艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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エピソード50

うなだれる3人を前に、提督は言った。

「私が君達に、どうしてこんな詐称を混ぜた質問をしたかというとね」

「・・」

「勝手に特訓をやった事と同じ位、承認書類の捏造や差し替えをした事を私は怒ってるんだよ」

「・・」

「捏造や差し替えといった詐称はね、今君達が味わっているように、信頼関係を一気に崩しかねない」

「・・」

「だから2度としないで欲しい。私もやりたくない。これは全艦娘に徹底して欲しい」

「・・解った」

「解りました」

「もう・・やらぬ。こりごりだ」

提督は3人を見回した後、言った。

「で、だ。言い分を聞くよ。日向からは少し聞いたけど、言いたい事があるでしょ?」

沈黙を破り、口火を切ったのは長門だった。

「わ、私達は悔しかったんだ。大討伐で必達目標を達成するのさえ全力を出してやっとだった」

「・・」

「だが、提督は自主的な訓練を認めてくれなかった。何とかしたいという気持ちばかり募ったのだ」

「・・」

「偽りは認めるし謝る。だが、何とかしたかった気持ちは汲んで欲しい」

神通は続けて言った。

「大本営の指示をこなすのに我々が窮する有様では、提督に恥をかかせてしまうと思ったのです」

提督は頬杖をついて溜息を吐いた。

「やっぱりそうだよね・・そんな君達にここで重大なお知らせがあります」

3人は一斉に提督を見、提督はげんなりした顔で続けた。

「先の大討伐の件、私は中将殿に抗議の意図を含めた確認書を送ったんだよ」

「・・抗議、だと?」

「うん。先日着任した伊58と伊19に頼んで、もう1度作戦指示書を解析してもらったんだよ」

「なぜだ?」

「君達が言った通り、演習で他鎮守府を圧倒するのになぜ苦戦だったのか納得出来なかったんだ」

「・・そう、だな」

「そしたらね、まず司令官LVの着任時間算定が、最初の司令官からの通算で計算されていて」

「は?」

「過去の艦娘達の轟沈が計算に含まれていないんだ」

「え?」

「要するに、今まで1隻も轟沈せず、最初の司令官がやっていたらクラス6だって事なんだよ」

3人は絶句した。

現状はそこから確実に20隻少ない。

さらに、提督の実際の司令官LVは、最初の司令官から通算された公称LVよりずっと低い。

「それらを全部伊19達が計算し直したらね、我々のクラスは12で、作戦参加対象外だったんだよ」

「・・うそ」

「本来だったら我々は今まで同様、定期船護衛とかの後方支援のお役目だったのさ」

3人は死んだ魚のような目になった。

それじゃあんまりだ。全く笑えない。

「だから長門、我々が第1海域を制したのは、ありえない程の快挙だったんだよ」

「・・」

「勿論文月を筆頭とする高度な戦術と、君達の考える行動が実を結んだからだよ。奇跡じゃない」

「・・」

「で、その回答が今朝届いた。読んで良いよ」

提督が長門に渡したのは中将から提督個人宛とされた親書だった。

 

 提督殿

 貴所属伊19ならびに伊58の検証内容は、全て正である。

 貴鎮守府がクラス6とされたのは大本営戦略課の誤りである。

 原因は貴鎮守府特有の事情を補正せず通常の計算で対応した事にあった。

 大幅に実力を超えた任務を課してしまった事について深くお詫び申し上げる。

 詫びの印として、1艦君の鎮守府に着任させる。

 必要な書類も全て持たせるので、手続きを取って欲しい。

 なお、本件は他の動揺を防ぐ為、秘匿事案とする。

 一切他言無用にすると共に、本書も破棄願いたい。

 

