龍田がゆらりと刀を持ち上げて薄く笑った。
「これだけ引っ張っておいてノープランなの~?切り落としますよ~」
「だから、一人の頭なんてたかが知れてるって日頃から言ってるじゃないか・・」
「威張れる事じゃないわよ~」
「それはさておき、カネを稼ぐという事はコストに比べて高い収入を得続けるって事だ」
「そうよね~」
「タダ同然で仕入れられて、堂々と物凄く高価で何度も売れれば理想的だけど・・」
「そんな事は多分他がやってるわね~」
「まぁそうだろうけど、誰か何か、商売のネタになるような事に気付いた人はいないかな?」
「どういう事を思い返せば良いんですか?」
「ド汚い話、人が困ってる事を簡単に助けられるなら儲けられる」
「困ってる事ですか?」
「例えば、リンゴの木が沢山あるのに世界で脚立を持ってるのが自分一人なら脚立レンタルで大儲けだ」
「おぉ」
「相手が何かをやりたいのに阻害されていて、かつ、それを私達が出来る事、だ」
「んー」
考え込む面々の中、龍田は何かを思い出したようだった。
「どしたの?龍田さん」
「・・叢雲ちゃん」
「何よ」
「御花代、使って良いかしら~?」
叢雲は少し考えた後、
「・・そうね。最終的にはこの鎮守府の目的達成の為に使うんですものね」
提督はしばらく腕を組んでいたが
「あぁ、そうか。中将と大将がくれた弔いの花代だね」
「ええ、そうよ~」
「幾ら貰ったの?」
軽く聞いた提督に、これまた軽く叢雲が答えた。
「200万コインよ」
提督が啜りかけたコーヒーを吹き出した。
「は、花代に200万コイン!?」
「そうよ。私が受け取って、そのまま預かってるわ」
「まぁ背景を考えると大将殿が用意したんだろうなぁ・・」
龍田は頬杖を突きながら言った。
「幾ら貰ってもあの子達は帰ってこないけどね」
「そうだね。そして花代として貰ったから通常費用やお菓子代としては使いにくかったんだね」
「そういう事よ。かといってお墓とかを外注する訳にもいかなかったし」
「・・うん。轟沈の無い運用を目指す鎮守府の危機に備える基金だから、許してもらえるかもね」
「あくどい稼ぎ方したら罰が当たりそうよね」
「そうだね。後ろ暗い事はナシだね」
「だとすると~、投資関係はどうかしら~?」
「投資?」
「そうよ~、先物取引とか、為替取引とか~」
「龍田は経験あるの?」
「ちょっとだけ~」
提督はしばらく考えた後、ふむと頷くと財布を取り出した。
「よし龍田、ここに10万コインある。これで1ヶ月運用してみてくれるかな」
「お試しね~」
「そういう事。いきなりお花代に手をつけるより気が楽でしょ」
「そうね~、ただ、やるなら本気でやりたいなぁ」
「ん?どういう事?」
「それを御仕事にしたいって事~」
叢雲は眉を顰めた。幾ら自由にという提督でも、艦娘が日がな1日投資に明け暮れるなんて許すかしら?
「よし。じゃあ臨時で龍田を第1班から外す。あ、助手は居るかな?」
「お試しの期間は一人で良いよ~」
「作業するのはどこが良い?自室?それとも他に用意する?」
「んー、ここの1階の空き部屋使っても良いかなぁ」
「あぁ、幾つか空いてるね。角の部屋が広いんじゃないか?ここの下とかさ」
「じゃあそこにさせてもらいますね~」
上機嫌になった龍田を見つつ叢雲は肩をすくめた。提督、凄い事をあっさり認めたわね。
「ん。それなら1か月間はとりあえず龍田だけな。他の3人はどうする?他の班に編入するかい?」
文月が立ち上がった。
「あたしも、何か出来る事が無いか考えてみたいです~」
「んー、じゃあ不知火さんと二人で考えてみる?」
文月は不知火の方を向いた。
「やってみませんか?」
不知火は腕組みしてしばらく考えた後、
「今は何も思いつきませんが、提督の為になるのでしたら」
「決まりですね~」
叢雲は提督を見た。
「となると、アタシは?」
「しばらくは3人の事も心配だから、秘書艦としてここで待機していてくれないかな」
「しょ・・しょうがないわね」
ぶつぶつ呟く叢雲を見ながら、にこりと微笑んだ龍田は言った。
「あら~、1日中提督とくっついていられるわね~」
「ちょ!そ、そういう言い方しないで!」
ムッとした文月が
「あ、あの、相談とか御報告とかは伺っても良いですか?」
「もちろん。極秘だけど仕事として捉えてくれれば良いからね」
「解りました~」
こうして龍田と文月・不知火の3人は、財源確保という任務に就く事になった。
そして、1ヶ月後。
「というわけで、一回だけ4万コインまで減っちゃったけど、現時点ではプラスになりました~」
「・・・」
