艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file04:教育者ノ適性(前編)

6月1日夜 提督室

 

「ふーむ。これは本当に凄い。まさに虎の巻だな。」

提督は綴じられた厚い紙の束から目を離すと、一人呟いた。

今朝、月次報告で妙高型4姉妹から教育資料が出来たと聞き、1日ずっと読んでいたのだ。

構成は艦種別かつ基本編と応用編がある。例えば戦艦応用編、といった感じである。

補足資料等も含めて20冊に渡り、極めて正確で実用的な情報であふれていた。

「私でも読む前より解った気がするから、艦娘達にとっては勉強になるだろうなあ」

「妙高達が持ってきた資料、読み終えたのか?」

今日の秘書艦は長門であった。

最後まで読むから先に帰って良いぞと言ったのだが、長門は

「主を置いていく秘書がどこに居る。警護の意味もある。案ずるな」

と、本を読みながら静かに待っていてくれたのである。

「たった今読み終えた。ああ、戦艦編を読んで思った事がある」

「なんだ?」

「長門は偉いな」

「えっ!?」

「これだけ多くの事を普段にしろ戦闘時にしろ捌いているのだろう?」

「ま、まぁその、イチイチ考えてるのではなく、覚えていれば自然と動けるからな」

「日頃からちゃんと鍛錬してないとそうはならん」

「かっ、からかうな!」

「からかってなどいない。尊敬してるんだよ」

「・・・提督は素だから困る」

「ん?何か言ったかい?」

「茶でも飲むかと聞いたのだ」

「煮込むなよ?」

「そっ、それは昔の過ちだ!」

「私はそのおかげで赤城に止めてくれと哀願されたぞ」

「どういう事だ?」

「いや、赤城を労う為に茶を入れようとしたのだが、長門から聞いた手順を言ったら」

「私が言ったと言ったのか!?」

「いや、長門から聞いたとは言ってない。手順だけだ」

「心臓に悪いから止めてくれ。私のイメージがどんどん崩れていくじゃないか」

「言ったら赤城があっさり変わってくれたよ」

「そりゃ、煮込むなんて言ったら変わってくれるだろう・・・」

「じゃあ本当はどうすれば良いんだ?」

「茶葉を、ぬるま湯でふやかすらしいぞ」

「時間はどれくらいだ?一晩とかか?」

「それでは湯が冷めてしまうではないか」

「じゃあ15分か?20分くらいか?」

「私も知りたいと思っていたところだ。折角だからやってみようか、提督」

 

25分後、提督室から

「にっ!にがっ!にがあああぁ!」

という2人の悲鳴を聞きつけたのは青葉であった。さすが強運の持ち主である。

 

 

6月2日昼 提督室

 

「お呼びですか、提督」

妙高型4姉妹が再び揃っていた。昨日と違うのは青葉と衣笠も呼ばれた事だ。

「青葉、ぜひお聞きしたい事が!」

「私へのインタビューは後だ。まずはこの資料だが」

提督は傍らの書棚を指した。そこには昨日届けられた資料がきちんと並んでいた。

「大変素晴らしい物だ。さすがは妙高型4姉妹、というべき内容だ」

「ありがとうございます。光栄です」

妙高が代表して応えた。

「ついては次の段階に進みたいのだが、まず青葉と衣笠に問いたい」

「なんでしょうか!?」

「1つは外部にここの教育の素晴らしさを伝える為、説明資料を作れないか?」

「お任せください!」

「もう1つは、実際に他の鎮守府を回ってPRする広報班を専従でやってみないか?」

「やります!」

「えっ!?」

青葉が即答したのを衣笠がぎょっとした目で見る。

「広報なんて天職です!今すぐ兵装を下ろせば良いですか?」

「気が早すぎるよ。それに兵装はちゃんと工廠に返してください。それと衣笠」

「はっ、はい?」

「ご覧の通りなので、どうか青葉のブレーキ役を引き受けてくれないだろうか?」

「・・・・・」

溜息を吐く提督と目が星になってる青葉を交互に見て、衣笠は思った。

こらアカン。私が居ないと結果は火を見るより明らかだ。衣笠は口を開いた。

「提督」

「なんだい?」

「受ける前にお願いがあります」

「聞こう」

「私を広報班長にしてください」

「もちろんだ。上司特権をバンバン使わないとブレーキが焼き切れるからな」

「仰る通りです提督」

「え~、衣笠が上司なの~?」

「言う事聞かないと資料として採用してあげないんだからね!」

「うえー、頑張りますー」

「さすが衣笠。すまないがよろしく頼むよ」

「はい」

「ところで提督!質問です!」

「さっきから聞きたそうにしてたな。何だ?」

「昨夜、提督室から絶叫が聞こえたのですが、あれは何が起きたのですか?」

「・・・黙秘権を行使します」

「えー、じゃあ仕方ないなあ」

「憶測でエンタメ欄に乗せたら文月に言いつけます」

那智が呆れたような顔をして口を挟んだ。

「提督、言葉に窮したからと言って、文月に言いつけても・・・なにっ!?」

那智の目線の先には提督に土下座する青葉の姿があった。

「すみませんすみません提督、文月様に言うのだけは勘弁してください」

那智は思った。今度から青葉に困ったら文月に相談しよう。

 

「ところで専従と言えば、妙高、那智、足柄、羽黒」

「何でしょう?」

「教育のやり方なのだが、専従化と現行の方法、どちらが良いか聞きたい」

「外部の受講生も呼ぶという前提ですよね」

「そうなるね」

「それであれば、専従化して特定の艦娘が講師になった方が良いでしょう」

「ふむ」

「今は先輩後輩の調子で和気あいあいと資料を作りながら教育も進めていますが」

「外部から来るとなるとケジメが必要であろう」

「し、資料をちゃんと覚えてる人が教えるべきだと思います!」

「資料も結構大量になっちゃったしね」

「だとして、だ」

「はい」

「まず君達は、講師として専従化しても良いかな?それとも代わりたいかい?」

「私は構わないわ。妙高姉さんはどう?」

「色々考えたけど、私も良いと思うわ」

「こ、講師役は緊張すると思いますけど、頑張ります!」

「1年以上かけて作った資料に愛着もあるのでな。引き受けよう」

提督はさらに質問した。

「君達は確定として、他に仲間を増やしたいかな?」

妙高が少し考えて、口を開いた。

「可能であれば」

「誰かな?」

「天龍さんと龍田さんを」

「えっ」

妙高以外の全員が聞き間違いかと思って妙高を見た。

「みょ、妙高さん・・・もう1度聞いて良い?」

「天龍さんと、龍田さんです」

提督室が静まり返った。

 

 


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