3人は提督と同じような、げんなりした表情になった。

「また秘匿なのか・・」

「クラス12がクラス6並の働きをしたのですから、表彰の1つ位してほしいですね・・」

「提督、うちの鎮守府だけの事情なら、またこういう事がありそうだな」

「無いとは言えないけど、だからと言って怪我してもLV上げろなんて言わないよ?」

「んー」

「轟沈させないのは私の目標でもあるし、沈んだ20隻の意思でもあるんだからね」

日向は先日の一件を思い出してぶるっと震えた。

「あ、あぁ、そう、だな」

長門は手紙を指差しながら言った。

「ところで、この着任する1隻というのは誰なんだ?」

「私もそれしか貰ってないからねぇ。とにかく、特訓とやらは中止。良いね?」

「あぁ。大討伐の結果が恥ずべき内容でないのなら、事情は一気に変わってくる」

「その手紙を貸してあげるし、詳細は伊19達に説明してもらって良いから、皆にも伝えて」

「そうさせてもらう。特訓を中止するなら理由が必要だからな」

「むしろ始める必要が無かったんだけどね」

「そうは言っても、始めてしまった物を止めるには理屈が要るのだ」

「解るよ。じゃあ長門、日向、神通。ちゃんと皆を説得する事。これを今回の件に対する処置とする」

3人が眉をひそめて提督を見たので、提督は首を傾げた。

「なんか不服かい?」

「い・・いやその」

「それだけで・・良いのか?」

「営倉行きとか、班長降格とか、その、罰・・は・・」

提督は頬杖をついた。

「タイミングは遅かったけど君達は自白したからね。自白すれば罰は加えない」

「うぐ」

「それに、長門の言う通り動き出した皆は説得する必要があるし、それはそれなりに骨が折れる」

「・・」

「だから、導いた君達が責任を取って、ちゃんと後始末をしなさい。そういう事だよ」

「はい!」

「あ、日向は2枚目をちゃんと書き直してから説得に行く事」

「う。そうだったな」

「はい紙とペン。じゃあ長門と神通はよろしく!」

だが、長門も神通も席を立たなかった。

「・・うん?」

「我々は共犯だからな。日向が書き終えてから共に行く事を許しては貰えないか?」

「そうですよ。お待ちしてますから一緒に行きましょう!」

日向は長門と神通を見た。

長門と神通はにこっと笑い、こくんと頷いた。

提督は笑って頷いた。横の糸がきちんと通ってるのは良い事だ。

 

こうして、その日の夜に特訓の中止とその理由が伝えられたのだが、

「それって、無茶苦茶危ない橋を渡らされてたって事ですよね!?」

といった批判も出たが、

「私達はクラス6並の実力があるって事です!お父・・提督の指導は正しかったのです!」

「ま、私達の魅力がそれだけあるって事よね。悪くないわ」

と文月と叢雲が言ったので、そちらに同調する声が大きくなった。

この辺は艦娘の「力関係で上の言う事を尊重する」という常識が影響している。

実は、文月と叢雲にはこの集まりの前に長門から説明し、そう言うように頼んだのである。

「否定的な意見が幾つも出れば場が収まらなくなる。すまないが工作に手を貸して欲しい」

と、頭を下げる長門に対し、

「別に嘘つく訳じゃないし、お父さんを助ける事になるから良いですよ」

「あんたも大変ね。ま、事前に言ってくれたからヘルプしやすいわ。任せておきなさい」

と、二人はニッと笑って答えたのである。

 

この一件を通じ、艦娘達は提督が書類を見ている意味を知った。

また、提督を向こうに回すと酷く厄介な事になると痛感した。

ゆえに、今後提督に内緒にする要件基準を引き上げた。

そして、どうしても内緒にせざるを得ない場合は徹底的にチェックする事を申し合わせたのである。

ただし日向は

「もう提督の追及を受けるのは真っ平御免だ。内緒話には加わらないぞ」

と、青ざめた顔で首を振り続けたのである。

 

