初代司令官の着任が一番古い時点で、提督の着任へと続き、龍田のサングラスはあらかた一章以降に続く基本体制が整った過去の1時点、そして今の話の状況はサングラスの時点から轟沈事件に向かって進行中です。
大討伐でLVがないと話にならないと痛感した艦娘達は、より多くの訓練を望み、傾注するようになった。
一方で提督はこの雰囲気に疑問を投げかけ、ついにある時から
「スポーツでもやり過ぎれば体を壊すんだよ。あまり過酷なメニューを課さないように」
と言い、更なる訓練強化の申請を否認するようになった。
しかし。
艦娘達は大人しく聞くふりをしながら、提督に隠れて自主的なトレーニングを重ねていた。
提督はある時から鎮守府の雰囲気に何となく違和感を感じ始めた。
全体に疲労感があるし、絆創膏やサポーターをしてる子が増えた気がする。
そこで、さりげなくドックで工廠長と雑談をして待ったりしていたが、証拠を掴めずにいた。
そんなある日の事。
「海の中からこんにちは~、ゴーヤだよっ!」
「ほうほう。これでようやくイクさんも寂しい思いをしなくて済むね」
「イクで良いの。でもその通りなのね」
伊58、通称ゴーヤと呼ばれる潜水艦である。
伊19の妹分に相当し、幸運と名高い雪風や瑞鳳に並ぶ運の強さを持っている。
伊19が当番で伊58の建造に成功したので、ようやく2隻目の潜水艦の着任と相成った訳である。
「良かったなあ。相部屋で良いのかな?」
「大歓迎なの!」
「伊19は勉強熱心だからね、色々教えてもらうと良いよ」
「そうなんですか!よ、よろしくお願いしますでち!」
「任せて!なの!」
提督はふと、手を顎に当てて考え込んだ。
今、秘書艦の長門はお使いで席を外しており、しばらく戻らない。
伊19と伊58は不思議そうに首をかしげている。
提督はちょいちょいと手招きをし、声を潜めつつ二人に話しかけた。
「あのね、伊19、伊58」
「なんなのね?」
「何でち?」
「機密保持と調べ物は、潜水艦の得意分野だよね」
「そうね」
「でち」
「君達を見込んで、極秘の指令を発しようと思うんだけど、受けてくれないかな?」
二人はピシッと敬礼した。
説明を終え、二人が出て行った後、提督は浮かぬ顔で窓の外を見た。
調査結果が揃ったら仕掛けてみるしかないなぁ。
こういうのは大本営に置いてきたつもりだったんだけど、こっちでも必要になるとはね・・
数日後。
「いや、何の話か解らないぞ、提督」
「そうかい?」
「そうだ」
ここは人払いをし、遮光カーテンを閉めた提督室。
真上から照らされるスポットライトは2人の人物を照らしていた。
応接コーナーに向かい合って座っているのは日向と提督。
だが、いつもの和やかな雰囲気ではなかった。
提督はテーブルに両肘をつき、顔の前で手を組んで言った。
「もう1度聞くけど、私が承認した以上の訓練や演習はしていないんだね?」
「そうなるな」
「・・・本当に?」
「ほっ、本当だ」
「ふうん・・」
提督は気だるそうな、じとりとした目線で日向を見た。
日向は表に出さないようにしていたが、内心はドキドキしていた。
日向、長門、そして神通の3人が艦娘達の特訓でコーチ役をしている。
特訓は、提督に申請してある基礎体力訓練の「前後」、つまり直前と直後に行っている。
基礎体力訓練は日向が起案し、提督承認済の訓練だ。
問題は特訓のほうで、提督非承認の上、隠蔽工作までしている。
艦娘達、特に各班長が班全体のLVを上げたがり、他の班に後れを取るなと競い合っていた。
日向達も訓練自体は悪くない、むしろ訓練に制限なしと皆を鼓舞していたが、うるさく言う提督に対しては徹底的な緘口令を敷き、発覚しないよう隠蔽工作をしていたのである。
日向は部屋に入った時、部屋の違和感以上に提督の雰囲気の違いに気づいていた。
目つきがいつもとまるで違う。
喜怒哀楽を真っ直ぐ顔に出す提督は百面相と言われているが、こんな表情は見た事が無い。
問いかけを止め、しばらく日向の表情を窺っていた提督は溜息を吐くと、
「ふむ・・じゃあ仕方ない。始めようか」
そう言って足元に置いていたスーツケースをテーブルの上にドンと置き、自分に向けて開いた。
スーツケースの蓋が日向と提督の間を遮る格好になり、日向には提督の首から上しか見えなくなった。
日向の不安が一段上がったのは、提督が上目遣いでこっちを見たからだ。
照明の加減なのか、半開きの目は心なしか光が鈍い気がする。
「さて・・日向さん」
「な、なんだ」
「まずは、工廠長から教えてもらった情報なんだけどね」
「あぁ」
「艤装は問題無いが、実体だけ怪我という治療件数が、2か月前に比べて4倍に増えたそうなんだ」
「そっ・・そうか」
ゴクリ。
日向は唾を飲んだ。
バレないと思っていたのに、何故気付いたんだ?
