艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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エピソード37

そんなある日の事。

「へぇ・・そういう経緯かぁ・・」

提督は頷いた後、

「どっから来たんだろう・・」

と、首を傾げ、

「よく解らないのです」

と、当の本人である電も首を傾げつつ答えたのである。

 

それは、いつも通りの出撃だった。

「よしっ!今度こそ決めたぜっ!」

摩耶は敵艦の居た所で巨大な水柱が上がったのを見て、敵の轟沈を確信した。

天龍とハイタッチして喜ぶ摩耶を、少し離れた所から電は見て溜息を吐いた。

相変わらず会話に応じてくれそうな深海棲艦は一人も居ない。

提督に先日言われた事は重々承知しつつも、それでも戦いになる前に対話の意思確認だけはしようと考えた。

ただ、単独で深海棲艦達の至近距離に行くなど、艦隊行動を乱せば摩耶達に迷惑をかけてしまう。

さりとて戦闘態勢を整えた艦隊で近づけば深海棲艦達も兵装を展開して戦闘が始まってしまう。

電は長い事考えた挙句に

「お話したい人は来て欲しいのです!」

と、いう大きな旗を、遙か彼方、戦いの前にぶんぶん振る事にしたのである。

天龍は

「それだって危ねぇんだけどな・・まぁ、仕方ねぇか。弾飛んできたら上手く逃げろよ」

と言い、摩耶にも説明してくれた。

今日も先にそれをして、でもやっぱり誰も応じてくれなくて、ガッカリしつつ摩耶の指示通り魚雷を放った。

誰のが当たったのかは解らないが、最後の1体もこれで轟沈だろう。

「はぁーぁ・・」

電は深い溜息を吐いた。いつになったらお話出来るのでしょうか。

だが。

 

「電!避けなさい!」

「へっ?・・はにゃぁああぁぁああああ!」

咄嗟に硬直してしまった電を雷が突き飛ばす。

その直後。

 

ひゅぅうぅうぅぅう・・・ドボーン!

 

電が居た所に巨大な水柱が立ったのである。

直撃しなくても中破間違い無しという勢いの高さである。

「!?!?」

摩耶はとっさに周囲を見回した。

敵艦の姿はどこにも無いし、艦載機のエンジン音も聞こえないし、魚雷の航跡も無いし、レーダーも無反応。

なら、この水柱は何だ?

超長距離から戦艦が砲撃でもしてきたのか?どんだけの練度を積めばこんな芸当が出来るんだ?

いずれにせよ、今のアタシ達には全く打つ手が無い。

摩耶は身構えつつ言った。

「おい!全員撤退するぞ!最大戦速用意!」

その時、暁が天龍の服の裾を引っ張りつつ、もう片方の手ですいっと指差して言った。

「ね、ねぇ天龍・・あそこに誰か倒れてるわよ・・ね?」

天龍は見た。

丁度消えた水柱の中心部に、艦娘が一人、倒れているのを。

「んなにぃっ!?」

深海棲艦に吹っ飛ばされたのか?それにしたって何キロ先から飛んできたんだ?

未だに砲撃音すらしねぇし全く訳が分からねぇが、肝心な事はそれじゃねぇ。

「暁!助けてやれ!摩耶!撤退はちょっと待て!」

「任せなさい!」

摩耶は索敵を続けながら天龍に怒鳴った。

「どうしたってんだよ?早く逃げねぇと全滅させられるぞ!」

「艦娘が倒れてるんだ!救助するぜ!」

「・・は?どっから来たってんだよ?」

「さっきの水柱、そいつが海に叩きつけられたものかもしれねェんだ」

「はぁ!?あんな高さまで吹き上がるような距離で叩きつけられたら即死だろ!?」

暁の様子を見た電と雷も駆け寄っていった。

「大丈夫!?しっかりなさい!」

天龍は艦娘と暁達の様子を見ながら返した。

「どんな理屈かは解らねぇけどよ・・水柱のど真ん中に居た事は確かだぜ」

「訳解らねぇ・・とにかく急げ!撤退の用意は進めろ!敵がどこに居るか全く解らねぇんだ」

摩耶と天龍は何度も周囲を見ながら艦娘に近づいて行った。

やっぱり、ここらにゃもう誰も居ねぇ。

一体この子は、どこから来たってんだ?

