で、頭を撫でるのね?」

「その通りですっ!」

提督は苦笑しながらわしわしと頭を撫で始めた。

「そんなに気に入ったのかい?」

「すっごく嬉しいのです~」

「ふーん」

しばらくそうした後、提督はふと言った。

「何かこうしてると、ちっちゃい娘を愛でる父親の心境になるねえ」

「あははっ、それならお父さんって呼びましょうか~?」

「おー、良いよ良いよ。呼んでみー?」

「えへへ、お父さーん」

「なんだーい?」

「えへへへへー」

頭を撫でられながら文月は思った。

こんな嬉しい記念だから、これからずっとお父さんと呼ぼう、と。

 




1箇所誤字訂正しました。
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