提督と叢雲は龍田が持参した日別の収支報告代わりに出された通帳に目が点になっていた。
最初、口座に振り込まれた10万コインは少し増えた後、一気に4万まで下落。
しばらく6万辺りと4万周辺を上下していたが、ある時からぐぐっと上昇していき・・・
「えっと、昨日時点で50万って読み方で良いんだよね?凄い成果だなぁ」
「そうよ~、やっとリズムが掴めて来たの~」
「んー、龍田さん」
「なにかしら?」
「作業的に座りっぱなしじゃない?肩凝りとか腰痛とか出てない?」
「大丈夫よ~、たまに班の子達に頼んで交代してもらってるし~」
「気分転換に演習や遠征かい?まぁ体を動かすには丁度良いかもね」
「いいえ、勿論出撃よ~」
「出撃!?」
「バッサバサ切り落とすとスッキリするわよ~」
提督と叢雲はごくりと唾を飲んだ。光景があまりにも解り易過ぎる。
「あ、あんまり無茶しないようにね」
「班の子達には迷惑がかからないようにしてるから~」
「それは良い心がけだけど、自分自身も大事にね。傷ついたらきちんと修理してるかい?」
「もちろんよ。あと・・文月ちゃん達はどうでした~?」
「そこなんだけどね龍田さん」
「・・やっぱり駄目だった~?」
「民間船の護衛とか幾つかやってみたけど、儲けにならなかったらしいんだよ」
「そっかぁ。護衛って着眼点は良いけど、長距離のタンカーや大型貨物船でも護衛しない限りは赤字よね~」
「タンカーはクエストに入ってるしね」
「大本営も押さえる所は押さえてるって事よね~」
「という状況だけど、どうする?龍田の所で人手が欲しいなら回すし、大丈夫なら班に混ぜるし」
「んー」
龍田はちょっと考えた後、
「あの子達なら頼りになりそうだし、しばらく手を貸してもらっても良いかなぁ?」
「良いよ。文月と不知火も必要なら手伝うと言ってたし」
「じゃあ私達3人はしばらく投資に専念するね~」
「元金として、花代の200万も使って良いよ。ただし追証含めて借金が膨らむ前に手を引いてね」
「解ったわ~、レバレッジは効かせるけど、元金は多い方が助かるわ~」
「ん。じゃあ名目上、龍田が班長で文月と不知火がメンバーで1班という扱いに戻しておくよ」
「当番内容が投資って事~?」
「そうだね。予実上は特命事項って書いておけば良いよ。あとは気分転換や休息も計画してくれるかな?」
「解ったわ。報告は今後も1ヶ月おきで良いかしら?」
「ペースとしてそれで大丈夫かな?」
「そうねぇ。急ぎなら個別に相談するわよ~」
「よし。あと、龍田」
「なぁに?」
「資金調達より龍田達の健康が大事だからな?いざとなれば放り投げて良いし責任は私が取る。のめり込むなよ?」
龍田はくすりと笑うと
「実際に投資をする時間は3時間も無いわ。後はほとんど情報収集だから~」
といったが、提督は目を細めると
「情報収集がどれほど大変かは元の職場で解ってる。触れる情報によってはそれだけで疲れるものだしな」
龍田はぺろりと舌を出した。
「あ・・そうだったわね。誤魔化せないな~」
「良いね?きちんと体調管理や気分転換をするんだよ?LV上げたりするのは二の次で良いからな?約束してくれ」
龍田はくすっと笑うと
「はぁい、解ったわよ~」
そう言いながら部屋を出た。
コツコツと提督棟の階段を降りつつ、龍田は微笑んでいた。
一旦は大損した事を咎められたり、逆に、もっと頑張れとノルマを課される可能性もあった。
気に入らなければ止めようと思っていたのだが、
「2名増員のうえ、念押しされたのが私達の体調管理じゃ、完敗かなぁ」
なんだろう。くすぐったい感じ。
嬉しい・・のかな。
だから・・
「提督の為に、本気出すのも悪くないかなぁ」
そう。
龍田は前から自己資金の一部を使って投資を行っており、今回の収支報告よりよほど良い運用をしていた。
今回通帳に記載された乱高下は全て計画的な物であり、あえて用意したともいえる。
要は大損や大儲けを報告した際に提督がどう反応するか、それを見る為の1ヶ月だったのである。
ガチャ。
龍田は提督棟出口のドアを開けた。
「二人には、情報の収集から手伝ってもらおうかな~」
ぎゅうっと背伸びした龍田は、まっすぐ文月達の寮に向かって歩いていった。
外は綺麗に澄んだ青空だった。
全くもって私的な話ですみませんが、母が心筋梗塞で昨夜入院致しました。
書きためた分がまだしばらくはありますが、締めるには幾つか足りない状態です。
ゆえに、リアルの成り行き次第では完結出来ないかもしれません。申し訳ありません。
もし宜しければ、母の早期退院を願って頂ければ嬉しく思います。