訓練を増やす程、疲れによる不注意から軽い怪我はしがちになる。
だが、実体だけの治療なら医療妖精のみの対応となり、ドックを使わないから記録に残らない。
艤装を外して訓練する事は隠蔽工作の一つだったのである。
提督は日向の目を見ながら続けた。
「基礎体力訓練のメニューは、私が承認した内容通りかな?」
「まぁ、そうなるな・・」
「安全は確保するよう念を押したよね?それに、何度か対策会議もしたよね?」
「う、うむ、そうだ」
「ならばどうして基礎体力訓練後の怪我の治療依頼件数が飛び抜けて多いのかな?」
日向は慎重に考えてから答えた。
「よっ、四倍になったのが・・全て基礎体力訓練後に集中しているのか?」
「・・いいや、あくまで累計だから、全ての時間だね」
「わっ、私の基礎体力訓練はメニューを変えてないし、怪我人も出していない、ぞ?」
そう。
基礎体力訓練の時間中に怪我をする子は居ない。
提督の言う通り何度も見直して手厚い安全策が取られているからだ。
だからこそ艦娘達から生温いといわれるのだが・・・
いずれにせよ特訓は基礎体力訓練ではないと、日向は自分に言い聞かせていた。
そうでないと自分を見る提督の目が恐ろしくてたまらない。
まるで獲物を狩る蛇のそれだ。
「・・ふむ。じゃあ別の所で怪我が増えてるって事だね」
「そうなんじゃ、ないか?よ、よく解らないが」
「そうかぁ」
「そうだ」
「じゃ次。基礎体力訓練の承認した書類がこれなんだけどね」
「うむ」
「私は紙の裏に連番を書く癖があってね」
ぎくり。
日向は飛び上がりそうになるのを必死にこらえた。
提督への隠蔽工作として、基礎体力訓練の開始と終了時間を記した紙を、特訓の時間を含んだ物とすり替えたのだ。
それは長門が行い、万事問題無しと言っていたのだが・・
「・・このページだけ、裏に連番が無いんだよ。ほら」
提督は首を僅かに傾げ、しかし日向をじっと見つめたまま、日向の前でゆっくりと承認書類を裏返して見せた。
隅の方に小さく記された連番は真ん中の1枚だけ抜け落ちており、番号が飛んでいる。
「表を見る限り、この3枚はセットだ。だがね・・真ん中の1枚だけ、連番が無いんだ。一体どういう事だろう?」
「しっ、知らない。私はその紙の表を書いただけだからな」
最初の基礎体力訓練時間の申請時とすり替え用の2回作ったが、両方とも日向が紙に書いたのは本当だ。嘘は・・吐いてない。
「すると、この2枚目の紙も筆跡は一緒のように見えるから・・日向が書いたのかな?」
「あ、あぁ。そうだ」
「間違いない?今、よく見てくれ。とても重要な事だからね」
提督は書類を再び返すと、スーツケースの蓋の手前ギリギリまで日向に寄せて見せた。
日向はじっと見た後、頷いた。確かに、すり替えた後の書類だし、筆跡から否定しようが無い。
「じゃ次。この写真をどう説明するのかな?日向さん」
提督が書類と入れ替えに見せたのは1枚のモノクロ写真だった。
だが、日向は歯を食いしばってのけぞった。
よりにもよってという、最悪の1枚だったからだ。
日向の頬を冷たい汗が流れ落ちた。
しまった。今までの発言が全て裏目に出てしまった。
どうしてそんな写真が撮れたんだ・・
~イベントネタ~
E1丙で明石・時津風探しを継続しつつE2丙攻略中。
E2丙は長門改・足柄・鬼怒・名取・加賀・日向でAFHIルート使ってます。
それにしても甲乙丙のレベル選択ありがたいですね。
これが無きゃ今回は正直パスしようと思ってたんで。