数日後。

「あの写真、役に立ったのね?」

「そうだね。あれが決定的な証拠だったからね。ありがとう」

伊19は提督の肩を揉みながら言った。

「提督と私だけの秘密が出来たのね」

提督は溜息をついた。

「あんまり、こういう事が起きて欲しくないんだけどね」

「日向が言ってたの。提督が怒ると物凄く怖いって」

「んー、あれは怒りというより技能なんだけどね。まぁ、予定通りなんだけど」

「技能?」

「うん。昔、私が居た職場で覚えざるを得なかったんだよ」

「・・あんまり良い思い出じゃないのね?」

「そうだね。隠したい真実を引きずり出す仕事って、結構しんどいんだよ」

「そっかぁ・・」

「でも、人も、艦娘も、様々な理由で真実を隠す。それは弱さから来るんだよ」

「・・」

「過ちを隠したいとか、恥ずかしいからとか、色々な弱さがある」

「・・」

「事故なんてほとんどが何らかのミスだけど、大体最初は真実を隠して報告してくる」

「・・」

「だからあの手この手で揺さぶりをかけて聞き出すしかなかったんだよ」

「・・」

「真の原因が解らないと対策なんて取れないし、うやむやじゃ後世の為にならないからね」

「でも、話すのが怖いって気持ちも解るのね」

提督は頭を後ろに傾け、背後の伊19の頭とコツンと当てた。

「その通り。私だって不都合な事を積極的に言えないし、言わされたと思う方がマシなんだよ」

「え・・じゃあ提督は、わざと言わせたという風にしたの?」

「そうだよ。私が怖いから本当の事を言っちゃおうという方が皆が楽ならそれで良い」

「・・だから、技能、なのね」

「この技能を覚えるのは苦労したし、使う度にひどく疲れるし、ばれちゃいけないからしんどいよ」

「・・」

「だからこの役回りは私だけで良いと思ってる。他の誰にもさせたくない、嫌な役だよ」

「・・」

「いずれにせよ、私は一緒に仕事してくれる仲間はトコトン信じたいんだ」

「・・」

「面従腹背の軍の中で、せめてここだけは互いを心から信じられる雰囲気にしたい」

「・・そっか」

「今回は面倒な役を頼んで悪かったね、伊19」

「気にしなくて良いのね。提督の願いは、間違ってないのね」

「皆もいつか、解ってくれるかなぁ」

「大丈夫なのね」

「そうだと良いんだけど・・」

「イクは、ずーっと、提督の傍に居るのね」

「無理するなよ。恐れられるのは私だけで良いんだ」

「はーい。でも、調べ物があればいつでも言って、なの」

「任せたよ」

伊19と提督は目を瞑って頭を合わせたまま、しばらくじっと動かなかった。

 

「・・そんな事だろうと思ったわ」

提督室の扉の外で、龍田は納得したように小さく頷いた。

そしてふふっと笑うと、自分の事務所へと引き返していった。

聞きたい事は聞けた。謎は解けた。

文月と不知火にも、この事を知っておいてもらいましょう。

私達3人で当たれば何とかなるでしょう。

「組織の規律維持役を1人で背負うなんて無理よ、提督」

ほんと、お人よしなんだから。

 




~イベント情報~
バケツ100杯、全資源4万ほど費やしてE4まで攻略完了。
勿論全て丙ルートです。
E3までバケツ50杯位で済んでたので、E4はかなりダメージ大きかったって事ですね。
あ、E5は行きません。
だってWikiに「最終形態になってから本番です」とか書いてありますもの。
嫌な予感しかしないうえに、今うちの鎮守府の資源は全て7000切ってますんで、どう考えても無理です。はい。

それに、現時点で香取、U-511、時津風、明石、巻雲、朝雲、浦風、大鯨をお迎え出来ましたので、私的には充分でございます。
つい先日、膨大な資材と引き換えに開発成功した伊8までドロップしたのは苦笑しましたけども。

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