二人が到着しても、艦娘はまだ目を覚まさなかったしピクリとも動かない。

それでも海に浮いている辺りはさすがという所か。

天龍は艦娘をしげしげと見つめた。

怪我が全くない。それどころか服も新しいし、装備もピカピカだ。

墜落のダメージが全く無い。

これじゃまるで・・建造したての艦娘じゃねぇか?

だが、ますます訳が解らない。

なんだって建造したての艦娘が、こんな海のど真ん中で、電を狙い澄ましたかのように降ってくるんだ?

全員無傷だから今なら護衛位出来る。この子を放っとく訳にはいかねぇ・・

摩耶は異常あり、撤退すると鎮守府に通信を入れた。

「よし、今日は引き上げる。天龍はコイツの曳航、暁は後方、電は右、雷は左、アタシが針路正面を警戒する。行くぞ!」

「なのです!」

「油断するな。護衛任務と思って対応しろ!音に気を付けるんだ!」

「はい!」

こうして摩耶達は降ってきた艦娘と共に鎮守府へと帰還したのである。

 

提督と電達が首をかしげている所に、工廠に連れて行った摩耶と暁からインカムで呼び出しがかかった。

艦娘が目を覚ましたというのである。

「んじゃ私も行くよ」

提督は腰を上げた。

 

「うーん・・えっと・・あれ?ここは?」

「ふむ。入魂処理は問題無いようじゃの。お前達、ご苦労じゃった」

皆がドタドタと走ってきた音を横耳に、工廠長は作業にあたった妖精達をねぎらった。

「工廠長!落ちてきた子が目を覚ましたって・・おおっ!起きたね!大丈夫かい?」

提督は工廠で今目覚めたばかりの艦娘である最上を見てそう言った。

最上は提督の顔を見るとにこっと笑い、

「僕が最上さ。大丈夫。今度は衝突しないって。ホントだよ?」

あっけらかんと笑う最上に、雷は一気にジト目になった。

「もうちょっとで電に直撃する所だったじゃない!」

最上はきょとんとして、

「へ?僕、何かしたのかい?」

と、返したのである。

 

最上に訊ねた所、記憶にあるのは、遙か昔の艦の記憶の次は、ここで目覚めた以降の記憶だという。

「だから、海原にどうして降って来たのかって聞かれても、僕にはさっぱり解らないよ・・」

そう言って最上が肩をすくめた時、工廠長がとりなした。

「いやいや、最上に聞いても何も知らんよ」

提督は工廠長に答えた。

「工廠長は何かご存じなんですか?」

工廠長は頷いた。

「建造は、建造する船種でリクエストをかけ、それに応じてくれた船魂にあった艤装や実体を作るんじゃが」

「はい」

「海原に突如、艤装と実体だけが出現する事があるんじゃよ」

「あ、それが今回の・・」

「うむ。降ってきたり、海から浮いてきたり、いつの間にかそこに居たりと色々ある」

「なるほど」

「いずれにせよ共通している事は、その時点では魂が無い、つまり意識も記憶も無いんじゃよ」

「あ、だから聞いても無駄なんですね」

「そうじゃ。今わしらがやったのは、最上の艤装と実体で良いという船魂が居ないかとリクエストしたんじゃよ」

「ほう」

「上手く折り合いが付けばこうして魂が入り目覚めてくれる。ダメなら残念ながら解体するしかないんじゃがの」

提督は頷くと、

「ならば今回は頼もしい援軍となってくれたんだから、早速最上のお祝いを・・・あれっ!?」

摩耶が怪訝な顔をして提督を見た。

「一体何だってんだよ提督?」

「最上さん・・うちに着任という扱いで良いのかな?」

工廠長は肩をすくめた。

「ずっと昔に何度かやっとるが・・その時は当該鎮守府の着任扱いじゃったと思うぞい」

「今もそれなら良いんですが、一応大本営に確認してきます」

提督は通信棟に向かって走り出した。

 

 


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